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第78話 武闘大会

お待たせいたしましたm(__)m


「ん!? カナタくん。どうしたの?」


 特に依頼表を持たずにカウンターに歩み寄った僕に対し、頭の上に疑問符を浮かべながらマリアンさんが質問する。


「実はマリアンさんに相談があるんですが、良いですか?」


「良いわよ、何かな?」


 いきなりのセリフにもマリアンさんは即座に応じてくれた。

 年上らしい包容力を醸し出しつつ言葉の先を促す。


「いや、ギルドの事と関係ないので、出来れば仕事が終わってからの方が……」


「あらあら、デートのお誘いだったのね。大丈夫よ、ミサキちゃんには黙っておくから」

 

 少々意地の悪い笑みでマリアンさんは笑った。


「いやぁ、そういう訳じゃ……」


 いきなりだったので無表情スキルの発動が遅れてしまった。

 否定しつつも恐らく顔は赤くなっているのだろう。

 照れくさくて俯いた顔を再度上げて正面を見据えると、何やらマリアンさんの顔が少々引きつっている気がした。


「え、えっと……、も、もちろん冗談よ。じゃあ7時に待ってるわ。あっ、これも片づけなきゃ。あ〜忙しい」


 僕に仕事終わりの時間だけ告げると、マリアンさんはそそくさと奥に引っ込んでしまった。

 一体どうしたのだろう?


