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第83話 特隊

 ミサキの炎が迫りくる敵を包む。

 だが、それを気にした様子も無く、鋭い嘴をこちらに向け特攻するガーゴイル。


「くっ!」


 僕たちが急ぎその場所を退避した直後、大きな音と共に土煙が舞い上がる。

 フロアの床は見事なまでに大きな穴が空いており、地面が剥き出しになっていた。

 建物を破壊って、防衛システム的にはどうなんだろう……。

 緊迫した場面にもかかわらず、ふとそんな事を考えてしまう。


「カナタ! また来るよ!」


 もう一体も同じ様にこちらに突っ込んでくる。

 こちらは余裕をもって躱すが、僕とミウ、アリアとミサキといった風に左右に分断されてしまった。


「ミウ!」


「わかってる。早めに倒すんだね」


 相手の攻撃は今のところは体当たりのみ。

 一体が相手なら不覚を取ることは無いだろう。

 だが、この敵はミサキとアリアのペアには相性が悪い。

 強力な魔法ならばダメージを与えられるであろうが、それを詠唱する時間がない。

 弓の牽制ではその時間の確保は難しいだろう。


「ダークミスト!」


 ミウが素早く魔法を発動させる。

 闇属性の霧がガーゴイルを取り囲むように包む。

 通常の敵ならば確率で混乱効果があるのだが、恐らくこの敵には期待できない。

 しかし、視界を塞ぐ役割としは十分だ。


 外から見れば黒い霧の塊となっている為、ガーゴイルの位置はこちらからは一目瞭然。

 その中心目掛け、全力で斬撃を振るう。


「キシャアアアア!」


 大きな騒音が痛いくらいに鼓膜を震わせる。

 ――っていうか、こいつ悲鳴なんか上げられるのか。

 全く……、無駄によく出来ているな。


 ガーゴイルの片翼に続き、本体も空中から落下する。

 これで一番のアドバンテージは奪った、もうこいつは飛べない筈だ。

 僕は止めを刺す前に、もう一つの戦いの戦況に目を向けた。




「しつこいの!」


 アリアの弓の三連攻撃がガーゴイル目掛けて発射、その矢は敵を確実に捉えるが、ガーゴイルはそれを無視するかのようにアリアたちに突撃する。


「……くっ、速い」


 詠唱を中断し、アリアを抱えるようにして回避行動をとるミサキ。

 その衝突を躱したかに思われたその時、ガーゴイルはその鋭い嘴を開き、二つの獲物目掛けて奇声を発する。


「クワアアアアッ!」


 物理的衝撃を伴うその攻撃はミサキとアリアをその場所から吹き飛ばす。

 ミサキとアリアはそのまま壁に激突。

 さらにその正面からは二人を終焉に導かんとガーゴイルの追撃が迫る。


「ミサキ! アリア!」


 僕は叫ぶより先に駆け出していた。

 ミウも魔法でガーゴイルを牽制するが、咄嗟の詠唱の為に威力が弱く、敵は意に介した様子が無い。


「くそっ!」


 僕は手に持った黒曜剣をガーゴイル目掛けて槍のように投げる。

 だが、如何せん戦っていた場所が離れすぎていた。

 間に合わない!



「どっせいッ!!」


 その瞬間、扉から飛び出した影が二人とガーゴイルの間に入り、飛び込んだ勢いのままガーゴイルを受け止める。


「キシャアアアア!」


 その新たな敵に対し、奇声を上げて威嚇するガーゴイル。

 どこかで見た事があるその男は、確かギルドに集まったときにいた男の一人だ。


「大丈夫ですか?」


 その男の仲間なのだろう、魔術師らしき女性と剣を持った細身の男がミサキたちに駆け寄る。


「ミサキ!」


 僕とミウもそれに合わせるように合流する。


「……大丈夫。……感謝」


「ありがとうなの」


 怪我は大した事が無いようだ、よかった……。

 僕もその様子に胸を撫で下ろす。


「おい! 俺独りに相手をさせるつもりか! いい加減手伝え!」


 ガーゴイルと戦闘中の大柄な男がこちらに向かって叫ぶ。

 僕は床に刺さっていた黒曜剣を抜き、その男の元に向かう。


「すいません。加勢します」


「おお、頼むぞ!」


 片翼のもげたガーゴイルには細身の男が向かっているので、そちらも問題は無さそうだ。

 先ずは目の前のこいつを何とかしよう。

 

 大柄の男とガーゴイルが正面にて力勝負をしている隙に、僕はガーゴイルに脇から一撃を入れる。

 

「キシャアアアア!」


 その袈裟切りの一撃は、固い胴に豆腐を斬るように食い込み、そのまま軌道を変えることなく地面へと到達する。

 更には、大柄の男も追撃、ガーゴイルに止めを刺す。


 もう一方のガーゴイルも、他のメンバーによってその活動を停止する。

 僕はその場で大きく息を吐き、皆の元へ向かった。




 応援に駆け付けてくれた冒険者は、Cランクパーティー青龍の牙のメンバー。

 ギルドに言われて急ぎ駆けつけたという。

 大剣を持った大柄な男はカシム、見たままのパワータイプの剣士のようだ。

 中肉中背の青年がロッドで、青髪ロングの女性がソフィア。

 それぞれ中衛の万能タイプ、後衛の魔法使いといったところか。


「助かりました。ありがとうございます」


 落ち着いたところで、改めて彼らにお礼を言う。


「うん、まあ、気にするな。終わったら酒の二・三杯でも奢ってくれれば俺はそれで構わんぜ」


 そう言って豪快に笑うカシムさん。

 どうやら悪い人では無さそうだ。

 

「カシム、まだ敵の懐ですよ。これから如何するか考えないと――」


「そりゃあお前、突入しかないだろう」


「カシムは相変わらず短絡的だな。門番でこれだから、奥はさらに危険な罠があるかもしれないってことをソフィアは言ってるんだよ」


「そんなもん、行けば何とかなるって。なあ、カナタ」


 突然こちらに話が振られる。

 判断材料として、僕は三人に現在の外部の状況を質問する。


「あの、応援はまだ来るんですか?」


「散っている冒険者はギルドが懸命に探してるって話だよ。国は……すぐには無理そうだ。大所帯だからそうそう小回りが利かないからね」


「いや、そんなことも無いぞ。その為に我々がいる」


 突然、割り込んできた声に驚き、そちらに目を向ける。

 そこにはお揃いの鎧に身を固めた騎士たちの姿が――。

 彼らはこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。


「うひょう! 騎士団の特隊とは国も本気だね」


 ロッドさんが彼らを見て驚きの声を上げる。

 特隊? 良くはわからないが響きが凄そうだ。


「……国の騎士の特別部隊。純粋な剣においては王国の最高戦力」


 ミサキが何も知らない僕に知識を補足してくれた。

 確かに、見た目でもかなり強そうだ。


「青龍の牙、それとアテナの寵児のメンバーだね。私は王国特別騎士隊の隊長を務めるゴードンというものだ。よろしく頼む」


 五名の騎士の一人がこちらに右手を差し出してきた。

 燃えるような赤い髪を短髪で切り揃え、その目の奥にはある種の力が宿っているように思える。

 年齢は恐らく三十歳前半、最高戦力のトップとしてはかなり若いのではないだろうか。


 僕とカシムさんは交互にその手を握った。

 臨時の混成群の完成である。


 さあ、これで戦力は揃った。

 僕たちは杖を取り返す為、罠が待つであろう奥へと歩みを進めた。




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