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第57話 一番チートなもの

久々のお昼投稿です。

 巨大な魔物は、全長4メートルほどの身体を突風を受けたかのように左右に揺り動かし、その頭についているタンポポのような花弁を矢のようにまき散らす。


「Muuuuu……」


 無数にばら撒かれた花弁の襲撃をミウとミサキが炎の魔法で追撃する。

 矢の数は多いが防ぎきれない程ではなく、向かってくるもの全てを焼き尽くした。


「うわぁ! 何だ!」


 離れたところにいるオークたちから悲鳴が上がる。

 膝をついているオークの正面には剣を振り上げた別のオークが、今にもそれを振り下ろそうとしていた。


「やめんかっ!!」


 ゴランの一撃に吹き飛ぶ剣持ちオーク。

 しかし、痛みなどないかのように立ち上がり、独り言のように何かを呟いている。


「……カナタ、あそこ。恐らくあれが原因」


 ミサキが注目したのはオークの脇腹。

 封印の魔物が飛ばした花弁がその部分に突き刺さっていた。


「ゴラン! 脇腹の花弁だ!」


 こちらの声が聞こえたのか、ゴランが勢いよく突進、その体当たりに相手がよろけた隙に刺さっていた花弁を抜き去る。

 花弁を抜かれたオークは、一瞬ビクッとした後にその構えを解いた。

 どうやら正気に戻ったようだ。



 そうしている間にも、触手による攻撃は続いている。

 ミウの手数の多さとミサキの魔法の範囲の大きさで何とかそれを凌いでいた。

 

「アリア、雷で本体を狙えるかい?」


「やってみるの」


 アリアの矢は触手の追撃には向かない。

 ならば、それをわざわざさせる必要はない。

 狙いはあくまで本体、ミウとミサキが頑張って防いでいる今が絶好の機会だ。


 目を閉じ集中するアリア。

 引き絞った矢の先は黄色く光り、時折何かがはじける音が聞こえる。


「てやぁっ!!」


 まとめて放たれた三本の矢が、まるでそこに道があるかのように一直線に敵目掛けて突き進む。

 異変に気付いた魔物がその触手を使い、矢を撃ち落とそうと追撃するが、その抵抗は無駄に終わる。

 触手を貫いてもその勢いを落とすことなく魔物の本体を突き刺し、その場所から稲光のような輝きが発生する。


「うわっ!!」


 その眩しさに、僕は戦闘中にもかかわらず目を瞑ってしまった。


 

「Guuuuu……」


 唸り声のような音が僕の耳に届く。

 僕はゆっくりと目を開ける。


 封印の魔物はその場を一歩も動いていなかった。

 触手は崩れ落ち、その表皮からは白い煙が上がっている。

 『パチパチッ!』という音が聞こえ、木が焼けたような匂いが辺りに充満する。

 しかし凄い効き目だ。

 ひょっとしたら雷が弱点だったのかもしれない。


「我らの勝利だ!!」


「「「おおおおおおっ!!!!」」」


 オークたちがその魔物の姿を見て雄たけびを上げる。

 しかし、僕は構えを解かなかった。

 僕の感が、まだ終わっていないと告げている。


「カナタ?」


 ミウが首をかしげて僕に呼びかけてた。


「多分まだだよ、ミウ。油断しないで」


 その言葉にミウも真剣な表情で正面を見据える。


 その時、『バキバキッ!』という音と共に魔物の幹が真っ二つに割れ、何がが現れる。

 それは小さな手のようなもの、指は無く只々丸い。

 さらにはその胴体が中から這い出すように出現した。

 