 ギルドを出て、表で待っていた皆と合流する。


「どうだった?」


「ああ、また7時に来てくれって。夕飯時だから行くのは僕一人で良いよ」


 折角のスラ坊の夕食を食べられないのも忍びないだろう。

 ここは僕一人で聞いてくれば良い。


「……私も行く」


「いや、とりあえず概要だけ聞くだけだから別に……」


「……私も行く」


 どうやらミサキの意志は固いらしい。

 結局、相談には僕とミサキの二人で向かうことにした。



 夕方、仕事の終わりのマリアンさんと供に近くの店に入る。

 中はそれほど広くは無いが、小洒落た女性受けしそうな雰囲気のレストラン、マリアンさんご推薦の店だ。


 四人掛けのテーブルに案内され、僕の正面にマリアンさん、横にはミサキが座る。


「先に食べますか?」


「ええ、そうしましょ」


 仕事終わりのマリアンさんを気遣い、先ずは食事を優先させることにする。

 もちろん食事代は僕持ちなので、遠慮なく好きなものを食べてもらった。




 食事も終わり、ドリンクを飲みながら本題に入る。


「なるほど……。それで私って訳ね」


 納得顔をしたマリアンさんは、それから色々と丁寧に僕らの質問に答えてくれた。

 その概要はというと――


 登録について

 入会は強制ではないが、商売人にとってギルドと同じような役割をする『商業会』と言う組織がある。

 入会のメリットとしては、初期費用の一定期間無金利融資、各種保険、組合員同士の取引の仲介・トラブル防止などが挙げられる。

 デメリットは、売上の一割を会費として支払わなければならないことと、商売を始めるにあたっての規定がかなり厳しいこと。

 何でも店の内装や配置にまで口を出してくるらしい。

 隠さなければならない事が多い僕たちからすれば、入会は見送った方が良いだろう。



 土地・建物について

 冒険者ギルドで紹介している物件から探すことを勧められた。

 Dランク以上ならば、格安で斡旋してくれるとのこと。

 優秀な冒険者をその土地に囲い込むことを目的としているので、一般価格に比べたら破格の安さらしい。

 どうやら受付の成績にもなるようで、『買うなら私を通してね』と念を押された。

 お世話になっているので、それについては異論はない。

 気に入った物件があったらお願いしよう。



 従業員募集について

 国の職業紹介機関にて応募を待つ方法が一般的。

 各町にその支部があり、そこに募集要項を提出すれば良いだけ。

 ただし、登録には銀貨一枚。

 そのかわり、条件に関するトラブルの仲介はしてくれる。

 店や公共掲示板に張り紙などをして募集するのも有り。

 また、短期的な手伝いならば冒険者ギルドにHランクの依頼を出しておくと早めに人が集まる。

 ちなみに食堂の給金ならば一日銅貨12枚〜20枚くらいが相場で、住み込みならばそれよりも安く済む。

 どうやら細かい条件などは他の募集を見てから決めた方が良さそうだ。



「今日話したのはあくまで基本的なところね。他にも色々と面倒が出てくると思うけど、相談ならいつでも乗るわよ」


「はい、ありがとうございました」


 マリアンさんと別れて、僕たちはイデアへと戻る。

 そこで今日聞いたことを持ち込んで話し合い、詰めていこうと思う。

 時間はまだある、焦って失敗したくないしね。





 そして武闘大会開催の日を迎えた。

 予選は既に行われており、僕らが観戦できるのは決勝トーナメントからで、32名の猛者たちによって争われる。

 開催は三日間、一日目はベスト8まで、二日目で決勝進出者が決まり、三日目が決勝となる。


 その外壁を見上げつつ、僕たちは開催場所である闘技場へ足を踏み入れる。

 中の通路を抜けると、そこには青空が広がっていた。

 中心には石造りの試合の舞台があり、そこから同心円状に客席が広がっている。

 客席は後方に行くほど高くなっており、その座席は只の石の階段。

 横との隔たりは殆ど無く、手書きと思われるラインで仕切られているのみ、指定席の番号も手書きで書かれていた。

 昔よく連れて行ってもらった田舎の野球場を思い出す。

 確かブルーシートとかを敷かないとお尻が冷たいんだよね。

 何か持ってきたかな?


 ドーム状に結界が張られた中央の舞台の脇には、何人かの治癒術師らしき人が既に待機している。

 この大会がそれだけ危険な真剣勝負ということだろう。


 僕たちは所定の座席を見つけてそこに座り、その開催の時を待つ。

 少し時間が早かったのか、観客はまだ疎らだ。


 客席の一番上のスペースに屋台が出ていたので、待ち時間の間の手慰みとして摘まむものを人数分購入する。

 買ったのは芋を吹かして味付けしたものと果物を絞ったジュース。

 普通の場所で買うのよりも値が高いのは、どの世界でも変わらないようだが、それは仕方の無いことだろう。


「アリア、楽しみだね♪」


「うん、ミウちゃん」


 ミウはいつもの定位置である僕の頭の上では無く、アリアの膝の上に乗っていた。

 少し寂しい気もするが、いつまでもべったりという訳にもいかない。

 ここはミウの成長を喜ぶことにした。


「お兄さん、誰が勝つと思う?」


 隣に座っていた男が軽い感じの口調で僕に話しかけてきた。

 いきなり声をかけられて少々戸惑ったものの、無視することもないのでその問いに返答する。


「いや、初めてきたもので、そういうのは良くわからないですね」


 出場者のプロフィールなどは会場に入るときにパンフレットとして貰っているが、それだけで優勝者がわかれば苦労しない。

 僕のその答えに、赤髪の男はニカッと笑う。


「俺はこのナックという男だと思うね。あまり知られていないがこれ程の天才はいないぜ。何よりも凄くカッコいい。悪いことは言わないからコイツに賭けておいた方が得だよ」


 そう、この闘技大会では国家公認で賭け事が行われていた。

 それぞれの戦士には倍率がついており、勝てばその分だけのお金が手に入るという単純方式だ。

 それも国家の大切な財源となるらしい。

 まあ、僕は賭けていないけどね。


「おっと、行かなくちゃ。じゃあな。機会があったらまた会えるだろう」


 言いたいことだけを言い残して、男は空席を掻い潜り通路へと消えていった。

 それと入れ替わるようにしてその席に座る一組のカップル。

 段々と周りの席も埋まりつつあった。



 そして打ち鳴らされる激しいドラムロール、管楽器の音が負けじとそれに追随する。

 こうして、武闘大会の幕は開けたのであった。





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