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第86話 それって褒美なんですか?

お待たせいたしました。

 美味そうな匂いが風によって大通りに運ばれてくる。

 その匂いにつられて、人々は食堂へ入る、または屋台で買い食いをしている。

 そんな多くの人たちが食事に舌鼓を打っている昼時、ギルドの入り口前には一台の煌びやかな馬車が停まっていた。


「アテナの寵児の皆さんですね。どうぞお乗りください」


 馬車の中から丁寧に折り目の付いたタキシードを着た身なりの良い老紳士が軽やかに降車、流れるような会釈をして僕たちを迎える。

 その馬車の外装には王国の紋章が大きく描かれており、どこの所属の馬車なのか一目でわかる仕様になっていた。


「えっと――、その前に、僕の相棒なのですが、連れて行ってもかまいませんか?」


 僕は頭上に乗っているミウを撫でながら老紳士に質問する。


「かまいません。我が王は懐の広いお方ですから」


 その許可を受け、僕たちは馬車へと乗車する。

 タラップに足をかけ、ミサキ、アリア、僕(+ミウ)の順で中に入る。

 内部は四人掛けのソファーが向い合わせになっている構造で、僕たちの正面には先程の老紳士と護衛のような人が一人乗車していた。

 護衛と言っても特にごつい鎧はつけておらず、脇に帯剣しているのみの軽装である。


 御者の合図と共に馬車が進みだす。

 正面に知らない人がいる為にミウやアリアも大人しく、室内は無言のまま時だけが過ぎていった。





 巨大な城門を見上げながら、馬車はそのまま内部へと入城、視界にはタイルのように敷き詰められた石畳、さらにその先には噴水が虹を描いているのが映る。

 噴水を回り込むように馬車は進み、暫くして静かに停車した。


「お待たせいたしました」


 老紳士が馬車の戸を開け、僕らに降りるようにと促す。

 先に僕が降り、アリア、ミサキと続く。


「ここからは私がご案内いたします」


 待機していた若い紳士が老紳士の後を引き継ぎ、僕らを城内へと導く。

 真っ赤な絨毯が敷いてある広い廊下を、紳士の後に続きながら進む。

 そして通されたのが無数にある部屋の中の一つ、どうやらここで待てということらしい。


 中央にある透き通ったテーブルと備え付けられた柔らかそうなソファー。

 壁には見るからに高そうな絵画が掛けられ、隅にはこれまた高そうな壺が飾られている。

 奥の壁は全面ガラス張り、そこからは先ほどの噴水を含む庭園が一望でき、その緑一色の景色はとても目に優しい。


「うわ〜! 家のと同じくらいふかふかだよ!」


「ちょっと疲れたの」


 案内の紳士が扉の外に消えたのを見計らって、ミウとアリアが始動する。

 ミウは早速とソファーに飛び込み、アリアは今までの緊張感からかソファーに崩れ落ちるように腰を掛けた。

 僕も馬車内で窮屈な体制でいたせいか少々疲れた。

 もちろん緊張と不安のせいもあると思う。


「ミサキは平気そうだね」


「……問題ない」


 ミサキは変わらずいつも通りマイペース、基本小市民の僕には出来ない芸当だ。

 その度胸といい、どこかのお嬢様だったりするのだろうか?


「失礼します」


 ドアのノックが室内に響き、一人の少女が入室する。

 白いカチューシャを頭に乗せ、青を基調としたワンピースの上からフリルの付いた前掛けをつけているその少女はどこからどう見てもメイドさんだ。

 ――リアルなメイドさんは初めて見た。


「いたたっ!」


 僕のお尻に激痛が走る。

 振り向くとミサキがジト目でこちらを見ていた。


「あの〜、どうかされましたか?」


 紅茶の用意をしてくれていたメイドさんが、首を傾げながら僕に質問してきたが、答えたのはミサキ。


「……気にしないで。……よくある発作」


「はぁ……」


 その回答に納得がいかないながらも関わってはいけないことと感じたのか、用事を済ませそそくさと退場するメイドさん。

 なるほど、メイドさんにはそんなスキルもあるんだね。


 メイドさんが退室したところで、僕はミサキに文句を言う。


「ミサキ、何もしてないだろ!」


「……見惚れてた」


「いや、珍しいなって思ってただけだから……」


 何かとチェックが厳しいと思う。



 僕らがテーブルの上の紅茶を飲み終わる頃、再びドアがノックされた。


「お待たせいたしました! ご案内いたします!」


 現れたのは頭部以外完全防備の騎士が二人。

 僕たちは彼らの後に続き、長い廊下を進む。

 階段を上り、更に廊下を歩くと目の前には大きな扉。

 さて、いよいよだ。


「失礼します! アテナの寵児のメンバーをお連れしました!」


「うむ! 入れ!」


「はっ!」


 扉が開き、僕らの視界に入ってきた光景はまさにファンタジー。

 高い場所に備え付けられている左右の大きな窓からは外からの日差しが降り注ぎ、余すところ無くその空間を照らしていた。

 両脇にある柱の手前には三人、豪華な司祭服を着た男とごつい鎧を着た騎士、さらには官僚のような男が立っていた。

 柱の奥には護衛と思われる騎士たちが十数人、直立不動で控えている。

 そして中央に走る真っ赤な絨毯の続く先には玉座があり、もちろんそこには真紅のマントと王冠を身に着けた一人の男。

 年とって尚その精悍さを失っていないこの人こそ、ガルド王国の国王であることは間違いない。


 僕たちは案内に従い前へと進み、ミサキに習って一礼をする。

 何故かって……、それはもちろんこのような場所での風習などミサキ以外は知らない為だ。


「よくぞ参られた、勇者殿とその仲間たち! 余がガルド王国の国王であるリベリアである。先ずは畏まらずに楽にしてくれ! まさか私の代でこのような幸運に恵まれるとは、余は大変幸せ者である!」


