第50話 嫌な予感
早いもので、もう第50話。
読んで頂いている皆様に感謝です。
これからもよろしくお願い致します。
「すごく速いの。もう街があんなに後ろなの」
「ふん、ユニコーンの末裔たる我にかかれば当然だ。何ならもっと速く走れるぞ!」
「いや、ユニ助。馬車が持たないからやめてね」
褒められて調子に乗るユニ助をなだめる。
現在、僕たちを乗せた馬車は街道をひた走っていた。
そのあまりの速度から、すれ違う馬車に奇怪な目で見られるのはいつもの事、いちいち気にしないようにしている。
「カナタ! どちらに行けば良いのだ?」
馬車内で食事を済ませたところでユニ助から声がかかった。
御者台に出て確認すると、街道がちょうどY字の形に分かれていた。
その中央に案内標識が立っていたので、確認の為一旦馬車を止めてもらう。
標識によると、左がコルメラ草原方面、右がペタの村方面だ。
「ユニ助、左で頼む」
「うむ、わかった」
左の街道に乗り、馬車が再び速度を上げた。
しばらくすると、右手側には大きな森が見えてくる。
「あの森に住んでいたの」
「へえ〜、そうなんだ」
アリアとミウが外を見ながら仲良さそうに会話をしている。
あの森は確か……ペタの村の南にある森だな。
「アリア。ひょっとしてワームとかに出会ったりしなかった?」
「出会ったの。でも追い払ったの」
アリアにとっては魔物よりも悪意のある人間の方が怖いとのこと。
耳が痛い話だ。
そういえば、人間が開発に乗り出したって言ってたけど……。
後で確認してみるか。
視界を遮るものは何も無く、目の前一帯には只々緑が広がっている。
名前がついている平原だけあって、その緑の絨毯ははるか遠くまで続いていた。
とても目に優しい風景だ。
僕らは馬車のスピードを落としつつ辺りを確認する。
目的であるワイルドウルフの群れはすぐに見つかった。
およそ七百メートル程先、少なく見積もっても五十匹はいるだろうか。
ユニ助と馬車にはそのまま待機してもらい、僕たちは群れに気づかれないよう注意しながら前進する。
「ミサキ、炎はやめてね。一瞬で辺り一帯が火の海になりそうだ」
「……無問題」
そして戦闘開始。
ミサキの大嵐が敵を蹂躙、撃ち漏らした敵をミウの風の刃、アリアの氷の矢が襲い掛かり、瞬く間に群れを一掃する。
僕の仕事はというと、その後の素材の回収のみであった。
「今回は簡単だったね♪」
「……このくらいなら楽勝」
「アリアも頑張ったの!」
冒険初心者御用達であるワイルドウルフは、数が多くとも既に僕らの敵ではなかった。
日が沈む前には討伐部位の回収も終わり、僕たちは再び街道を来た方向へと戻る。
そして、再びY字路に差し掛かったところで、ユニ助に声をかけた。
「ユニ助。悪いけどペタの村方面に進んでくれないか」
「うむ、承知した」
それを聞いたユニ助は再び進路を南に取る。
ミサキが「どうしたの?」と言いたそうな顔をしていた。
「いや、アリアの言っていた森の開発ってのが気になってね。一応確認かな」
「……そうね。確認は大事」
あの村にはあまり良い思い出が無いので行きたくはないが仕方がない。
何も問題が無かったら即座に帰るつもりだ。
「カナタ。入り口が見えてきたぞ!」
ユニ助が馬車の速度を緩める。
村の門の方からは松明を片手に持った男がこちらに気づき、近づいてきていた。
「この村に何の用だ?」
門番らしき男は馬車の手前で止まり、松明でこちらを照らしながら話しかけてきた。
僕は一人馬車から降りて門番に応対する。
「はい、冒険者ギルドの依頼帰りなのですが、途中で夜になってしまいまして、できれば宿を取らせてもらいたいのですが……」
「ふむ、馬車の中身を確認しても良いか?」
「ええ、構いません」
こうなるかと思い、討伐部位を適当にいくつか馬車に置いてある。
さすがに何も無しだと不自然だからね。
門番の男は予想通りそれらを確認しているようだ。
「……よし、通っていいぞ。ただし、滞在は一日のみ。明日にはこの村を出てくれ」
「はい、わかりました」
僕たちは馬車ごと村の中へと入っていった。
「カナタ、今日の夜はここで過ごすの?」
ミウが少し不満そうに聞いてきた。
「ああ、今日一日だけ我慢してくれ。何でも無かったらすぐに出発するから」
ミウの頭を手櫛でとかしながら説得する。
「うん。わかったよ」
ミウ様の了承も得た僕は、村唯一の宿屋へ向かう。
その位置は、以前ジンさんたちが泊まっていたので知っている。
宿屋というよりは、広い家を持つ家主が幾つかの部屋を貸しているような所なので、万が一見つかる可能性を憂慮して今日は別荘に戻らないことを決めていた。
借りたのは二部屋、食事なしの素泊まりのみだ。
割り当てられた部屋に僕は一人入る。
疲れていたのだろうか、布団に横になるとそのまま深い眠りについていった。
翌朝、食事は保存してあった物で済ませ、予定通り調査を開始する。
先ずは村の南側、森と村との境界の様子を見に行くことにした。
昨日は暗くてわからなかったが、あの時のワームが暴れた跡はほとんど修復されているようだ。
まだいくつかの建物は壊れたままになっているようだが、既に穴の開いていた地面は埋め立てられていて、どこがそうだったのか見た目ではもうわからない。
犠牲者が出なかったということもあるのだろうか、村の人たちはその記憶が忘れ去られたかのような笑顔で畑仕事に精を出していた。
村の南側に到着する。
森との境にある頑丈そうな柵の前で、何人か人が集まっている。
その一人は見た事があった、この村の村長だ。
更に遠目で観察をすると、どう見ても村人には見えない人間が何人か混じっている。
大きめな西洋風の鎧を纏っているところから、どこかの騎士のように見える。
ミウたちにはその場で待機してもらい、僕は建物の影を縫うようにしてその集団へと近づく。
「それでは、手筈通りお願いしますよ」
「私はあのお方のご命令を遂行するだけだ。お前に言われなくともわかっている」
「ええ、もちろんその通りでしょうとも」
村長は手もみをするかのようにへりくだり、愛想笑いをその騎士に向けていた。
「それで……その暁には……」
村長が上目使いで騎士を見あげた。
「わかっている。約束通りお前を引き上げてやろう」
「ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」
南の門が開き、その騎士たちが数十人の村人を連れて森へと入る。
村人の手には大きな斧が握られていて、その集団を見送る村長は満足げな笑みを浮かべていた。
僕は素早くその場から離れ、皆と合流する。
「……何かわかった?」
「いや、まだ詳しいことは……。でも、何だか嫌な予感がする。今すぐ森に入りたいと思うんだけど良いかい?」
僕の問いにミサキは無言で頷く。
「ミウも行くよ!」
「アリアも行くの」
もちろん、その場に置いていくつもりはない。
僕たちは村の外を出て、外周を回り込むようにして森へと侵入した。
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