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第59話 集落訪問①

休みということで、連日投稿です。

どうやら戦闘シーンよりもこういった話の方が筆が進むようです。

 小鳥の鳴き声が聞こえる。

 僕は上半身を起こし、時計を確認した。

 AM9:30

 柔らかいベッドでの睡眠は暫くぶりだった為、予定より少し寝すぎてしまったようだ。

 大きく伸びをしてベットから抜け出し、部屋を出て一階への階段を下りる。

 久しぶりのスラ坊の朝食、楽しみだ。

 

 奥からは包丁のリズミカルな音が聞こえる。

 僕はキッチンにいるであろうスラ坊に声をかけた。


「ごめんね、スラ坊。少し遅くなっちゃったけど……」


「まったく、だらしないでちゅね!」


 聞こえた声に違和感を感じて、僕はキッチンに駆け込む。

 そこにはひらひらフリルのエプロンを着けた幼女の姿が――。


「な、何をやってるんですか!? 女神様〜!!!」


 思わず家中に響く声で叫んでしまう僕がいたのだった。







「おおっ、美味しいでちゅね! 星三つでちゅ!!」


「ありがとうございます」


 テーブルに着いた女神様の目の前にはスラ坊特製お子様ランチ。

 小ぶりなハンバーグ切り分け、それを幸せそうに頬張り、こぼれそうな笑顔で感想をスラ坊に伝えている。

 いや、お子様ランチって……。

 僕より遥か年上の人に出すものでは無い様な気がするのですが……。


「何か言いまちたか?」


「イエ、ナニモ……」


 かく言う僕は、女神様が初めて作った手料理、恐らくハンバーグなのであろう黒い物体を絶賛堪能中だ。

 この苦みが何とも言えないです、はい。



 お子様ランチを綺麗に平らげ、満足そうな女神様。

 いったい何をしに来たのだろう?

 とりあえず疑問に思うことを順番に質問してみることにした。


「僕の記憶では、地上へは降りられないとか言ってませんでしたっけ?」


 しかし、女神さまの回答はごく単純なもの。


「ここは地上でちゅか?」


「まあ、確かにそうですね」


 思わず納得してしまった。

 でも、それが出来るのだったら、今までの中で直接伝えてくれても良い場面とかもあったような気が……。


「気のせいでちゅ。あまり深く考えるとハゲまちゅよ」


「はぁ……、すいません」


 そんな会話を続けていると、食堂にミウたちが下りてきた

 見知らぬお客様に疑問符を浮かべるミウとアリアに女神様を紹介すると、二人とも飛び上がるほど驚いていた。

 まあ、それは当然だろう。

 ちなみに、ミサキは知っている筈なので紹介は無しだ。


「ミサキちゃん、元気そうでなによりでちゅ!」


「……はい。……女神様もお変わりなく可愛いですね」


「そんな、照れるでちゅ♪」


 今日の食卓はいつにも増して賑やかであった。







「住む種族も増えてきたみたいでちゅので、様子を見に来たでちゅ。できれば挨拶でも――」


「いや、それは不味いでしょ! 絶対パニックになります」


「む〜っ!」


 女神様がほほを膨らます。

 どうやらご不満なようだ。


「正体をばらさなければ良いんじゃないかな?」


 ミウの提案に女神様は満面の笑みを浮かべる。


「そう、それでちゅよ! ミウちゃんは頭が良いでちゅ! お礼に祝福をたくさんあげるでちゅよ♪」


「やったぁ!」


 何やらミウが七色に光った気がした。

 うん、気のせいだね、きっと。





 ミウの提案通りに、僕たちは女神様を連れて、先ずは魚人たちの元へ訪れる。

 集落ではトーマスさんが笑顔で出迎えてくれた。


「おお、よく来て下さったの。ゆっくりしていって下され」


 来訪の名目は、『これまで住んでみて不便が無いかの聞き取り』ということにした。

 何せ、本日はこの空間のオーナー様もいらっしゃっているので丁度良い機会だろう。


「いえいえ、不便などとてもとても。食料資源も豊富、外敵もいない、これほど素晴らしい生活に不満があったら、それは贅沢というものです」


 トーマスさんに『ありがたや、ありがたや』と何故か拝まれてしまった。

 拝むなら僕の隣にいる方にして下さい。

 たぶんご利益有りますよ。

 

