第56話 復活
第55話のラスト部分ですが、貴族と村長が死亡⇒存命 に修正しました。
――ということで、彼らはまだ生きています。
以上、ご報告でした。
「フシャァァァァァッ!!」
「むうっ、出たな怪物! 儂の剣の錆にしてくれよう!」
目の前に現れたワームに対し、老剣士が剣を振るう。
ワームはその胴体を深く傷つけられ、巨体をのた打ち回らせる。
しかし、出現したワームはこの一匹だけでは無かった。
「ぎゃあっ!」
背後から聞こえた悲鳴に老剣士は後ろを振り返る。
その眼には空中に高く飛ばされる若い剣士の姿が映る。
「ミルコ!!」
仲間の窮地に急ぎ助けに入ろうとする老剣士。
だが、不規則にのた打ち回るワームが邪魔をする。
地面に叩き付けられて意識を失った剣士に迫りくるワームの大きな口。
もう飲み込まれてしまうと思われたその時、一筋の赤い軌跡がワームの目の前を通り過ぎた。
「フシャァァァァァッ!!」
大きな口を一文字に引き裂かれ、ワームが痛みに悲鳴を上げる。
その目の前には真っ赤な斧を構えた冒険者、ジンが立っていた。
「シアラ! 彼の治療を頼む。ペールはあちらで苦戦している若い冒険者たちの助太刀を頼む」
「わかったわ」
「了解、頼まれた!」
ハーフリング特有の素早さを駆使して若い冒険者たちの加勢に向かうペール。
シアラが背後で若者の治療をする中、ジンは止めを刺すべく目の前のワームに挑みかかる。
「どりゃあああああっ!!」
普段の温厚な口調からは想像し難い雄叫びを上げながら、眩しいくらいに赤く発光する斧を振り下ろす。
その容赦ない一撃は、ワームの息の根を止めるのには十分すぎるものであった。
「ジン殿、かたじけない」
相手をしていたワームを始末して駆け寄る老剣士に、ジンは笑顔で告げる。
「バクス殿、無事で何よりです。しかし、ここまで数が多いとなると、こちらも一緒に行動した方が良いかもしれませんね」
ジンたちが見つめる先では、ペールがその素早い動きでワームに止めを刺していた。
「うむ、そうですな。儂の孫たちは恥ずかしながらまだまだ技量不足、是非こちらからもお願いする」
バクスの右手がジンの右手によりしっかりと握られた。
こうして、二組のパーティーは行動を供にすることとなる。
「しかしこの状況、カナタくんたちは大丈夫か……」
そのジンの独り言は自らの足音に消され、誰に聞かれるでもなく空中に霧散した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ゴラン!!」
「おお、待っていたぞ、カナタ。すぐ片づけるからしばし待て!」
そのセリフが言い終わらぬうちに、ゴランは目の前にいるワームに強烈な一撃を与える。
ワームはそのまま崩れ落ち、それを他のオークたちが囲み、剣や槍を突き刺して止めを刺す。
この場には他にも何匹かのワームが横たわっているが、それはすでにオークたちが倒した死骸のようだ。
「どうやら間に合ったみたいだね」
「……ええ、そうね」
前回の二の舞は踏むまいと既に別荘に送り返したユニ助に感謝をしつつ、ゴランたちの元へ近づく。
アリアもふらふらした足取りで頑張ってついて来ている。
見た感じ負傷しているオークはまだいない。
負傷者がいればまず治療をと思ったが、どうやらいらぬ心配だったようだ。
「ふん、これしき大した事ないわ。前回よりもまだ数は少ないしな」
心配するなとばかりに胸を張るゴラン。
後ろにいるオークたちもどこか誇らしげだ。
「ところで、封印はどんな感じなの?」
「ああ、そちらは残念なことに確実に弱まっているな。恐らくワームの吸収したエネルギーが影響しているのだろう。いつ封印が解けてもおかしくない」
「そうか。じゃあ出来る限り万全の態勢で迎え撃たないとね」
「うむ、そうだな。おっ、どうやらまた来るぞ!」
地面が数か所盛り上がり、そこから予想通りワームが顔を出す。
「カナタ! あちらは任せて良いか」
