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第5話 実践特訓

 初日の特訓から4日経ち、今日は訓練の一環としてバレン村の外で狩りを行う事になっている。

 もちろんミウも一緒だ。


「頑張ってスキルポイントゲットだよ♪」


 ミウは耳をぴこぴこと左右に揺らし、やる気を表現していた。


 今回の狩りの獲物はワイルドウルフ、村近辺によく出没する狼の魔物だ。

 体長は二メートル程で毛並みは灰色、眉間にある赤い筋のような毛と、鋭い牙が特徴とのこと。

 何だか見た事があるような特徴だと思ったのは恐らく気のせいでは無いだろう。

 繁殖力が高く、それほど強くないことから、村の貴重なタンパク源となっているらしい。

 個体が増えすぎても困るので、村では実益も兼ねて定期的な狩りを行っており、今回はそれに同行させてもらう形だ。


 村から北へ約三十分、今、目の前には草原が広がっている。

 天気は雲一つない快晴、日差しが強い分、時折吹く風が涼しくて気持ち良い。

 道中、赤や黄色の葉を落とす落葉樹のような植物を見かけたが、今の季節は秋なのだろうか?

 そもそも季節とは地球の自転軸が太陽から見て傾いているから起こる現象だ。

 この世界の大地と今僕を照らしている恒星が地球と太陽の関係と同じかは分からない。

 季節はそれらの関係を考察するパロメーターの一つとなるだろう。 

 そんな事を考えていると、ダグラスさんから声がかかる。


「坊主! そろそろ奴らの生息区域だ。奴らは一匹一匹は弱いが何匹かで群れているのが特徴だ。どの魔物と対峙するときもそうだが、決して油断するんじゃねえぞ!」


 ダグラスさんに気合を入れられ、注意深く辺りを見回す。

 すると、百メートル程先の草むらで、何かが動いた気配がした。


「ダグラスさん」


 小声で呼びかけると、ダグラスさんはニヤリと笑った。


「よく気付いたな、上出来だ」


 頭をポンポンと軽く叩かれる。


「七匹ってところか。少し離れている四匹は俺が始末するから、残りの三匹は坊主とチビ助でやってみろ」


 僕は黙って頷いた。




 背の高い草むらの中を屈むようにして、ミウと供にゆっくりと標的に近づいていく。

 ダグラスさんは別の四匹の方に向かっているが、攻撃のタイミングは僕たちに合わせてくれるそうだ。

 ゆっくりと一歩ずつ、石橋を叩いて渡らない位に慎重に足を進める。


 そしてとうとう、草むらの隙間から見えるワイルドウルフの姿を視界に捕えた。

 一匹、二匹、……、もう一匹は何処だ?


「カナタ、向こうに一匹いるよ」


 残り一匹はミウが発見してくれた。

 よし、これで三匹の位置は把握できた。

 まだ三匹ともこちらには気づいていない様子だ。


「ミウ、少し離れている一匹を任せても良い? 魔法で牽制してくれると助かる。もちろん無理はしない程度にね。それとファイアボールはやめてね」


 草むら一帯が火の海、流石にそれは遠慮したい。


「わかってるよ、カナタ。まかせといて!」


 耳をぴんと立てて、自信満々に答えるミウ。

 以前襲われていたとは思えないほどの自信だ。


「さて……、行くか」


 

 少し緊張で手が汗ばんでいた。

 その汗をズボンで拭き、ダグラスさんに借りているロングソードを再度握りなおす。

 準備は万端、行くぞ!

 大きく息を吸い、加速をつけて手前に見える一匹に襲い掛かる。


「グガアッ!」


 ワイルドウルフがこちらに気付く。

 だが、もう遅い。

 駆けた勢いのまま、ワイルドウルフの横をすり抜けるようにして剣を払う。

 首と胴体の離れたワイルドウルフは、その場に力なく崩れ落ちる。


 後二匹……

 

「ダークアロー!」


 少し離れた場所でミウの詠唱が聞こえる。

 ミウの目の前にゴムボール大の黒い球体が三つ出現、それらが勢いよく射出され、矢のように一匹のワイルドウルフに襲い掛かる。


「キャイン!」


 一つの矢は外れるものの、残りの矢がワイルドウルフの首筋と胴体に命中する。

 うん、ミウの方は大丈夫そうだ。


 ミウの様子を確認していたほんの数秒の間に、もう一匹のワイルドウルフは一旦重心を後ろに落とし、体中のバネを使って僕目掛けて勢いよく飛びかかってきた。


「ガアアアアアッ!!」


 大きく開けた口からは鋭い牙がむき出しになり、獲物を切り裂き噛み砕かんと僕の目の前に迫る。


「喰らえっ!!」


 その大きく開いた口目掛けて剣を突き立てる。

 突き立てた剣もろとも僕の腕はワイルドウルフに飲み込まれるが、その口はもう閉じることも、僕の腕に牙を突き立てることも無かった。


 剣を引き抜き、空中で一回振るう。

 べっとりと付着したワイルドウルフの血が飛散する。


「カナタ〜、終わったよ〜!」


 ミウは僕に駆け寄り大きくジャンプ、受け止めた僕の腕の中にすっぽりと納まる。

 持っていた剣はもちろん危ないので手放した。


「すごい? これで新しい魔法が覚えられるかな?」


「ああ、帰ったら確認してみよう」


 ご機嫌なミウの頭を撫でながら僕は答えた。




「ようやく終わったか」


 振り返るとそこにはワイルドウルフ四匹を軽々とかついでいるダグラスさんがいた。


「まあ、初めてにしては上出来だ。よくやった」


「はい、ありがとうございます!」


「……うむ。だが分かっているとは思うが、冒険者をやっていくにはまだまだ未熟だ。だが、残りの日程で基本的なことは一通り叩き込んでやるから安心しろ」


 これからのスパルタ特訓を思い、素直に安心できない僕がいたのは仕方のないことだと思いたい。

 その後、魔物の素材などの剥ぎ取り方法のレクチャーを受け、さらに二回の戦闘を行ってから村へと戻った。




「おかえり、どうだった?」


 アリシアさんの出迎えにダグラスさんは笑顔で答える。


「二十匹って所だな。一匹だけ残して、後はジジイの所に置いてきた。ほら、よろしく頼むぜ」


「まかせといて。じゃあ出来上がるまでもうちょっと待っててね」


 ワイルドウルフの肉を受け取ったアリシアさんは、嬉々として台所へと引っ込む。


 そして一時間後、その肉は見事な料理となって僕たちの前に再び現れた。

 とても美味しかったです、はい。



「魔法♪ 魔法♪」


 部屋に戻ると、即座にミウが魔法ステータスを開く。

 ポイントは――


「やった! 10ポイントだよ!」


 ミウが飛び跳ねて喜ぶ横で、僕も自分のステータス画面を開く。


「あれ? 6ポイントか。思ったより増えていないな」


 何か法則があるのだろうか?

 後で検証してみよう。


 僕はヒールLV3を6ポイントすべて使って取っておいた。

 何が起こるか分からない世界、回復って大事だよね。

 ミウも幾つかの魔法を取ったみたいだ。



「さて、そろそろ寝るか」


「うん。明日が楽しみ〜♪」


 明日の特訓に備えて、僕は早めに床についた。



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