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第52話 狙い

 翌日の夕方、僕たちは約束通りギルドに顔を出した。


「おう、ようやく来たか。待ってたぞ」


 カウンターにはギルドマスターと、その隣で渋い顔をしているマリアンさんが……。


「マリアンさん、どうかしたんですか?」


 二人に挨拶をした後、気になったので聞いてみる。


「それがね。強面親父が隣にいるせいで冒険者の子が寄りつかないのよ。カナタくん、お願いだからこれを早く連れて行ってちょうだい」


 マリアンさんは、隣のギルドマスターを手で追い払う仕草をする。


「何を言っておる。何人も並んでいただろうが!」


 ギルドマスターの心外だという物言いに、マリアンさんがまくしたてる。


「ごつい、むさい、中年の三拍子揃った冒険者しか並んでなかったでしょうが! 若い子はみんな隣のカウンターに並んでるのよ! 私のここでの唯一の楽しみを返してちょうだい!」


「ふん。お前の普段の行いが悪い! だからこうして待っている間はお前の横についていたんだ。楽しみを減らされたくなかったら普段の行動を改めろ。まあ、そのセリフを吐く時点で無理と言わざるを得んがな」


 二人の口論はギルドでは当たり前のように認知されているので、これだけ大声でやりあっていてもギルド内にいる職員と冒険者は気にもしていない。

 まるで聞こえていないかのように、淡々と己の作業をこなしている。

 かく言う僕たちも「そろそろ終わらないかな〜」ぐらいにしか思っていないのだが……。



「待たせてすまんかったな。では、奥に行こうか」


 一通りのやり取りが終わり、僕はギルドマスターに連れられ奥へと進む。

 後ろの方では、「もう戻ってくるな!」とのセリフが聞こえたが、幸いなことにギルドマスターの耳には届かなかったようだ。

 



「それで、調べてわかったことなのだがな。どうやら上級貴族が絡んでいるらしい」


 ソファーに腰かけると、早速とばかりにギルドマスターが口を開く。


「上級貴族……ですか?」


 これから起こるであろう面倒事に嫌気がさす。

 ここまでの経験からいっても貴族には良い思い出が無い。

 上級って言うからには、さらに面倒なのではないだろうか。


「ああ。開発を指揮しているのはハラピーピ男爵だな。その後ろ盾であるガイエル侯爵も絡んでいる可能性が高い」


 何だか下痢でもしていそうな男爵だ。


「建前は領地の開発、一大リゾートの建設となっている。何でも王都から程よく遠く、それでいて街に近いことがその森が選ばれた理由とのことらしい。そんな場所ならわざわざ森を切り開かなくてもいくらでもあるのに、だ」


「建前って事は……本当は何が狙いなんですか?」


「すまんな、それは現在調査中だ。思いのほかガードが固くてな。だが、王都ギルドにも協力を仰いでおいたので直にわかるだろう」


 話をまとめると、今ギルドが掴んでいる情報は二つ、身分の高い貴族が動いているらしいことと、本気で森を無くすつもりだということだ。


「彼らはワームとかの情報も知ってるんですよね?」


「その対策がお前たちの見た例の騎士って訳だ。『ワームごときに後れを取る訳がない!』ってことらしいぞ。儂に言わせれば甘すぎるがな」


 いや、問題はワームでは無い。

 封印されている何か、それが一番の問題だ。


「それで、止められるんですか?」


 ギルドマスターに立て続けに質問する。

 これが何よりも一番肝心な部分だ。


「正直わからん。何よりも問題は、着工許可を王国議会承認で取っているということだ。覆すにはそれ相応の理由付けが必要になる。それにギルドは中立組織、王国に対して警告以上の介入は難しい」


「そうですか……。止められる可能性は低いって事ですね」


「いや、諦めるのはまだ早い。その本当の狙いがわかれば、他の貴族を動かすことも出来るかもしれん。お互い牽制し合っているだけにな」


 僕が落胆したのを見てか、ギルドマスターは現在考えられる希望を話してくれた。

 ギルドは現在も全力で動いてくれているとのこと。

 ならば、僕らは僕らで出来る事をしよう。


「ありがとうございました。僕たちはこれから村に向かおうと思います」


「……そうか。万が一計画を止められなかったら、ギルドとして村には避難勧告を出さねばならん。その時は協力を頼むかもしれんのでよろしくな」


「はい、わかりました」

  

 僕たちは一礼をして部屋を退出した。

 




 

 森の近くまで馬車を走らせ、ユニ助と馬車を別荘に帰す。

 

「カナタ、どうするの?」


「情報収集だね。森に入った村人たちの状況を確認しよう。何かわかるかもしれない」


「……それがいい」


 人気のない場所から森へと入った。

 パキッ、パキッ! という小枝を踏みつける音と共に、僕たちは村の南方向へ向かって進んでいく。

 しばらく歩くと、斧を木に打ち付ける音が僕たちの耳に聞こえてくる。


「あっちみたいなの」


 アリアが音のする方角を指さす。

 音が響きすぎていて僕にはどこから聞こえてくるか良くわからなかったが、どうやらアリアの耳は僕より優秀なようだ。


 音がある程度大きくなったところで、僕たちは身を屈める。

 雑草が顔に纏わりつき良い気分ではないが、この際贅沢は言っていられない。

 そのまま草を掻き分けるようにして前進する。


 そして、村人たちが確認できる位置までたどり着く。

 目の前で行われているのは、まさしく強制労働。

 騎士たちが監督する中、村人たちが汗だくになりながら木に斧を振るう。

 騎士たちは楽しそうに談笑しており、時折ペースの落ちた村人を蹴飛ばし喝を入れていた。


「おら、休んでいる暇があったら身体を動かせ! まったく、出来の悪い奴らだ」


 村人はもう話す気力も無いのか、よろよろと立ち上がり再び斧を握る。

 その光景がこの一帯のそこかしこで行われていた。


「ひどい!」


 ミウがそれを見て憤慨する。

 僕も飛び出していきたいところではあるが、ここはぐっと我慢する。


 怒りをこらえ観察してみると、倒した木を運びやすいように二人挽き用の鋸で分割、リヤカーに乗せて運び出している。

 騎士は監督・命令のみ、楽なことこの上ない。

 

 しばらく観察していたが、村人たちは只々木を切り倒して運ぶ作業の繰り返しのみ。

 特別な事をしているようには見受けられなかった。


「残念だけど何も無さそうだ。行こうか」


「カナタ、待って!」


 これ以上の収穫は無いと踏んで立ち去ろうとする僕をミウが制した。


「アリアの話を聞いて」


 何かわかったのだろうか。

 僕はアリアに視線を向ける。


「あの木、魔力の木なの」


 アリアが指差す方向には何本かの切り倒された木が――。

 他の木の扱いと比べて、より丁寧に扱っているのが一目でわかる。


「なるほど。ひょっとすると、これが奴らの狙いなのか……」


 僕は誰に聞かせるでもなく呟いた。





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