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第77話 過剰食料

 マーサさんの依頼を無事完遂した僕たちは、黒曜剣のメンテナンスをゼノンさんに依頼するために久しぶりに王都に来ていた。

 自分でも見よう見まねで手入れをしてはいるのだが、定期的にプロに見てもらった方が良いと思ってのことだ。

 せっかく苦労して手に入れた剣を駄目にしたくないからね。


 ちなみに、マーサさんのお孫さんの目だが、今ではすっかり見えるようになったそうだ。 

 マーサさんの最近の趣味は孫との散歩、その手を引いて街中を歩くのが何よりの楽しみとのこと。

 色々とあったが、これにて一件落着と言っていいだろう。


 それと、僕は見ていなかったのだが、戦闘中にミウが光った件について――。

 どうもミウ本人は何も覚えていないらしく、結局何もわからず仕舞い。

 害のあることでは無いので、後で女神様にでも聴けば良いかと思っている。



 城下町はいつにも増して人ごみに溢れていた。

 その雰囲気に今も尚慣れていないのは、たぶん僕が元々は田舎の出ということも関係しているのだろう。


「カナタ! 武闘大会があるみたいだよ!」


 通りに大々的に掲げられている看板には、『第32回 ガルド王国武闘大会開催!!』と大々的に書かれていた。

 さっきからちらほらと無骨な冒険者の類が見受けられるのは、恐らくその影響なのだろう。


「へぇ〜、一週間後か」


「カナタ、出ないの?」


 すっぽりと僕の腕の中に納まっているミウが、こちらを上目使いに見て首をかしげる。


「まだそんな実力は無いからね」


「そうかな〜?」


「……いい線は行くと思う」


「私もそう思うの」


 皆はそう言ってくれるが、自分の剣の腕がまだまだなのは良くわかっている。

 何せ、特訓で未だにダグラスさんにかなりの手加減をされているのだ。

 王国中の猛者が集まる武闘大会など、とてもじゃないがまだ早い。


「……そう。……じゃあ今年は見学しましょう」


「あそこでチケットが売っているの」


 どうやら観戦は決定事項のようだ。

 僕はアリアに手を引かれてチケット売り場まで連れて行かれた。


 ミウは無料で入れるとのことなので、買ったチケットは合計3枚。

 金額は締めて銀貨9枚、結構割高だったのは指定席を買った為だが、それでもその席はまあまあ後ろの方だ。

 何でも間近の席を買うには金貨数枚が必要らしい。

 遠目でも見えれば良いと思っている僕には、この席で十分だ。

 一週間後を楽しみにしておこう。



 寄り道も程々に、僕たちはゼノンさんの店に辿り着く。

 相変わらず寂れた外観の店だが、前回と違い躊躇なくその中へと入った。

 埃の被った店内も相変わらず、客として来ている自分が言うのも何だが、こんなのでお客は来るのだろうか?

 他人事ながら少し心配になってしまう。


 前回と同じく大声でゼノンさんを呼ぶと、本人が気怠そうに奥から顔を出した。


「ふん。何だ、お前さんか」


 相変わらず愛想の無い口調だが、もうそれには慣れている。


「お久しぶりです。この前打ってもらった剣のメンテナンスをお願いしに来ました」


 鞘から出した黒曜剣をカウンターに置く。

 ゼノンさんはそれを手に取り、まじまじとその刀身を見つめる。


「ふん、だいぶ斬ったみたいだな。所々傷んでやがる。まあ、手入れについてもしっかりとここに持ってきたのは褒めてやる。……出来上がりは明日の夕方、料金は銀貨3枚ってとこだな」


