第48話 別荘は今日も平和です
「カナタ殿、どうですか! 見てください、この出来を!!」
別荘に戻ってきたところで若い魚人に捕まり、ある場所まで連れてこられていた。
この人はたしか……、以前トーマスさんの家へと案内してくれた人だ。
僕たちの視線の先には、しっかりとした造りの木造住宅が立ち並ぶ。
若い魚人は、誇らしげに話を続ける。
「広い土地を頂きましたから、頑張って前の住居よりも大きな家を建てました。スラ坊殿にも手伝っていただき、予定より早くの完成です。いや〜、何にも警戒する事無く仕事に没頭できるというのは良い事ですね」
その魚人はうんうんと一人頷く。
そういえば、僕はこの人の名前をまだ知らない。
何と言っても約70人もいる新規住人、さすがにすぐには覚えられない。
学校の教師って大変なんだろうなぁ……。
何故かそんな事が頭に浮かんだ。
「これ、お魚さんのお家なの?」
何も事情を知らないアリアが質問する。
アリアは年齢でいうと十五歳、僕やミサキと同い年ではあるが、人間の年齢でいうとまだ三歳くらいとのこと。
ミウと同じく多感な年頃、お互い良い遊び相手になってくれればと思う。
しかし、その年で両親を亡くすとは、随分大変な目にあっていたものだ。
「いや、お嬢さん。魚では無く魚人ですぞ。名前は似ていますが全く違う。我々は古くからの由緒正しき知的生命体として――」
「アリア。川にいっぱい魚がいるんだよ! 行こう!」
「うん。ミウちゃん」
話が終わらぬうちに、ミウとアリアが魚の見える位置まで駆け出していく。
この年の子供が長い話を嫌うのはどの世界でも変わらない。
「――と、いうわけで我ら魚人というのは、ちょっ、話の途中ですぞ!」
こうして、魚人たちの集落は無事完成したのだった。
「おう、カナタ。なんだその小娘は?」
スラ坊がリクエストに応えることによって、やたらと豪勢になりつつある元は馬小屋らしき場所。
そこにいるのはもちろんプライド高き馬もどき、ユニ助である。
……スラ坊、あんまり甘やかしちゃ駄目だよ。
「アリア、これがユニ助だよ。偉そうだけど、全く偉くないから無視して良いからね」
「うん、ミウちゃん。わかったの」
「こらチビ! また我に喧嘩を売りに来たのか!」
ミウとユニ助のいつものやり取りが行われている最中、僕は気になるものを見つけた。
「ねえ、ユニ助。……これ何?」
ユニ助の表情がしまった! という表情に変わる。
「……いや、それはだな。我もここにいる間は食事しか楽しみが無くてだな。何というか必要に差し迫られたというか……」
そこにあったのは鉄板が組み込まれたテーブル、いわゆるホットプレート付きというやつだ。
別に、それ自体は問題では無いのだが、考えても見て欲しい。
はたして、馬の蹄で肉や野菜が焼けるのか。
答えは否である。
要するにユニ助は、わざわざここまでスラ坊を呼びつけ、肉などを焼かせていたということになる。
しかもこのテーブル自体がスラ坊の作であるのは言うまでもない。
まったく、いったい何処でこんな知恵をつけたのか……。
「……没収」
「だね。スラ坊にも良く言っておこう」
「ううっ。我の楽しみが……」
冷めた食事は出してないのだからそれで我慢しなさい。
落ち込むユニ助を尻目に、僕たちは別荘の中へと入る。
出迎えてくれたスラ坊にアリアの紹介と例の件を少し注意しつつ、僕らは二階へと上がった。
「さて、部屋割りをどうしようか?」
「……ミウとアリアは仲が良い。……一緒の部屋が良いと思う」
間髪入れずミサキが提案する。
「ミウはそれでもいいよ」
「ミウちゃんと一緒で嬉しいの」
2人が賛成するのならそれども良いか。
「……それで決まり。……私も異論は無し、後から変えると言っても駄目」
――いや、待てよ。
何かが引っかかる。
僕の中にある何かが警鐘を鳴らす。
「……2人は私の部屋を使うといい。……今片づける」
「いや、ちょっと待った!」
決定直前で僕は慌ててストップをかけた。
「……惜しい」
危うく罠にかかるところだった。
ミウが僕の部屋から出てアリアと一緒になるのは良い。
だが、現状ではアリアの部屋は無い。
二階の部屋は三部屋、それぞれ僕とミウ、ミサキ、そしてスラ坊で埋まっている。
ミウとアリアの部屋を作る為には、誰かが移動せねばならず、そこにトラップがあった。
ミサキは喜んで二人に部屋を譲ろうとしている。
はたして、その後ミサキはどの部屋に移動するのか。
それは火を見るより明らかである。
「あの〜。何でしたら私が一階で寝ますけれど」
結局、その後に出たスラ坊からの提案に乗ることにした。
空いたスラ坊の部屋にミウとアリアが入り万事解決だ。
その後、美味しい食事を堪能し二階で就寝。
ミウがいないのがちょっと寂しかった。
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