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第84話 召喚

「あったぞ!」


 屋敷の探索を始めてから数十分、騎士の一人が地下への階段を見つける。

 屋敷の地上部には今回の事件に関しての怪しい物は無く(ただの怪しい物であれば山ほどあったのだが……)、僕たちは地下への突入を余儀なくされる。


「カシムくんとスロット、モーガンは前衛、それとロッドくんも前衛で罠の警戒に当たってくれ。カーチスとシドは最後尾で後方の警戒、カナタくんと私は遊撃だ。ミサキくんとアリアくん、それとソフィアくんは後方からの攻撃をメインに行ってくれ」


 混成メンバーのリーダーとなったゴードンさんから陣形の指示が飛ぶ。


「カナタ、ミウは?」


 自分の名前が呼ばれなかったことに対し、ミウが僕に不満を漏らす。


「ミウは僕と一緒に動こう。頼りにしてるよ」


 そう言ってミウの頭を撫でる。


「うん、任せといて!」


 僕の後頭部にぺちぺちと尻尾が当たる。

 どうやら相棒のご機嫌は直ったようだ。



 隠し階段を降りた先は、真っ直ぐ一本道の地下通路であり、光る石の壁がぼんやりと辺りをを照らしていた。

 光量が少ないためにその先は見えず、何が待ち構えているかここからでは確認できない。


「魔法で照らしますか?」


 僕はそう提案してみた。


「いや、やめておこう。気付かれていないことは無いと思うが、念のため……ね。――それと、ロッドくん、どうだね」


 ゴードンさんは辺りを隈なく調べるロッドさんに声をかける。


「ああ、罠とかは特に無いようだ」


「よし、進もう! だが、くれぐれも慎重にな」


 僕たちはゆっくり周りを警戒しつつその道を前進した。


 途中、小部屋が二つほど存在していたので、そこも調査を試みるが、特に何も無く無駄足となる。

 そして今、僕たちの目の前には壁があり行き止まり、そこには脇道も存在していなかった。


「ふむ……、どう見るね」


「見るからに怪しいな。いっそぶっ壊してみるか」


「待ってくれカシム。今調べているから……。うん、これか」


 何の変哲もないと思われた壁の一部をロッドさんは軽めに剣の柄で叩くと、その部分が蓋のように開き、中には赤い石が埋め込まれているのが見えた。


「誰かこれに魔力を通してくれないか?」


「ちょっと待ってなさい」


 前に進み出たソフィアさんがその石に手を当てると、僕たちの行く手を塞いでいた壁が横にずれるように移動し、先への道を出現させた。


「よし、先を急ごう!」


 隠されていた道は今までの物とは異なり、何の舗装もされていない。

 床、壁共に土が剥き出し、その様相はまるで洞窟のようだ。

 その道はさらに奥まで続いている。

 

 その存在に特隊のメンバーも驚きを隠せないようだ。

 それもその筈、王都の地下にこんなものが掘られているとは誰も想像できないだろう。

 下手をすれば王城や重要施設への侵入を許してしまう。

 王国を守る人間として決して容認出来ぬ物であることは確かだ。

 