 『木人』、その言葉が一番しっくりくる。

 丸い顔には表情どころか顔さえなく、木製らしき細長い胴体に関節つきの手足が人と同じ箇所についていた。


 木人は新しく出来た身体を慣らすかのように首を左右に振り、手足をぶらぶらさせている。

 オークたちもその存在に気づき、槍や剣を木人に向かって構えた。


「ふん、死にぞこないめ! 止めを刺してくれる」


 血気盛んな若いオークが、止めとばかりに槍を突き立てる。

 しかし、木人はそれを円を描くかのような動作でするりと横に躱し、その反動を利用してオークの後頭部に裏拳を叩きこむ。


「ぐはっ!」


 オークの巨体が吹き飛び、そのまま飛んだ先にあった木に激突する。

 若いオークはその幹に添ってずるずると地面へと崩れ落ちた。


「気をつけろ! 敵は手強いぞ!」


 仲間の惨状を見て、気合を入れなおすオークたち。

 何人かは吹き飛ばされたオークの元へと向かっていた。


 ミウが風の刃を飛ばす。

 アリアが氷の矢を射る。

 しかしどれも当らない。

 さらにミサキの炎さえ掻い潜った木人は、僕の剣をするりと躱し、後方のミサキに接近する。


 その体当たりを受け、吹き飛ばされるミサキ。

 僕は木人に後ろから追撃を加えるが、後ろにも目があるかのように一向に当たらない。


「ミウ! ミサキは!?」


 ミサキに駆け寄って治癒魔法をかけていたミウに確認する。


「大丈夫。少しダメージがあるだけだよ」


 その回答にほっと胸を撫で下ろす。

 そして、オークたちを襲撃している木人を睨みつけた。


「ミウ。オークたちの治療も頼む。あれは僕が倒す!」


 身体能力強化の魔法をかけ、大地を大きく蹴る。

 身体の浮くような感覚を身に纏い、僕はオークたちを蹂躙する木人に体当たりを敢行した。


 お互いがその衝撃により前後に吹き飛ぶ。

 しかし、何事も無かったかのように木人はひょいと起き上がる。

 コキコキと鳴らすかのように首を左右に振る仕草はまるで人間のようだ。


「はぁっ!!」


 それよりも早く立ち上がっていた僕は、その隙を見逃すまいと振りを小さく、尚且つ出来る限りの力を込めるように下から上へと黒い軌道を這わせる。

 手応えはあった!

 狙った位置とは違ったが、初めて命中した黒曜剣は、木人の細い右腕を刈り取っていた。


「!!!???」


 自らの腕が落とされたことに怒りを感じたのか、木人は先ほどまでとは比較にならない位に速い左拳を連続で放つ。


「冷静に……、感覚を研ぎ澄まし……」


 ダグラスさんとの特訓を思い出しながら、慌てず、冷静にその拳を躱して反撃する。

 しかし、こちらの剣も同じように躱され、お互いに空振り状態が続く。


 遠目でミウたちの姿が確認できる。

 どうやらオークたちの治療は順調に進んでいるようだ。

 アリアやゴランたちのこちらを伺う姿も見えた。

 恐らく、あまりに接近しすぎているため、手を出しにくいのであろう。


 顔を突き合わせるくらい至近距離の攻防、まだ攻撃はお互いに当たらない。

 今の僕には何が足りないのか……。

 霞がかっている記憶の中から、あるかどうかわからない物を一生懸命に検索する。

 そして、転機となるであろう何かが僕の頭の中に浮かんだ。


「フリーズ!」


 木人を中心にその足元が凍りだす。

 それは簡単な氷の魔法。

 しかし、短い詠唱とはいえ、僕には一瞬の隙が出来る。

 拮抗していた戦闘において、その隙は致命傷ともいえるものだった。


「カナタ!!」


 ミウの悲鳴にも似た叫びが僕の耳に届く。

 目の前では木人の渾身の正拳突きが、スローモーションでも見るかのように僕の胸へと吸い込まれる。

 既に防御は間に合わない。


 

キィィィィン!!!!

 






 突き抜けるような高い音が森に響く。

 それ以外の音は聞こえない。

 まるで、周りの時間が止まったかのようだ。


 頭から胴体にかけて亀裂が入り、木人は左右真っ二つに分かれてその活動を停止する。

 そして、その場に立っているのは木人ではなく僕。

 渾身の突きを喰らったのにもかかわらず、無傷でそこに立っていた。


「カナタ!!」


 真っ先に駆け寄るミウを両腕で抱える。


「大丈夫? ミウ、心配したんだからね!」


 ぐりぐりと額を僕の胸にこすり付けてくるミウ。

 その頭を僕は優しく撫でた。


「ミウ、心配かけてごめんな。あれしか方法が無かったっていうか……」


 地面にボロボロになって崩れ落ちているのは身代わりのロザリオ。

 前衛が一人なことを心配され、先日アリアに貰ったものだ。

 ぶっつけ本番で不安だったんだけど、その効果はしっかりと発揮されたようだ。


 戦闘での魔法詠唱、それによる足止め。

 そう、僕は剣士では無く魔法剣士だ。

 せっかく使える魔法を封印して戦う理由は何もない。


 ただ、今回に関しては超近接戦闘だったため、詠唱する隙は無かった。

 それを可能にしたのが身代わりのロザリオだ。

 大ダメージを1回のみ肩代わり、鑑定結果に違わぬ効果を発揮してくれた。


 木人の腕が二本のままだったら……。

 身代わりのロザリオを身に着けていなかったら……。

 それを考えるとギリギリの戦いだったが、何とか生き残れた。

 ひょっとしたら僕が一番チートなのは運なのかもしれない。



 僕は大樹にもたれて座っているミサキの元へと向かう。

 ミサキは僕を笑顔で迎えてくれた。


「……ぐっじょぶ」


 親指を立てるミサキ。

 うん、元気そうでよかった。

 

「カナタさん、お疲れさまなの」


 とてとてとこちらに進み出るアリアの頭を、『アリアも頑張ったね』と撫でてみると、何やら顔を赤くして俯いてしまった。

 オークたちもこちらに向かってきている。


 とりあえず疲れたから休みたい。

 僕は大樹に寄りかかり、木の隙間から見える空を見上げた。






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