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第76話 そして二人は……

「ミサキ! カナタが変だよ!」


 急に動くのをやめたカナタを見てミウが叫ぶ。

 そのミウの指摘に、ミサキは詠唱を続けつつ、横目でカナタを確認する。


「……不味い」


 その視界の先にはアルフォンスがゆっくりとカナタに近づいているのが映る。

 ダメージを負っているのか、その足取りはかなりふらついてゆっくりだ。

 だが、その接近に対しカナタが反応する様子は無い。


 その間にもアンデットたちはミサキたちに途切れずに襲い掛かっていた。

 救援に行きたくとも行けない、その焦りがミサキには珍しく顕著に表情に現れる。


「……消えて」


 廃坑内での影響を考慮しつつ、ミサキはかなりの魔力を込めて詠唱を完成させる。

 炎の大嵐が正面に群がるアンデットたちを巻き込み燃え上がる。

 目の前のアンデットたちは成すすべも無くその身を焦がし、後には消し炭さえ残らない。

 しかし、爆炎が静まったのを見計らったかのように後続がさらに押し寄せる。


「駄目なの。また湧いて出ているの」


 傍から見れば余裕ある戦闘のようにも思えるが、それ程余裕は無い。

 いつ途切れるかもわからないアンデットの群れ、このまま消耗戦となれば不利なのはミサキたちである。

 それに加えてカナタの現状、ミサキたちの焦りは募る。


 そしてとうとう、アルフォンスがカナタの目の前に辿り着く。

 残った右手でその杖を振りかざし、カナタに振り下ろそうとしたその時――



「カナターーーーーーーーー!!!」


 

 突如として眩いばかりに光り輝くミウ。

 その光にミサキとアリアはたまらず目を瞑る。


「ぐおっ! な、何だ、これは!」


 今まさに振り下ろさんとしていた手を止め、その場に跪くアルフォンス。

 リッチであるアルフォンスだからこそ、それだけで済んでいたと言える。

 押し寄せていたアンデットたちは、その光を浴び、幻のようにその場で消滅したのだから――。


「カナタ! カナタ!!」


 どこか焦点の合っていない目で、ぶつぶつと独り言のように呟くミウ。

 その身体はさらに輝きを増し、薄暗い廃坑を照らし続ける。



 それからしばらくして、次第にその光が薄れていく。

 光の発生元であったミウはその場でぐったりと地面に倒れこむ。


「ふぅ……、何の攻撃かわかりませんが危ない所でした。研究材料としては非常に興味がありますが、まずはこちらが先ですね」


「……させない」


 ミサキがスタッフをアルフォンスに向ける。


「遅いですよ。それが届くころには彼はこの世にはいません。では、さようなら」


 カナタの首筋に向けて杖を横凪に払うアルフォンス。

 その先には仕込みの刃が光る。



 キィィン!! と甲高い金属音が辺りに響く。

 アルフォンスの振るった杖はカナタの喉に届く事は無かった。

 杖を弾いたのは黒曜剣。

 見開かれたカナタの瞳には、くっきりとアルフォンスの姿が映っていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ば、馬鹿な! 何故脱出できる! 私の術は完璧の筈だ!」


 アルフォンスが僕に向かって何やら喚いている。

 そんな事より――。

 僕は視線をミウに向ける。


 その場にぐったりと倒れているミウ。

 どうやら僕のせいで無理をさせた様だ。

 今すぐ駆け寄りたいが、まずはこいつを始末してからだ。

 僕はアルフォンスに視線を戻し、白い輝きを取り戻した剣を振りかざす。


「くっ! むざむざ殺られはしません!」


 アルフォンスは杖を構えて防御するが、そんな物は関係ない。

 この世界に降り立ってから一番の鋭さを持った斬撃は、その杖ごとアルフォンスを袈裟斬りにする。


「ぐ、ぐおおおおぉぉぉ!」


 身体から白煙を吹き出し、その場に崩れ落ちるアルフォンス。

 既に止めを刺す必要が無いと判断した僕は、ミウの元へと駆けよる。


「ミウ!」


 ミウはその小さな身体をアリアに抱きかかえられていた。


「アリア! ミウは!?」


 僕の問いにアリアは落ち着いた口調で答える。


「大丈夫なの。力を使って眠っているだけなの」


 良く見ると、そのふわふわの身体が静かに上下していた。

 僕は安心して大きく息を吐く。


 ふとアルフォンスの方を見ると、その溶け出した身体をマーラさんに抱きかかえられていた。

 危険を感じ、駆け寄ろうとする僕をミサキが手で制す。


「……心配ない」


 僕は皆と供にゆっくりと二人に近づいた。




「どうして……、君の孫に手をかけた僕を……」


「さあ、どうしてかしらね」


 マーラさんが優しい笑顔で微笑む。

 その顔には恨みなど微塵も感じなかった。


「くくくっ……、これで君の孫の呪いも解ける。これで満足だろう」


「ええ、貴方の孫でもあるもの。満足しているわ」


「何っ!?」


 崩れかかった顔をマーサさんに向けるアルフォンス。


「貴方と別れた時に、もうお腹の中には娘がいたの。彼も承知の上で私を養ってくれたわ。実はね、私はまだ独身なのよ」


 その言葉を聞き、笑い出すアルフォンス。


「くくくくっ……。そうか……、僕は自分の娘に呪いを……」


 その胴体は跡形も無く消え、残すはマーラさんが抱えている頭のみとなる。


「……どうやら別れの時が近いようだ。さようなら、マーラ」


「ええ、さようならアルフォンス。私も直にそちらに行くわ」




 アルフォンスは音も無く消滅し、そこにはマーラさんのみが残る。


「マーラさん」


 僕はマーラさんに声をかける。


「さあ、戻りましょう。元気な孫の顔を見るのが楽しみだわ」


 その言葉と共に、爽やかな笑みを僕らに向けるマーラさん。

 その老婆の微笑みに、何故か若い女性の面影を見たような気がした。





 


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