 いきなり勇者認定、その言葉に僕は暫し固まってしまう。

 一瞬の停滞の後、漸く再起動した僕の頭は何とか否定の言葉を絞り出す。


「恐れながら、私たちは勇者などという大層なものではありません」


「いや、そのような事は無いであろう。ゴードンから報告では、災害級の悪魔を一撃で倒す聖光、それにかの悪魔は女神様の加護という言葉を漏らしたと聞く。勇者殿で間違いあるまい、のう、枢機卿」


「はい、仰る通りかと」


 司祭服の男が国王の言葉を肯定する。


 う〜ん、困った。

 まさか何処かのファンタジーゲームみたいに魔王を退治しろとかの流れではないよね。


「いえ、恐らく何かの間違いです」


「ふむ、そこまで言うのならこの事は余の胸の内に留めておこう」


 いや、それって納得してないってことだよね。

 そんな僕の気持ちに構わず、国王は言葉を続ける。


「それと、今回の功績に対して褒美を取らせたいのだが、何か欲しいものがあれば遠慮なく申してみよ」


 この流れでいきなり褒美といわれても何も思いつかない。

 色々なことが有り過ぎて頭が混乱している僕に変わって、ミサキが国王に進言する。


「……恐れながら、土地を頂きたいと思います」


「ほう、土地とな……」


 ちょっ、ミサキ!?


「……はい。……可能でしょうか?」


「いや、問題ないぞ! そなた達がこの国の土地持ちとなれば箔がつく。――ローレン!」


「はっ! それでしたらフィール地方の一角がよろしいかと――」


「ふむ、だが確かあそこは……」


「はい。ボストールの街の跡地となりますが、勇者様ならば必ずや再開発可能でございましょう」


 国王は暫し考えたのちに決断を下す。


「よし、決まりだ! 早急に手続きせよ! それと勇者カナタ殿、そなたにこの国の名誉子爵の位を授ける」


「いや、それは……」


 戸惑う僕に対して、国王は畳み掛ける。


「これは土地の統治には必要であろうただの名誉職、義務は何もない。そなたをこの国に縛るものではないので安心して受け取ってくれ」


 何故統治って話になっているのか理解がついて行かない。

 だが、どうやらもう流れ的に否定できる雰囲気では無いようだ。


「――謹んでお受けいたします」


 僕はそのままの流れで貴族勲章を王より受け取る。


「余も勇者殿との縁を結べて嬉しい限り。これからもよろしく頼むぞ」


 だから勇者じゃないっての!

 


 国王との謁見が終わり、何人かの官僚っぽい人と別室で色々な細かい話をすることとなる。

 先ずは土地について――

 王都の南東、ベラーシの南、コルメラ平原よりもさらに南にあるフィール地方。

 そこには廃墟となった街が存在している。

 何でも南方のピューレ山脈から降りてくる魔物が強く、さらには王都から遠いせいで戦力の補充もままならなず、冒険者の集まりも悪い。

 その為、やむなくその土地を捨てたのだそうだ。

 コルメラ平原手前までであれば、開発して構わないとのこと。

 地図を渡されて、ここからここまでとの説明を受けた。

 

 続いて爵位について――

 一代限りの名誉子爵。

 国王様の言っていた通り、王国に対する義務は一切発生しない代わりに給金も出ない。

 開発が成功して街や村ができても、税については一代限りは免除するとのこと。

 後は、この国のすべての街や村へフリーパスで出入りできるとのことだが、これについてはギルドカードを持っている僕たちにはあまり関係が無いように思えた。

 貴族でしか入れないところでもあれば別だが、あっても今のところ用は無い。


 そして、その他細かい取り決めを一つずつ確認、最後に支度金を貰って漸く話は終わった。


 僕たちは王城に別れを告げる。

 そしてイデアに戻り――、


「ミサキ、どうするんだよ! 家じゃなくて土地、しかも街を丸ごと貰っちゃったじゃないか!」


「……無問題。……行き違いは良く有ること」


 王都の土地ではなく、領地を貰ってしまった。

 その事に対し、ミサキは慌てる僕とは対照的に、どこ吹く風で落ち着いている。


「しかも魔物が強くて撤退した街って……、絶対あの王様は僕らを過大評価してるよ!」


「……恐らくそれ程でもない。……今回の事も、万が一開発が成功したら儲け、どちらに転んでも王国の懐は痛まないという心算」


 そういう計算もあったのか!?

 魔王がいないときの勇者の使い道なんて限られているってことね、……政治家って怖いなぁ。 

 もちろん僕は勇者じゃ無いけど……。


「……体の良い押し付けでも、こちらとしては好都合」


「好都合って?」


 ミウが無邪気に聞いてくる。


「……イデアと繋げる」


 何やら大きな計画になりそうだ――


ご意見・ご感想お待ちしております。

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