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第85話 解決したけど……

「カーチス、シド、前衛に出ろ! 総力戦だ!」


 後衛として後ろの警戒をしていた騎士の二人をゴードンさんが前衛に呼び戻す。


「喰ラエ! *※×-※!」


 だが、それを何もせずに見送るデーモンロードではない。

 その右手を横に大きく払うと、目の前に高い炎の壁が床から吹き上がる。

 巨体に似合わぬ素早い動作に反応できず、一人の騎士にその炎が直撃してしまう。


「スコット!!」


 デーモンロードの攻撃は終わらない。

 右手を戻す動作による裏拳がゴードンさんを狙う。

 その拳をそのまま受けることは不可能と感じたのか、ゴードンさんはそれを後方に飛び退いて躱し、拳が通り過ぎたところで逆に前方にステップ、デーモンロードの懐に入った。


「秘剣、五月雨斬り!」


 その名の通り、雨霰のような無数の斬撃がデーモンロードを襲う。

 左手でガードをするデーモンロードだが、それでも何発かはその身体に命中する。


「ムウ……、人間ニシテハヤリオルガ、悲シイカナ威力ガナイ。コノヨウナ攻撃デ我ヲ何トカ出来ルトデモ思ッテイタトシタラ、随分舐ラレテイタモノヨ。――フン!」


 デーモンロードの気合の掛け声と共に胸板の筋肉が収縮し、胸板に出来た傷を塞ぐ。

 だが、ゴードンさんもあの攻撃で倒せるとは思っていなかったようだ。

 その主な狙いは時間稼ぎ、その攻撃の間にスコットさんは後方へと運ばれ、ソフィアさんにより治療を受けている。


「どおおっせい!」


 カシムさんの気合の入った一撃、騎士たちの攻撃もその後に続く。

 それを受け止めたのは上腕部分に展開した盾のような魔法陣。

 その腕を振り払うようにしてカシムさんたちを弾き飛ばす。


 僕は黒曜剣に聖属性を這わせ、魔法で身体能力も強化する。

 攻撃に移ろうとする僕の背後から牽制の魔法と弓が飛んできた。

 恐らくはミウとアリアのものだろう。


 デーモンロードは両手をクロスさせてその砲弾を受ける。

 その隙に、僕はガードされていない下半身に向かい、白く輝く軌跡を描く。


「グムッ!」


 黒曜剣が右足の脛部分を切り裂く。

 デーモンロードはそのダメージに膝をついた。

 だが、攻撃はまだ止まらない。

 僕が後方に飛び退くと同時にミサキの詠唱が完成、炎の渦が敵を包む。


「グアアアアッ!」


 その影の様子から渦の中でデーモンロードがもがく姿を確認、思ったより効いている。

 災害級と聞いていたが、これならば何とかなるのではないか。

 ゴードンさんを始めとした騎士たちも、その結果を固唾を呑んで見守る。


 そして炎が晴れ、ぷすぷすと煙を上げて立ち尽くす黒焦げの巨人。

 しかし、表面の微かなひび割れに呼応するかの様に無数のひび割れが出現、焦げの中から再びデーモンロードが姿を現した。

 その表情には先ほどまでの余裕はない。

 

