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第80話 事件は現場で起きている

お待たせ致しました。

「はい、そうですが何か?」


 いきなりの事に多少ためらいつつも、僕はその男に返答する。

 男は僕らに軽く会釈をしてから、再び話し始めた。


「私は冒険者ギルド本部職員のテリーと申します。実は皆さんに緊急を要する依頼がありまして……、ここでは何ですのでギルド本部までご足労願えますか?」


 男は周りの聞き耳を警戒するかのように、少々小声で僕たちに同行を依頼してくる。

 行き先が行き先だけに怪しさは感じられず、特に断る理由も無いので、僕たちはそのまま男について行くことにした。



 ギルドの奥に通され、広めの部屋へと案内される。

 さほど使われていない部屋なのか、埃っぽい臭いが辺りに漂っていた。

 木目調の板張りの壁には窓も無く、光源は天井の照明のみ、それらが薄暗くならない程度の光を発している。

 部屋には既に何組かの冒険者パーティーが待機していた。

 いら立ちを隠せず当たりをうろつく者がいるところを見ると、どうやらかなり待たされているようだ。


 僕らが入ってきたことにより、彼らの視線がこちらに集中するが、待ち焦がれていた人物と違ったからであろう、僕らを軽く一瞥しただけで、興味が無いとばかりに視線を戻す。

 その後、二組の冒険者パーティーが僕らと同じように連れてこられたところで、漸く奥の扉からギルドの職員が姿を見せる。

 僕らを案内したテリーという職員ともう一人、背広を着たスリムな体型の男だ。


「皆さん、大変お待たせいたしました。これよりギルドマスターより説明がありますので、先ずはこちらにお集まりください」


 テリーという職員が僕たち冒険者に集合をかける。

 そして、全員が目の前に集まったのを見計らい、その背広の男、ギルドマスターが口を開いた。


「私はこのギルドを仕切っているパーキンスだ。急な呼び出しですまないが、緊急依頼の為、そこは勘弁してもらいたい。尚、この依頼は秘密裏に行われることになっている。それが不満と思うパーティーがいたら今の時点で退出してくれて構わない」


 ここまで待たせておいて……という不満は心の中にはあったであろうが、面と向かって口に出す者はいなかった。

 退出者が無く、冒険者の何人かが頷くのを確認し、ギルドマスターの話は本題へと移る。


「ふむ、退出者もいない様なので、早速依頼の話をするとしよう。依頼主はガルド王国。依頼内容はアラーナの杖の奪還だ。国宝級の武器で、知っているとは思うが今回の武闘大会優勝者に与えられることになっていたものだ。それが本日、賊に盗まれていることが発覚した。君たちには大会終了前までにその杖を奪還してもらいたい」


「何故、俺たちなんすか? もっと高ランクの冒険者がこの王都にはいると思うんすが……」


 恐る恐ると言った風に一人の冒険者がギルドマスターに質問する。

 集められた冒険者たちはそれほど高ランクという訳ではないらしい。

 まあ、僕らもDランクだしね。


「ふむ、もっともな質問だ。高ランクの冒険者たちは多かれ少なかれ今回の武闘大会に関わっている。自らが目指す賞品を試合を棄権してまで取り返して欲しいとは言えぬということだ。また、王国にも面子もあり、知られたくないのであろう。ギルドとしても、戦闘力がメインでは無い今回の依頼では、依頼主の意志に反して何名か欠けた高ランクパーティーに依頼するよりも、メンバーの揃った中ランクパーティーの方が良いという結論になった」


「報酬はどうなる?」


 大柄な冒険者がすかさず報酬について質問する。

 それを生業としている冒険者としては当然の事だろう。


「一律で一人金貨1枚、見事杖を奪還したパーティーに対しては別途王国よりそれ相応の報酬が約束されている。それについてはギルドが保証しよう」


 「おーっ」と言った声が辺りから漏れた。

 国が出すそれ相応の報酬と聞いて、冒険者たちが色めき立つ。


「手掛かりとかは何かあるのか?」


「無いと言った方が正しいな。ただ、出入り口は警備隊が固めていて入念なチェックを行っているので、恐らく犯人はまだこの王都を出ていないだろうとのことだ。まあ、彼らの希望的観測だということはは否めんが……」


 手掛かり無しか。

 探偵のまねごととかやったことなんて無いんだけど……、さて、どうしようか。


「では、早急に動いてくれ。但し、一般人に迷惑をかける行為は禁止、強権を与えた訳では無い事に注意して欲しい。どうしても捜査に必要ということであればギルドを通すこと。注意はそれだけだ。君たちの手腕に期待する」


 ギルドマスターの話も終わり、冒険者たちは波が引くように部屋を出ていく。

 その波にさらわれること無く、僕たちはその場に停滞して話し合う。


「さて、どう動いたものか。ミサキは何かある?」


「……こういった捜査は苦手」


「そうか……。参ったな」


 ミウとアリアからもこれといった発言は無く、出だしから躓いてしまう。

 他のパーティーは恐らく何か独自の情報網でも持っているのだろう。

 しかし、王都に何の伝手もない僕らにはそんなものは望めない。

 そもそも駆け出しから脱出したばかりの僕らが何でここに呼ばれているのかが不思議だ。


 未だに部屋から出ていなかった僕たちに、ギルドマスターが近づいてくる。

 間違いなく彼の目的は僕らの様で、正面に立ち止まるとにこやかに話しかけてきた。 


「君たちがアテナの寵児だな。ザックスから話は聞いている」


 ザックスって……、ああ、ベラーシのギルドマスターか。


「はい、初めまして。カナタと言います」


 差し出された右手を挨拶と共に握る。

 その掌に感じるごつごつした感触はダグラスさんと同じ戦う男の手そのもの、どうやらこのギルドマスターは只の素人ではないようだ。


「ベラーシに応援を頼んだら、丁度君たちがこちらに来ていると聞いてね。若い割に腕は確かと聞いている。今回もよろしく頼むよ」


 いや、そんな風に期待されてもね。

 現にどうしようか途方に暮れている訳だし……。

 ただ、そこまで言われたら捜査の真似事だけでもしない訳にはいかない。


「保管してあった場所には入れますか?」


 恐らくは城の内部にあるであろう場所に入室可能かどうかを僕はギルドマスターに問う。


「ああ、大丈夫なはずだ。待ってくれ、一筆書こう」


 ギルドマスターは懐から紙を取り出し、その裏面に筆を入れる。


「現場は武闘大会の会場の内部にある。これを見せれば関係者が案内してくれる筈だ」


「はい、ありがとうございます」


 僕はそれを受け取り礼を述べる。

 事件は現場から……。

 まあ、駄目元でということで、出来ることからやってみますか。

 何か打開策でも出て来るかもしれない。




二回も書き直してしまいました。

難産の割には本題まで話が届いていませんm(__)m

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