第58話 処断
ベンデルネン男爵の後ろ盾の貴族名を変更しました。
一回しか名前が出てきていないので、覚えている方はあまりいないとは思いますが……。
「カナタくん、無事だったか!」
ワームを倒しながら村に戻る途中で、ジンさんたち一行と遭遇する。
「はい、ジンさんたちも無事で何よりです」
その一行の中には緑の旅団以外のメンバーの姿も多く見受けられた。
目を引いたのは、騎士と思われる人も何人か加わっていたことだ。
極力関わらないと言っていただけに、恐らく何かあったのだろう。
「ふむ、これで全員の無事が確認できたな。とにかく会えてよかった。ワームもあまり出現しなくなったし、そろそろ引き揚げようと思っていたところだ」
ジンさんたち緑の旅団と一人の老剣士を除き、その顔には疲労の色が見えていた。
恐らくその点も踏まえての引き揚げの判断なのだろう。
ワームの数は頭打ちとなっているので、それに関しては特に異論はない。
僕たちはジンさんたちと合流し、村に戻ることにした。
避難は既に終わっているので、村の中に冒険者以外の姿は無い。
地面には無数の穴とワームの死骸、どうやらかなりの数が暴れたようだ。
居残りの冒険者は満身創痍、だが幸いにして怪我人のみ、命を落とした者はいなかった。
僕はシアラさんと供に負傷者の治療にあたる。
無事な家屋の一室に負傷者を寝かせ、別の一室に冒険者が集まる。
そこでは改めての皆の無事の確認と情報の共有、それと引き続きのワーム討伐について、以上三点が話し合われた。
もちろん、封印の魔物のことは話していない。
二日目、僕たちを含めた冒険者たちは、更に森での活動範囲を広げて探索を行う。
ちらほらと出現したワームは主を失い力が半減しているため、皆それほど苦労せずに倒せている。
この分ならば、討伐は時間の問題だろう。
夕方近くになり村に戻ると、ジンさんたちが奇妙な人たちを連れているのが見えた。
あれは確か……、この前ジンさんと揉めていた貴族だよな。
服はボロボロで、一目では誰だかわからない程やつれており、項垂れながらジンさんの後について行くさまには以前の覇気が感じられない。
他にもう二人、ん!? あれは村長か。
てっきり村の人たちと避難しているかと思っていた村長が、信じられない物を見るかのように自分の家を見つめていた。
「わ、私の家が……」
どうやら破壊された自宅を見てショックを受けているようだ。
ジンさんに促され、酔っぱらいのようにふらふらとした足取りで奥へと消えていった。
三日目、ほとんどワームに遭遇しなくなった。
夕方になり、その結果を踏まえてジンさんから依頼達成の判断がなされる。
それを聞いて急に元気になったのが、同席していた例の貴族コンビだ。
「ふむ、これでまた開発が進められるな」
「うむ、良いことだ。部下たちも減ってしまったから、そこはお前たちに手伝わせてやるぞ」
「おお、それは良い!」
「はい、良いお考えかと」
昨日までのショックはどこへやら、村長も含めて懲りない発言を繰り返す。
それを冷めた目で見る冒険者たち。
彼らの部下である騎士たちもしらけ顔だ。
「お待ちください。まだ貴方たちの処断がなされていません」
ジンさんが三人の止まらない馬鹿発言に待ったをかける。
「処断? 冒険者風情が何を言っておる。 それに、こうして怪物も討伐し、皆無事だったのだから万事解決ではないか」
仲間の大半を失った騎士たちの目が凄いことになっているが、三人はその事に全く気付いていない。
「だが、また怪物が出てきても困るしの。よし、お前たちに我らを守る栄誉を与えよう! 光栄に思うが良いぞ」
駄目だこいつら……。
誰もが心の中でそう思ったであろうその時、二人の男が部屋の中に入ってきた。
一人は見た事がある黒装束の男、もう一人の方は知らない男だ。
文官のような身なりから見て、どこかの役人なのだろうか。
「おお、ターラント子爵ではありませんか。我々の応援に駆け付けてくれたのですかな」
「素晴らしい! 協力の仕方次第では、利益の一部の譲渡も少しは考えなくもありませんぞ」
どうやら黒装束の男と一緒に入ってきたのは貴族らしく、二人の男爵はそれを見てさらに意気揚々と勝手な事を言いだす。
しかし、ターラント子爵と呼ばれた男は無表情のまま、二人に対し一枚の紙を突き付ける。
「ハラピーピ男爵ならびにベンデルネン男爵。王国議会を騙し森を開発、魔物を大量発生させた罪によりそなたたちの領地を没収する。これは議会の決定である」
それを聞いた当人たちは笑顔のまま固まる。
そして数秒が経ち、二人は再起動して喚き立てる。