「ヌウ……、感ジルゾ。コレハ間違イナク忌ワシキ女神ノ力……。マサカソノ手先ガイタトハナ。コウナレバ我モ本気ヲ出サザルヲ得マイ。覚悟スルガ良イ!」


 デーモンロードは肘を畳み、手の甲をこちらに見せ、何かを引き絞るかのように力む。

 その身体は褐色から燃えるような赤に変わり、顔には無数の黒い筋が浮かんだ。


「フハハハハ! コノ姿ニナッタカラニハ、オ前タチノ敗北ハ確実。覚悟スルガ良イ」


 デーモンロードが気炎を吐く。


「くっ! こいつは不味いかもしれん。せめて対悪魔用の装備でもあれば別なのだが……」


 ゴードンさんが悔やむように呟くのを尻目に、僕の詠唱が完成する。


「聖なる光よ、悪しきものを浄化せよ! 聖なる領域ホーリーフィールド!」


 デーモンロードが変身、講釈をたれている間に唱えていた聖属性上級魔法。

 敵を包むような淡い光、それが何時しか押し込められていた星たちが解放の喜びを訴えるかのような目の眩む輝きとなる。


「グオオオオオオッ!」


 デーモンロードの苦しみの叫びが聞こえるが、まだ終わらせない。

 僕は魔力を限界まで放出した――。






 部屋に静寂が訪れていた。

 僕はそのままその場で尻餅をつく。

 光の奔流は何時しか消え、その場に残っていたのは大きな角が二つ。

 それがデーモンロードのものであるのは、誰が見ても明らかであった。


 後方からミサキたちが駆け寄ってくる。

 その勢いを殺さずに飛び込んできたミウを、僕はその胸に抱えるように受け止めた。


「やったね、カナタ!」


「……お疲れさま」


「凄いの! 一瞬だったの!」

 

 アンデットに苦戦した経験から取得しておいた、覚えたての聖属性上級魔法。

 まさかすぐに使うことになるとは思わなかったが、上手くいって良かった。


「カナタくん……、君は一体……」


 ゴードンさんが僕をじっと見て呟く。

 その独り言ともいうべき問いに、ミサキが答えた。


「……魔法が主力のただの冒険者。……それ以上でも以下でもない」


 その言葉に、ゴードンさんは軽くため息をつき――、


「そうか……。だが、このことは国王陛下にも報告させて頂く」


 報告か……。

 面倒なことにならなければ良いが――。

 

 召喚の触媒となった杖は無事に特隊に回収された。

 結局、カストールの狙いは何だったのかはわからず仕舞い。

 自らの欲の追及のような気もするが、それを確かめる術はもう無い。

 何しろ、本人がもうこの世にいないのだから――。


 だが、王都の危機を未然に防ぐ事が出来、お宝も無事戻った。

 一件落着ということにはなるのだろう。




「君たちには近々王城からの呼び出しがあると思う。その時にまた会おう」


 そう言うと、特隊のメンバーは颯爽と王城へと戻っていった。

 僕たちは、青龍の牙のメンバーと一緒にギルドへと向かう。

 その道中――、


「しかし、あの魔法は凄かったな! 一瞬で悪魔が消滅とか……」


「いえ、たまたま相手の苦手属性を突いたというか――」


「ううん、あの威力はそれだけではないわ。どうやったらあんなに高威力が出せるの」


「はあ……」


 青龍の牙の人たちの追及に、僕は言葉を濁す。

 さすがに貯めたポイントで簡単に習得しましたとは言えない。

 そんな中、漸くギルドへと辿り着く。



 ギルドマスターへの報告は思っていたより簡単に終わった。

 特隊が駆け付けたことも先に情報として入っていたようだ。

 ただ、青龍の牙が話した僕やミサキの魔法には興味を示されたが――、


「ふん、まあいい。これから大変なことになるのは目にみえている、何もここで追及することもあるまい」


 報告会はそんなギルドマスターの不穏な言葉で締められたのだった。





 そして翌日、ギルドに訪れた僕たちを待っていたのは招待状。

 差出人は国王名義で、明日、褒美の授与を行うとの旨が書かれていた。

 来るとはわかっていたが、いざ来てみると問題が沢山ある。


「ミサキ、こういうのって、正装が必要なの?」


「……私たちは冒険者。……問題ない」


「カナタ、アリアはどうするの?」


「う〜ん。姿を変える魔法ってあったっけ」


「耳だけなら何とかなるの」


「魔法を追及されたらどうしよう。デーモンロードが余計な事を言ってくれてたよね」


「惚けるしかないんじゃない」


「ミウは入れるの?」


「もちろん、仲間だからね」


 とにかく隠し事が多い僕たちは、皆で色々と事前に話し合う。

 出来れば何事も無く終わってくれることを願おう。 


ご意見・ご感想お待ちしております。

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