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第47話 アリア

ダークエルフの少女の髪を青⇒銀に変更しました。

「ふぅ……、ここまで来れば大丈夫か」


 通りから少し外れた所にある公園に入り、辺りを見回す。

 周りに誰もいない事を確認し、抱えていた荷物を下ろした。


「……カナタ、少し速い」


 文句を言う割には息を切らしていないミサキ。

 そのまま抱えていた少女をゆっくりと降ろす。

 少女は芝生の上でぽーっとしている。


「ごめんね、急に連れてきちゃって」


 芝生の上で呆けている少女に声をかけた。

 少女はふるふると首を横に振ってから、恐る恐るといった表情でこちらに問いかける。


「……平気……なの?」


 僕には少女が何を言っているかが良く理解できなかった。


「……一般的にダークエルフと言えば悪者、畏怖の対象」


 ミサキが僕の知らない知識をフォローしてくれる。

 悪者ねぇ……。

 こんなに可愛いのに。


「……カナタ」


 ミサキの声が怒気をはらむ。

 目の前では少女が俯き、何やらもじもじしていた。

 あれ? ひょっとして口に出してました?


「あ、ありがとうなの」


 赤い顔で頑張ってお礼を言う姿が微笑ましい。


 帽子で隠していたのであろう、スラリとした銀色のロングヘアー。

 まだあどけない少女を思わせる幼い、それでいて整った顔立ち。

 日に薄っすら焼けたような肌と尖った耳が、ダークエルフとしての特徴を表している。


 その姿に僕は畏怖など感じないが、一般の人は違うようだ。

 ミサキの話によると、子供のころから聞かされる寝物語、そこでダークエルフは敵として登場、数々の悪事を働き、最後は勇者に倒される。

 情操教育の頃から『ダークエルフは悪者』との認識が人々に植えつけられるのだ。


 また、エルフが人間社会と多少の交流があることも要因として大きい。

 その一方で、ダークエルフは他種族と全くと言って良いほど交流しない、というか姿さえ現さない。

 エルフとダークエルフは仲が良いとは言い難い。 

 その為、一部のエルフの主張を鵜呑みにして人間社会に展開される悪評の数々。

 それを打ち消す者は皆無に等しい。

 それが、先ほどの人々の反応の正体。

 実際に、寝物語でもエルフは勇者の仲間として登場する。

 『エルフは正義』、『ダークエルフは悪』、今やそれが人間界の常識、とのことらしい。


「へぇ〜、ミサキ凄い! 良く知ってるね」


「……えっへん」


 ミウのおだてに胸を張るミサキ。

 ミサキが何でそんな知識まで知っているかはこの際置いておこう。

 不思議なのは、そんな危険な人間の街に何故この子はいたのだろう?


 その理由は気になるが、何より安全な場所に送り届けることが先決だ。

 僕は中腰に屈み、目線の高さを合わせるようにして少女に問いかけた。


「とりあえず安全な場所まで送っていくよ。住んでいる場所を教えてくれるかい?」


 しかし、少女はふるふると首を横に振ると、ただ一言、


「……家、無いの」


「じゃあお父さんとお母さんは?」


 少女は再度、ふるふると首を横に振る。


「いないの。……死んじゃったの」


「…………」


 ――さて、どうしたものか。

 この少女のうるうるした瞳が僕の保護欲をかき立てる。


くぅ〜


 聞きなれた音がする。

 何だミウ、もうお腹がすいたのか? あんなに食べたのに……。

 仕方がないなという目でミウを見る。


「ミウじゃないよ!」


 その視線の意味がわかったのか、ミウが否定する。

 続けてミサキも首を横に振った。

 ってことは――。


 目の前で少女が恥ずかしそうに俯いていた。

 そうか、気がつかなかったな。


「よし、じゃあ何か食べに行こうか」


 僕はその少女の答えを待つことなく、帽子を深く被せてから公園を出るのだった。


 




「ほら、何が食べたい。遠慮はいらないから、好きなものを選んで」


 食堂のテーブルに着いた少女の前にメニューを差し出す。


「…………いいの?」


「ああ、もちろん」


 その問いに僕は頷く。

 少女の顔が草原の花が咲いたかのように明るくなり、嬉しそうにメニューを選び始める。

 ひょっとして見た目と実年齢は大して変わらないのかな?


「う〜ん、ミウは何にしよっかな?」


「……私はこれと、これとこれ。……それにこっちも捨てがたい」


「あっ、それミウも食べる!」


 あんたらまだ食うんかい!