「子爵殿! 何かの間違いではないか! 有り得ません!! ガイエル様は何と?」
「そうです! ペロン侯爵は何と仰られているのですか!? 急ぎ取り次いでもらいたい」
「――無駄だ。ガイエル侯爵とペロン侯爵も魔物については聞いていなかったと言っている。諦めるんだな」
ターラント子爵から少し悔しそうな表情が見えた気がした。
その言葉を聞いた元男爵二人は、「そんな馬鹿な……」「有り得ない……」などとぶつぶつと独り言を呟いている。
「だが、議会も鬼ではない。お二人には新領地の開拓の命が下っている。そこを開発し領地とするが良い」
「「何と! まことか!?」」
僅かに見えた光明に、二人がそろって顔を上げた。
「本当だとも。ロキアス山脈の一角であるターラント山、これが新しいお二人の領地。早期の開発を期待するとのことだ」
聞いたことがある。
以前ダグラスさんと行ったあの山だ。
二人もその山の厳しさを知っていたのか、再び項垂れてしまった。
この話は終わったとばかりに、子爵は次の話を切り出す。
「それとガザ村長はいるか?」
「はい、私ですが……」
恐る恐るといった風に村長が名乗りを上げる。
「お前は魔物発生を知りながらその二人と結託し森を開発、利益を得ようとした疑いがもたれている。事実か?」
「いえ、子爵様。とんでもございません。これは脅されて仕方なく行っていたことです」
元男爵たちはショックから立ち直れず、その言葉を聞いていない。
これ幸いとばかりに村長が捲し立てる。
「一時はどうなるかと思いましたが、今回の子爵様の名采配により私は晴れて自由の身、改めてお礼を申し上げます」
そう言って村長は深々と頭を下げる。
だが、彼の運は自身が思っていたよりも低かったようだ。
「馬鹿者が!!」
その怒声が部屋の中を響く。
「村の者からの証言によりお前のやっていたことは明白。正直に言っていれば、弱い立場であったことも踏まえて情状酌量の余地があったのだが――。ガザ、お前を村長の役から解任し、財産没収の上、村からの永久追放とする。これは命令だ!」
「そ、そんな……。子爵様、ご再考を!」
ガザは必死に子爵の足元に縋る。
それを意に介さずターラント子爵が告げる。
「これからこの森は国の管理下に置かれる。村の復興に関しては、多少なりとも国の援助が出るだろう。以上だ!」
元村長を振り払い、部屋から去っていく子爵。
それに代わって、黒装束の男が静かに口を開く。
「緑の旅団の判断の通り、今回はこれにて依頼完了となります。報酬は街のギルドで受け取って下さい」
それだけ言い残すと、消える様な速さで部屋から出て行った。
「……わ。私はこれからどうすれば……」
「ゆ、夢だ! 夢に違いない! 誰かこの悪夢から早く目覚めさせてくれ!」
「私の財産が……。中央への政界進出が……。何処だ、何処で間違った」
放心状態の三人を残し、次々と部屋から退出する冒険者たち。
騎士たちからも見放された彼らが立ち直るのはまだまだ先になりそうだ。
せめてこれからはまっとうな道を歩むこが出来るよう、女神様に祈ってあげよう。
僕たちは、他の冒険者の後に続き部屋を退出した。
村を出て、僕たちは別荘へと戻る。
そこには何時もと違う顔が出迎えてくれた。
「おお、カナタ! 戻ったか!」
迎えてくれたのはゴランたちオークの一団。
新たな移住者たちであった。
封印の魔物を倒した後、僕たちとオークの面々で話し合いが行われた。
内容は別荘への移住について。
今後人間たちの開発の手が加わるのはどうしても避けられないだろう。
祠が意味を失った今、彼らたちを森に縛り付けるものは何もない。
そこで僕たちは別荘への移住を提案した。
争いの無い土地への移住話に始めは半信半疑だったゴランたちも、今では十分満足しているようだった。
「うむ、見れば見るほど素晴らしい所だ! 皆、嬉々として新居を作っておる」
オークたちには新たに出来た森に住んでもらうことにした。
別荘の北部分、今までオークたちが住んでいたのと見た目ほぼ変わらない森である。
ひょっとして魔力の木もあるのだろうか。
後で調べてみることにしよう。
「改めてオークを代表してお礼を。儂に出来る事があったら何でも言ってくれ。この命いつでもくれてやる!」
義理堅いゴランが僕たちに向かい頭を下げ、物騒な事を言いだす。
いや、ここは平和だからそんなことしなくても大丈夫だと思います。
「一件落着だね♪」
ミウの言葉に僕は頷く。
こうして、今回の騒動は終末を迎えた。
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