「ところで、そちらの方はどなたかの? 初対面だと思うのだが……」


 女神様を見て、トーマスさんが僕に問いかける。


「この人はアテナさんです。忙しい方なのですが、今回はたまたま遊びに来てくれました」


 もちろんアテナは偽名、物語の女神の名前から取ったものだ。


「これはこれは。儂はトーマスと言います。よろしくお願いします」


 トーマスさんは、およそ子供に接するのとは程遠い丁寧語で女神様に自己紹介する。

 僕の口調や扱い方から、見かけの姿が実年齢とは違うことを察したのかもしれない。

 さすがは年の功といったところか。


「アテナでちゅ。よろしく頼むでちゅ」


 屈託のない笑顔で挨拶を返す女神様。

 それを見て、トーマスさんが驚きの声を上げた。


「おおっ! 何か光って見えたような……」


 眼を擦り、女神様を二度見するトーマスさん。

 気のせいですよ……たぶん。

 そういう事にしておいて下さい。



 その後、トーマスさんの案内で、魚人の生活の様子を見学させてもらう。


「きゃははははっ!」


「やったな〜♪」


「こら、お前ら! 魚が逃げるではないか! もっと離れた場所で遊びなさい!!」


 魚人たちの集落は活気にあふれていた。

 魚人たちはその名前の通り、基本的には水産資源を多く好む。

 現在の主食は網ですくった川魚、そのまま丸ごと食べるのが普通なのだそうだが、今回は僕たちの為に塩焼きにしてくれた。

 もちろん塩は以前に僕たちが提供したものである。


「うん、美味い!」


 この香ばしさが何とも言えない。

 朝は苦い物しか食べなかったお蔭で余計に美味しく感じる。

 やっぱり食事って生きる活力だよね。


「むぅ……。次には美味しいと言わせてみせるでちゅ!」


 そんな女神様の独り言は僕の耳には届かなかった。




「食料については色々と試してはみています。さすがに川魚ばかりだと、いつ何が起こるかわかりませんからね」


 いつの間にかキマウさんが隣に現れ、一緒になって魚を食べていた。


「現在は畑仕事を検討中です。何事も挑戦ですよ」


 魚人が畑仕事……、想像しただけでシュールな光景だが、それはそれで有りなのかな。


「よかったら協力させてください。数種類の種を後で持ってきますので、先ずはそれを検討してみましょう」


 僕はキマウさんに協力を申し出た。


「はい、ありがとうございます!」


 始めの出会いが嘘のように、僕とキマウさんは打ち解けていた。

 少々話が長いのが玉に傷だが、それさえ目を瞑れば気さくな良い魚人だ。



「カナタ殿、実はお願いが一つあるのだがの」


 魚をたらふく食べて一息入れているところで、トーマスさんが僕に近寄り、小声で話しかけてきた。

 一体何だろう?


「個人的な事で悪いのだがの……、息子のマイケルに会ったらこれを渡して欲しいのじゃ」


 トーマスさんから一枚の手紙を受け取る。

 マイケルくんに宛てた手紙のようだ。


「儂らは集落を引き払ってそのまま移り住んだからの。マイケルにその事でも伝えられればと思っての」


 それは僕もどうしようかと考えていた事だ。

 マイケルくんはまだ当分帰る気が無いとは言っていたが、それでもなるべく早いうちに伝えておいた方が良いだろう。


「そんなの簡単でちゅ。わたしが彼の夢に現れ、ムグッ、ムググ……」


 僕は慌てて女神様の口を塞ぐ。

 そんなこと出来る人は普通いませんから。


「わ、わかりました。ではこの手紙は預かります。さて、そろそろ行こうか」


 女神様の口を塞ぎながら、僕は足早に魚人たちと別れるのだった。



 

「ひどいでちゅ! あんまりでちゅ!!」


「あのままだと正体がばれると思いまして……、すいません」


 女神様の怒りに、僕は只々平謝りをしていた。

 女神様は良かれと思って提案してくれたのだから、その言い分も良くわかる。

 大きく頬を膨らませ、そっぽを向く女神様。

 まいったなぁ……。


「……じゃあ今日は女神様はここでお別れ? とても残念。……折角これからおやつの時間だというのに」


 ミサキの言葉に女神様がぴくっと反応する。


「……スラ坊特製のデザート。……濃厚なクリームに果実の甘酸っぱさが絶妙のハーモニーを醸し出す。……まさかあれを食べずに帰るとは」


 女神様がぴくぴくっと反応する。


「……皆、一旦別荘に戻りましょう。……女神様、それでは失礼いたします」


 その言葉に、女神様がこちらを振り向く。


「う〜っ! ミサキちゃんずるいでちゅ! わかりまちた、許すでちゅ! 今回だけでちゅよ!」


 ミサキの絶妙なフォローのお蔭で、何とか女神様は機嫌を持ち直してくれたようだ。


「ミサキ、ありがとう」


「……夫のフォローは嫁として当然の仕事」


 夫云々はともかく助かった……。

 早速僕たちは別荘に帰り、言葉通りの美味しいデザートを堪能した。

 女神様がその味に大満足したことは言うまでもない。







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