 そんな時、突然正面の地面が盛り上がり、何匹もの魔物たちが顔を出す。

 ワームの小型版のようなその魔物は、うねうねとくねりながらその場を飛び出し、僕たちに襲い掛かる。


「地虫か! 油断するなよ!」


「「「「はっ!!」」」」 


 ゴードンさんの掛け声に、他の特隊のメンバーが元気よく返答、ロングソードを片手に構え、そのまま地虫に斬りかかる。


 前線がほどよく密集しているため、今回は前衛のみでの戦い、幸いにして後方からの攻撃は無いようだ。

 僕も遊撃として前衛と供にその攻撃に参加する。

 斬りつけた後に吹き出す緑の液体を躱しながら、次々に湧き出る地虫を仕留めていく。

 数は多いがそれほど強い魔物では無く、時間と共に着々と成果を上げる。

 ふと見ると、ゴードンさんの周りには一段と高く屍の山が出来上がっていた。

 その剣尖の流れはとにかく速く、僕も目で追うのがやっとだ。

 さすが特隊の隊長は伊達では無い。


 地虫の発生が漸く止まり、僕たちは再び奥へと進む。

 地虫との戦闘での体力の消耗は少なく、時間も限られているので先へと急ぐ。


「ん!? 何かね?」


 ふと、ゴードンさんに声をかけられた。

 どうやら僕が無意識にじっと見ていたようだ。


「いえ、さっきの戦闘とか、流石だなと思いまして……」


「いや、私などまだまだだ。上には上がいることを知っているからね」


 僕の褒め言葉に、ゴードンさんはかぶりを振る。


「元騎士団長とかいう人ですか?」


 そういえば――と、僕はマリアンさんの話を思い出した。


「ほう、良く知っているな。まあ、あの人は有名だから当然か。腕が上がれば上がるほど差がわかってしまってね。恐らく今の私ではかすり傷を負わせるのが精々だろう」


「強い人だったんですね」


 本気ではないにしても、先ほど見た剣技は見事なものだった。

 その人が本気になってもかすり傷しか負わせられないとは……。


「ふむ。私から言わせれば人間では無い何か……といったところか。そう言えば君の剣筋もあの人に良く似ている。筋は良さそうだからこのまま頑張れば君もかなりな腕になれると思うぞ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 特隊の隊長のお墨付きとなれば嬉しい。

 これからも日々の訓練を欠かさない様にしよう。



 その後、二度の魔物の襲撃を突破し、今僕たちの目の前には洞窟の景観には似つかわしくない扉が現れている。

 その向こうからは何か禍々しい雰囲気が漏れているように感じるのだが……。


「カナタ……、何か嫌な感じがする」


 どうやらミウにもそれが感じられたようだ。

 ロッドさんが罠が仕掛けられて無い事を確認し、その扉を開く――。





 そこは異様な光景。

 部屋というよりは広間というべき広さを持ったその空間の一面の壁には青白く光る紋章がぼんやりと浮かんでいた。

 いくつかある木製の棚には何かの贓物が所狭しと瓶詰めにされて飾られており、部屋の最奥には石造りの寝台のような物が設置されている。

 その長方形の寝台の上には古ぼけた杖が置かれ、その先からは薄らと赤い光が漏れていた。

 そして、それを眺めるかのように傍らに立っている男が一人、深くフードを被っているため、その男の顔は確認できない。


「ようこそ、侵入者の諸君。歓迎するよ」


 フードからちらりと見える口元を歪め、男は薄ら笑いを浮かべる。


「カストールだな。そして、そこに置いてあるのはアラーナの杖、返してもらおう。悪いがお前にも来てもらうぞ」


「ふあっはっはっはっ!」


 そのゴードンさんの言葉を聞き、狂ったように高笑いをするカストール。


「私を捕まえる? 残念、一足遅かったな。術式は完成、これで私は最高の下僕を手に入れるのだよ。――さあ、出でよ! デーモンロード!!」


 その号令に呼応するかのように床に黒い大きな穴が出現、そこから這い出てくるのは褐色の巨人。

 羊のように丸まった二本の角に鋭い目、筋肉質な身体から伸びるその腕は丸太のように太い。


「ふあっはっはっ! わかるかね、この力が! ――さあ、デーモンロードよ! 目障りなこいつらを片づけてしまえ!」


 しかし、デーモンロードはその命令に対して微動だにせずその場に佇む。


「何をしている! 私は召喚主だぞ! 命令が聞けんのか!?」


『フン、聞ケンナ。ナゼ我ガ矮小ナ人間ノ言ウコトヲ聞カネバナラヌ』


「何!? どういうことだ!?」


 カストールはフードを自ら捲り上げ、信じられないといった表情を周囲に晒す。


『ダガ、我ヲ呼ビダシタコトハ称賛ニ値スル。褒美ニ苦シマズニ殺シテヤロウ』


「そんな馬鹿な! 私の理論は完ぺきなはず! ありえ――、ぐはっ!!」


 その広げられた大きな掌から発生した空気の刃が、カストールを無残に切り刻む。

 事件の主犯ともいうべき男は、何ともあっけない最期を迎えた。



「皆、デーモンロードは災害指定クラスの魔物。全員で対処する。くれぐれも油断するな!」


 ゴードンさんの言葉に皆息を飲む。

 ここからが本番、ガーゴイルの時のような轍は二度と踏まない。

 せめて皆だけは守らなければ――。


 デーモンロードはそんな僕らに視線を向け、馬鹿にしたように鼻で笑う。


『何ダ、ヤルノカ人間。マア、コチラモ見逃ス気ハ無イガナ』


 その悪意に満ちた笑顔はまさしく悪魔そのものであった。




 

 

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