「ああ、任せてくれ!」
合計四匹のワームに対し、僕たちとゴランたちでそれぞれ二匹ずつ受け持つ。
位置的にも半々に分かれているのでちょうど良い。
「えいっ!!」
いつの間にかユニ助酔いから復活していたアリアが弓を放つ。
青白く光る矢はそのままワームの腹に吸い込まれるように命中した。
さらに、そこから放出される冷気によりワームの動きが鈍る。
もがくように下げた頭に、僕はそのまま剣を振り下ろした。
ビクン、ビクンとの痙攣が次第に弱まり、そのままワームの生命活動が停止する。
もう一匹についてはフォローの必要が無かった。
無数の切り傷をつけたまま黒焦げの丸焼き。
ミサキとミウがどや顔でこちらを見ている。
「ミサキ、山火事には気を付けてね」
「……無問題」
前回の戦闘で多数の木が切り倒され、既にこの場一体が広場のようになっているので、狙いどころを間違えなければ問題ないとは思うが……。
おっ、どうやらゴランたちも無事に倒したようだ。
その後、ランダムに出現するワームを、ゴランたちと協力して難なく倒して行く。
前回の苦戦が嘘のように順調だ。
特にこの黒曜剣、抵抗なくワームの胴体を切り裂く事ができ、かなり重宝している。
やっぱり武器の強化は大事だと改めて感じた。
その姿を赤く染めることにより、周りの景色が時間の経過を僕たちに伝える。
封印の弱まりの影響からか、ワームの出現頻度も次第に上がってきていた。
しかし、僕たちは全員で対処はせず、交代で休憩を取りながら必要最低人数にてワームたちを倒している。
思ったよりも苦戦せずに倒せるとわかった今、この戦闘はいわばおまけ、メインの戦闘の為にも体力と魔力は温存しておかなければならない。
「カナタ〜、いっそすぐにでも出て来て欲しいね。疲れちゃうよ」
「そうだね、確かにその方が良い」
ミウの言いたいことはわかる。
このまま二・三日も同じ状態が続くとなると、体力はもちろん気力についても大分削られているだろう。
どんな魔物が出てくるかわからないが、出来る限り万全に近い状態で戦いたい。
「……ミウ、どうやらその心配は無さそう」
既に力の衰えにより隠蔽機能が無くなっていた祠が細かく振動する。
その揺れは次第に大きくなり、僕達が立つ地面をも揺らす。
「来るのか!?」
僕を含め、この場にいる全員がその真っ白い建物を凝視した。
その特徴である三角屋根が崩壊し、その石畳の土台へと落下する。
その天井部分から現れたのは無数の触手。
それは小さなワームの様な形をしており、先端部分にはワームと同じく口のような穴が空いている。
祠の崩壊はさらに続き、魔物の全貌が次第に明らかになる。
それは言うならば植物のような魔物。
胴体部分は樹木の幹のような形状をしており、その天辺には黄色い花弁が色鮮やかに咲き誇っていた。
「Muuuuu……」
声とは形容しがたい異音を発しながら、その魔物はゆっくりとこちらに近づいてくる。
その本体の速度に反して、無数の触手が加速しながら襲い掛かってくる。
「だあっ!」
僕は一歩前に出て、触手を下から払う様にまとめて刈り取った。
触手はその痛みからなのか、本体に向かって撤退する。
しかし、刈り取って地面に落ちたその欠片は、蠢きながら再び僕に飛び掛かってきた。
「……ファイアアロー」
後方から放たれた炎の矢がその欠片たちを焼き尽くす。
どうやら植物っぽい見た目に違わず、炎の魔法は有効なようだ。
「ミサキ、助かった」
「……無問題」
だが、安心はできない。
魔物の触手は、既に何事も無かったように復活している。
オークたちも、その子ワームとも言うべき欠片に苦戦しているようだ。
「不味いな。どうやら数の有利はあまり当てにならないらしい」
僕は黒曜剣を正眼に構え、再度襲いかかる触手を迎え撃った。
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