第79話 観戦
何とか続きが書けましたので、更新しちゃいます^^
既に一回戦も七試合が終わった。
率直な感想を言うと、中には強い人ももちろんいたが、何というか……、手が出ない強さみたいなものを正直感じなかった。
これは僕が成長しているということだろうか。
そうだとしたら嬉しい。
『次は、一回戦第八試合! 先ずは我らが王国騎士団より、第三部隊長のエーリッヒの登場だぁ!!』
選手紹介のアナウンスが場内全体に響き渡る。
スピーカーの類は見当たらないので、恐らくは何かの魔道具なのだろう。
重厚な騎士の鎧に身を包んだ、見るからに生真面目そうな青年が舞台に上がり、声援を送っている観客に一礼をする。
右手にはフルフェイスの兜、これも含めて王国騎士団の装備なのだろう。
そこに大きく彫られた意匠をどこかで見た事がある気がする。
気のせいだろうか……。
『続いて登場したのは、冒険者ナック! 強豪と言われた予選ブロックで見事に予選通過! はたしてその実力は如何にっ!!』
軽やかに登場したナックと呼ばれた男は、試合開始前に僕の隣で仕切りに話しかけてきた男だ。
天才ねぇ……、自分で言う位なのだから、よほど自信があるのだろう。
お手並み拝見と行きますか。
試合開始を前に、ナックが何やらエーリッヒに話しかけているようだが、ここからは内容までは聞き取れない。
ただ、見た限りでは、エーリッヒはナックに対して怒っているようだ。
「……恐らく何かの揺さぶりを掛けている」
なるほど、心理作戦というやつか。
どうやらナックという男は中々抜け目がないようだ。
『第八試合、始めっ!!』
観客の大声援の中、試合開始の合図が下された。
先ずはお互い様子見、ナックは短刀、エーリッヒは長剣を構えたまま相手の様子を窺っている。
「あっ! 動いたの」
先に動いたのはエーリッヒ。
そのまま一直線にナックに向かっていく。
「……多分また何か言った」
どうやら挑発して先に仕掛けさせるように仕向けた様だ。
ナックに向かって長剣を振り下ろすエーリッヒ。
その斬撃は、少し大振りのようにも思える。
ナックは迫りくる長剣を掻い潜るようにしてエーリッヒに接近し、流れるように横に回り込む。
その動作には一切の無駄が無い。
『おーっと! エーリッヒが膝をついたぞ! 解説のローランさん、どう見ますか?』
『そうですね。エーリッヒは少し冷静さを欠いているようですな。ただ、ナックの短刀もかなりの業物と見ました。装甲の薄い部分とはいえ、ああも簡単にダメージを通すわけですから』
『なるほど。おっと、エーリッヒが立ち上がりました。どうやら脇腹にダメージを負った模様だが、ここから巻き返しなるかっ!?』
勢いよく立ち上がったエーリッヒが再びナックへと迫る。
『さあ、エーリッヒが防御を固めつつナックへと迫ります』
『ナックが身に着けているのは軽装備です。防御面で勝っていると判断し、そのまま押し切る作戦でしょう』
その時、ナックがチラッとこちらに目線を配ったような気がした。
そして次の瞬間、エーリッヒの正面からスルッと移動し背後に回り込んだナックは、エーリッヒの首筋に短剣の柄を打ちつける。
『あ〜っと! エーリッヒが倒れました。解説のローランさん、私には何でもない攻撃に思えたのですが、そこのところをどう見ますか?』
『ええ、そうですね。回避に対してのエーリッヒの対処がかなり遅れたように思えました。先ほどのダメージが深かったのでしょう』
『どうやらエーリッヒ動けません!』
『勝負あったようですね』
『勝者! ナック!!』
片手を挙げて客席の声援に応えるナック。
その表情からは当然と言わんばかりのふてぶてしさを感じる。
「ミサキ、どう見た?」
「……何らかの認識妨害の可能性がある」
「なるほど……。だから最後の反応が鈍かったのか」
次の試合開始までの間、僕ならどう戦うかを頭の中でシミュレートする。
対策として考えられるのは――。
色々と考えることで結構勉強になる。
これは来て正解だったね。
『さあ、一回戦第九試合。現れたのは最近売り出し中の冒険者、金髪の貴公子ことスターク・ハイドンだ!』
見た事のある金髪の男が、会場に向かって投げキッスをしている。
「ねえミサキ、あれって確か――」
「……知らない人」
ミウがそのセリフを言いきる前に、ミサキが内容を否定する。
そうか、あの金髪くんも出場していたのか。
『対するはパワーが自慢、冒険者のエドガー! そのバトルアクスは岩をも砕くと言われているが、果たして今回もそのパワーを見せつけてくれるのか!」
身長二メートル以上はあるだろう巨漢の男が大きなバトルアクスを担いで登場する。
ヘルメットのような兜には左右に角が二本付いており、髭もじゃの顔と相まって、僕には山賊か海賊にしか思えない。
『解説のローランさん。この試合をどう見ますか?』
『エドガーのパワーは一撃で戦況を変える力があります。スタークがそれを如何に躱して懐に潜り込めるか、それに尽きると思います」
『――なるほど。さあ、間もなく試合開始です!』
『第九試合、始めっ!!』
試合の合図と同時に、エドガーはその髪を掻き上げる。
恐らくその仕草に|観客の半数(男性客)はイラッとしていることだろう。
ただ、客席の女性たちからは呆けたようなため息が漏れている。
僕はちらっと横目でミサキを見る。
ミサキは興味無さ気にスタッフを磨いていた。
アリアも特に気にした様子は無い。
よかった、うちの女性陣は真面なようだ。
でも、試合見なくて良いの?
力任せに振われる斧を難なく躱し、一撃を入れていくスターク。
エドガーは顔を真っ赤にして、その斧の回転速度を上げていく。
――結果からいうと、金髪くんは見事勝利した。
エドガーの攻撃を一度も受けずに完封、次期Aランク候補と言われているのも頷ける。
ただ、僕の中では攻撃が決まった後にいちいちポーズを決めるウザさの方が勝っていたが……。
その後も着々と試合は進み、準々決勝までの進出者8名が決まった。
僕に声をかけて来たナック、金髪くんことエドガーもその中に残っている。
これにて今日の観戦は終了、三日間通しのチケットなので明日も同じ席で観戦だ。
「さて、一度戻るか」
「うん、お腹すいたしね♪」
僕の頭の上に戻ってきたミウは、現在スラ坊の食事のことで頭が一杯だ。
しかし、そのミウの希望は打ち砕かれることになる。
会場の外に出たところで、僕らに近づく一人の男。
「あの……、アテナの寵児の皆さんですね」
外見は何処にでも居そうな普通の男。
その男は何故か王都で知られている筈もないパーティー名で僕たちに声を掛けてきたのだった。
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