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第55話 いざ、戦場へ

後半部分の変更と、その時のコピペ作業をミスしてしまったための上げ直しです。

ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。

「う〜ん、カナタ、おはよう」


「おはよう、ミウ」


 僕たちは村の宿屋にて朝を迎える。

 別荘に比べて寝心地は格段に落ちるが、この際贅沢は言っていられない。

 今日は村に集まった冒険者パーティーが一堂に介して話し合うことになっていた。


 ゴランたちとは昨日のうちに情報交換が済んでいる。

 これからワームとの戦闘になるだろうが、オークたちと冒険者がかち合う確率はほぼ無いだろう。

 なぜなら、冒険者側は恐らく村の周辺の防衛がメインとなる筈、森の奥にある祠周辺にて魔物の復活を警戒するオークたちとは活動範囲が大きく異なるからである。

 また、これから村人の避難がスムーズに進むと仮定すれば、残された問題は一つのみ、復活した魔物の討伐である。

 これに関しては他の冒険者からの助力は望み薄、僕たちとオークで何とかするしかない。

 ――となると、今回の話し合いで勝ち取らなければならないのは自由の身、遊撃部隊のような扱いにしてもらうことである。

 

 隣の部屋で寝ていたミサキとアリアとも合流し、話し合いの場である村長の家へと向かう。

 時間的にはまだ少し早いが、遅いよりは良いだろう。




「うるさい、うるさい。うるさ〜い!! お前たちは黙って私たちについて来れば良いのだ!!」


 道すがら、ヒステリックな金切り声が僕の耳に届く。


「何か揉めてるみたいなの」


「ちょっと行ってみるか」


 どうやら森への入り口で何か揉めているようだ。

 僕たちは村長の家に行くのは後回しにして、そちらに向かうことにした。




「ハラピーピ男爵様がこう仰っているのだ。その通り従わなくてどうする」


「いや、だども村長さん。儂らはここから避難するように言われているだ」


 そこには貴族と村長、その周りには鎧を着た騎士、そしてその正面には大勢の村人たちが集まっていた。

 これ、何となく展開が読めた気がする……。


 僕が前に出ようかどうか迷っている間に、勇者のように堂々と前に進み出る人物が一人。

 僕の知っている顔、ジンさんである。


「騒がしいと思って来てみたら……、一体何をやられているんですか?」


「ふん、決まっておろう。こいつらを連れて森の開発を行うのだ」


 実用的でない派手な意匠の鎧を身に着けた貴族がその問いに答える。

 いかにも「自分は戦闘はしません」的な装いだ。


「村の人たちには避難勧告が出されています。連行の強制はできない筈ですが……」


「ふん、知ったことか。わざわざ村のためを思って開発をしてやっているのだから、黙って私の言うことを聞いていれば良いのだ」


 村のためって……、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものだ。

 その貴族の答えを受け、ジンさんはその隣にいる村長に目を向け問いただす。


「村長殿もそのお考えということで宜しいか?」


「い、いや……、私は……」


「当然だ。何を今さら聞くことが有ろう。さあ、わかったらそこを退け、邪魔だ!」


 口ごもる村長の代わりに貴族が答える。

 しかし、ジンさんに退く気配は無い。


「聞けませんな。そもそも避難勧告の決まりごとについては国とギルドの約束事だという認識はおありか?」


「それがどうした。貴族たる私の名において村人を徴収すると言っておるのだ。何が悪い」


「悪いですな。その約束を反故にするということは国はギルドとの協力関係を貴方様の判断で破棄したことになります。その責任が貴方様に取れますか」


「むっ、それは……」


「各国における冒険者ギルドの役割はご存知かと思います。お互いの為にもここは引かれた方がよろしいと思いますが、如何ですかな」


 睨みで人を殺せるくらいの目線を受けてもジンさんに動じる気配は全くなかった。


「く、くそっ! 行くぞ、お前ら」


「お、お待ちください、ハラピーピ様!」


 肩を怒らせ去っていく貴族の後を村長が追っていった。

 辺りにはほっ(・・)とした空気が伝わる。


 その後、ジンさんの周りには村人が集まり、しきりにお礼を言われていた。

 僕たちは特に声をかけることなく、そのまま踵を返した。






 

 それからしばらくして、村長不在の部屋の一角を使い冒険者たちの顔合わせが行われた。

 集まったのは8組のパーティー、総勢にして26人の冒険者だ。

 ベテランの雰囲気を醸し出している老剣士、落ち着きがなく周りをきょろきょろと見回す若い冒険者などその面子はバラエティーに富んでいる。

 かくいう僕たちも、周りからはそう見られているかもしれないが……。

 おっと、ジンさんの話が始まった。

 耳を傾けるとしよう。 


「さて、揃ったようなので始めさせてもらう。私が今回の指揮を取らせてもらう緑の旅団リーダーのジンだ。今回の戦いについてある程度の内容は聞いていると思う。2組については村人の避難誘導、残りの6組についてはワーム討伐の任務についてもらう」


 ジンさんは一旦言葉を区切り、周りを見回す。

 特に発言者は無く、皆大人しく次の言葉を待っていた。


「村人の避難場所はベラーシの街、受け入れ準備は出来ているので避難誘導のパーティーは今から村の人に指示を出し、準備ができ次第すぐに向かって欲しい」


 数名が立ち上がり部屋から出ていく。

 どうやら彼らが誘導役のパーティーの様だ。


「残った方々は私と供にワームの殲滅に力を注いで欲しい。この村に残るパーティーが2組、森の中での戦闘に4組を予定している。村人たちが脱出し終わっても、回復・連絡役と不測の事態に備えて2組にはそのまま村に待機してもらいたい。以上が大まかな編成だが、これに異論が無い様ならこちらで役割を決めさせてもらうが――」