「はい、それで大丈夫です。お願いします」


「ふん、では預かろう。明日また来い」


 それだけ言い残すと、ゼノンさんはさっさと店の奥に引っ込んでしまった。

 この場に突っ立っていても仕方が無いので、僕たちも店を出ることにする。


「さて……、剣が無いから今日明日の依頼はお預けだね」


「……偶には休息も必要。……働き詰めは良くない」


 僕たちは二日間をイデアでゆっくり過ごすことにした。





 二本の太い木の幹を交互に駆けあがるようにして空へと向かっていく。

 最後には伸び上がるようにして大きくジャンプ、大空を悠然と舞う群れの中の一羽をその口に捕らえた。


「ガルッ!」


 駆け下りてきたタロは危なげなく地面に着地、僕とミウを見て一声吠える。

 「どう? 凄いでしょ?」と言っているのが言葉が通じなくともわかった。


「凄いな、タロ。いつの間に……。空を飛んでいるみたいだったよ」


「うん、ビックリだね!」


 僕とミウに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を瞑るタロ。


「グルルルル……」


 ジロがそれを見てライバル心を燃やしたのか悔しそうに唸り、目の前の木を颯爽と登っていく。



「グルッ! グルッ!」


 鳥を僕たちの目の前に置き、自慢げに吠えるジロ。

 まるで、「どう? 僕の方が大きいでしょ?」とでも言っているようだ。


「ガルルル……」


 またタロが駆け上がろうとしたのでやめさせる。

 このままだと限が無さそうだ。

 タロとジロをこれでもかという位に平等に褒めながら、僕たちはそのまま森を出て畑へと向かった。


 

 辺り一面に緑が広がっている。

 所々で野菜が実をつけていて、オークや魚人たちがそれらをせっせと収穫していた。

 スラ坊作のリアカーに野菜を敷き詰め、それらを倉庫に運んでいる。


「結構収穫できるようになったね」


「うん。食べるのには十分あるみたいだよ」


「私たちのお蔭よ。感謝してよね!」


「お土産よろしく〜♪」


 いつの間にか周りに集まってきた妖精たち。

 相変わらず元気が有り余っているようで、僕の周りを縦横無尽に飛び回る。


 妖精たちの相手をしつつ、折角なので倉庫にも寄ってみる。

 畑の川向こうに建っている二棟の大きな倉庫、必要に差し迫られて土魔法で作った物だ。

 運搬作業の邪魔にならないようにして僕たちは中へと入った。


「うわ~、いっぱいだね、カナタ」


 広い倉庫にもかかわらず、すでに三分の二が籠で埋め尽くされていた。

 そして現在進行形で運ばれてくる新たなる食料、これだけ大量だと後で傷まないか心配だ。

 これは保管について新たに考えないといけないか……。


 僕の巾着袋を使えば、そのままの状態で保存は出来るのだが、僕のいないときは取りだせないという欠点もある。

 半分程度をしまっておくというのも有りかもしれないが、それらはいつ消費されるかもわからない過剰食料、しかもこれからも増え続けるので根本的な解決かと言えば違う気がする。

 もちろんそれは嬉しい悲鳴なのだが……。

 新たな仲間が入ってくることを見越して取っておくのも有りだとは思うが、それがいつになるかわからないので思案のしどころだ。


「いっそ……売るか」


 でもそのまま八百屋をするのも芸が無い。

 何か無いだろうか……。




「食堂など如何でしょう」


 別荘に帰って皆に相談すると、スラ坊がそう提案してきた。


「私も皆さんに食事を振るまい、笑顔になって頂けることに喜びを感じましてね。是非にと思ったのですが……」


 思いのほかスラ坊はやる気のようだ。

 しかも、驚いたことに三体にまで分裂できるようになっているとのこと。

 ――となると、調理人については、そのうち一体にシェフをして貰えば大丈夫なのか。

 ただ、考えなくてはならない物が他にもいろいろ出てくるぞ。

 土地・建物や従業員、イデアとの往来、登録は必要なのかなど、わからない事やすぐに解決できない事が沢山だ。


「誰かに聞いてみるしかないのかな……」


 さすがにミサキもその辺は詳しくないようなので、この件は一旦保留。

 そう言えばマリアンさんは実家が商売をしていたな、後で色々聞いてみることにしよう。





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