「すまん。質問なのだが、森の中に入っている貴族連中はどうするつもりだ」


 白髭の老剣士がジンさんに質問する。


「彼らについては自衛能力があると判断する。わざわざ我儘につきあってこちらの戦力を削ることは避けたい」


「ふむ、その判断には賛同する。ならば儂からは特に言う事無し」


 満足したように老剣士が頷く。


「さーて、村に残るパーティーを決めるよ。希望があったら言ってくれ」


 ペールさんの掛け声から始まった分担決めは、特に大きく揉める事も無く完了する。

 その結果、僕たちは森での戦闘をすることにすんなりと決まった。

 村に残りたいと希望するパーティーが多かった為だ。

 恐らくは森にいる貴族との接触、その煩わしさを回避したいが為であろう。

 

「では、早速行動を開始してくれ。皆に女神様の加護が有らんことを」


 ジンさんの言葉を最後に、皆それぞれの準備に取り掛かった。



 

「カナタくん、少し良いかな」


 ジンさんに呼び止められ、僕は足を止める。


「はい、何でしょうか」


「ふむ、以前君が言っていた封印の守護者の件だが、彼らに助力は頼めないのかい?」


「…………たぶん無理だと思います。彼らには戦闘能力が無いですから……」


「そうか……。いや、それだけだ。呼びとめてすまなかったね」


 それだけ言うと、ジンさんは自らのパーティーの元へと戻っていった。




「戦闘能力ないの?」


 アリアの質問に僕は答える。


「彼らは封印された魔物の対処とその周辺のワームで手一杯だからね。そうでなくとも種族的に共闘出来ないだろうし」


「そうだね〜、言葉も通じないしね」


 ミウの言う通り僕らが特殊、普通の人はオークの言葉がわからない。

 出会ったら戦闘になるのは間違いない。


「……早く行きましょう」


 南門には何組かの冒険者が早々に集まっていた。

 僕たちも足早に彼らと合流することにした。



 他3組のパーティーと共に森に突入した僕らは、封印の祠を目指し奥地へと向かう。

 いつワームが出てきてもおかしくないので、進路妨害される前に早めにゴランと合流しておきたい。

 幸いにも森に入った後の各パーティーは別行動、僕らを止める者はいない。


 ある程度森の中を進み、周りに誰もいない事を確認してから、別荘でくつろいでいた最速の乗り物を呼び出す。

 それは相変わらずの速さで風を切り、あっという間にゴランたちの元へ辿り着いた。

 


 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「お前ら、何をやっている! 早くしないか!」


 ハラピーピ男爵の金切り声が森に響く中、騎士たちは鎧を脱ぎ捨て伐採作業を行っていた。

 その中には、ふらふらで今にも倒れそうな村長の姿も見受けられる。


「こら、ハラピーピのところに負けておるぞ! さっさと手を動かせ!」


 そして、同じように怒鳴り散らす貴族がもう一人、本日この場に辿り着いたペロン侯爵の子飼いであるベンデルネン男爵だ。

 ハラピーピ男爵との回収量の差を少しでも縮めようと、必死に口だけを動かす。


「なあ、何でこんなことになったんだ?」


「知らねえよ。俺は村の人間をこき使えば良いだけっていうから志願したのに……」


「な、何故こんな目に……。これから中央政界に進出する私が。こんなことをさせられて良い筈がない」


 騎士たちは男爵たちに聞こえないくらい小さな声で愚痴を言い合う。

 その中には騎士ではない者の愚痴も混じってるのは恐らく気のせいではない。


 その時、騎士の足元で地面がかすかに揺れる。


「なあ? 何か感じなかったか?」


「いや、特には何も」


 その揺れはさらに大きくなり、たちまち騎士たちすべての感じるところとなる。


「おい、やばいぞ! これってまさか!?」


 騎士たちは急いで自分たちの装備が置いてある場所へと走り出す。

 だが、それよりも早くに地面が盛り上がり、人を丸飲みできるくらい巨大な口が姿を現す。


「ぎゃああああ! 助けてくれーー!!」


 一人の騎士がその大口に捕らわれ、悲鳴を上げながら助けを呼ぶ。

 しかし、それに応える者は誰もいない。


「な、な、な、何だ、何が起こった!?」


「お、お、お前たち、わ、私を守るのだ! 早くしろ!!」


「ひいいいい~」


 あたふたと騎士の元へと駆け寄る二人の貴族。

 腰が抜けたのか、這いつくばって後ずさりする村長。

 その間にもワームたちは二匹、三匹と獲物の元へと集う。

 伐採の為に持っていた斧で戦う騎士もいたが、その慣れない武器の為か奮闘むなしくワームの腹の中へと消えていった。


 騎士が武器防具を装備した頃には、すでにその人数を三分の一に減らしていた。

 そして、騎士たちがワームに立ち向かう中、三人の人影はその騎士たちを囮にして森への脱出を図る。


「な、何でこんな目に……、くそっ!」


「それは私のセリフだ! 私に何かあったら国の大きな損失だぞ!」


「お、お助け……」


 しかし、その願いは天に届くことは無く、突然正面の地面が大きく盛り上がる。


「「「ひいいいいい~っ」」」


 逃げ惑う三人。

 ここからが彼らの受難の始まりであった。

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