 何だか聞いているだけで胸焼けがしてきた。


「これがいいの」


 おずおずと少女がメニューの一つを指さす。

 近くにいた店員に少女と僕の分を注文、僕が頼んだのはドリンクのみだ。

 ミウとミサキはまだ選んでいたが、少女の分の注文を優先させた。




 目の前に置かれたのはトマトソースのかかったピラフのような料理。

 それを目の前にしたアリアはじっと僕を見る。

 ちなみにアリアとはダークエルフの少女の名前だ。


「食べていいんだよ」


 僕の言葉が終わらぬうちに、アリアは腹を空かした猫のように目の前の食事に飛びつく。

 よほどお腹がすいていたのだろう。

 その姿を父親のように眺めながら、僕はホットドリンクに口をつけた。






「ありがとうなの。久しぶりのご飯だったの」


 アリアが僕にぺこりと頭を下げる。

 どうやら一品では足りなかったらしく、ミウとミサキが頼んだ料理を初めは恥ずかしながら、次第に遠慮なく分けてもらっていた。

 現在は追加注文の果実ジュースを勿体なさそうにちびちびと飲んでいる。


「食べなきゃだめだよ〜。死んじゃうよ」

 

 食欲魔人と化したミウが食事の大切さを主張する。


「作ったアクセサリーが全然売れなかったの。仕方がないの」


 食べている時に気づいてはいたが、ミウと普通に会話が成立していた。


 詳しく事情を聞いていくと、両親を亡くし、南の森に独りで住んでいたらしいのだが、人間が開発に乗り出したため避難してきたらしい。

 しかし、途中で食料が尽きてしまい、仕方なく人間の街に変装して入ったとのことだ。


「森で出会ったらいじめられるの。街の方がかえって見つからないの」


 見かけによらず、中々たくましい子だ。

 でも、今回は危なかった気がするのだが……。

 保護欲をかき立てるその姿が僕の心をくすぐる。

 思えばミウとの出会いもこんな感じだったかな。


「危ないよ! 一緒に連れて行こうよ、カナタ!」


 ミウがそう提案する。

 もしかしたら同じ事を考えたのかもしれない。

 ミサキに目線を配ると無言で頷いた。


 戦闘は出来なそうだから、家事見習いってことでスラ坊の元に連れて行くのでも良いかもしれない。


「行く当てがないのなら一緒に来るかい?」


 後は彼女が人間である僕らを信用してくれるかなのだが……、


「悪意があるかは見ればわかるの。お兄さんたちは助けてくれたの。一緒に行くの」


 拍子抜けするくらいすんなりと話が進んでしまった。




「邪魔だ、どけ!」


「お客様、困ります!」


 食堂の入り口付近が騒がしい。

 何かトラブルか?

 その喧騒は段々とこちらに近づいてくる。


「いやがったな! お頭、こいつらです!」


 見た事のあるような男が僕を指さして喚く。

 誰だっけか?

 その考えがまとまる前に、その男の後ろからカラフルな何かが現れる。


「あなたね。私の坊やたちを可愛がってくれたのは?」


 クリスマスの飾りつけを身に着けて歩いているとしか思えない派手な衣装。

 黄と緑が入り混じった髪に濃すぎる化粧。

 真っ赤な口紅を舌なめずりするさまに、僕は身震いする。

 そして、目を背けてはいけない事実が一つ。

 目の前にいるのはごつい筋肉質のおっさんだということだ。


「おら、お前ら! 店を壊されたくなかったら表に出やがれ!」


 強気になっている部下らしき男がさらに喚く。

 ……出来れば遠慮したいところだけど、やっぱり駄目だよね。


 裏通りに出て正面に対峙する僕とゴロツキのボスらしきおっさん。

 風に乗って流れてくる香水の匂いが鼻に纏わりついて気持ち悪い。


「ショバ代を払わなかった悪い子ちゃんにはお仕置きが必要なのよ。これは見せしめの為でもあるの。悪く思わないでね」


 おっさんは短剣を何本か取り出して手で弄ぶ。

 その一本を瞬時に僕に投擲する。


「くっ!」


 慌てて抜いた黒曜剣で短剣を弾く。

 どうやら多少の油断があったようだ。


「あら、防いだの。じゃあ、これはどうかしら?」


 派手な衣装をマントのように広げるとその内側にはビッシリと短剣が仕込まれていた。

 流れるような動作でその短剣が僕に向かって連続で迫る。

 僕は何本かをまとめて弾くなどして、最少動作でそれらを剣で防ぐ。


「ふふふっ、避けられないわよね。後ろにお仲間がいるんですもの」


 口角をつり上げ嫌らしい笑みを浮かべるおっさん。

 だが、甘く見過ぎだ。


「だああっ!」


 横凪ぎ一閃!

 迫りくる短剣のパレードを一撃で粉砕し、そのままおっさんに迫る。

 驚愕の表情を浮かべるおっさん。

 しかし、もう遅い。 


「ぎゃん!!」


 野犬の悲鳴のような声を上げておっさんはその場に崩れ落ちた。

 殴って気絶させただけ、さすがに街中だからね。

 このおっさん、ごつい割には拳一発って、見かけ倒しも良いとこだ。


「お、覚えてやがれ!」


 おっさんを引きずって退散する男たち。

 しつこいようなら何か対策を考えなければなるまい。


「さて、食事代を払ったら行こうか」


「……そうね」


「美味しかったね♪」


 何でも無いように会話を始める僕たち。

 それをアリアは目を丸くして見ていた。


 アリアはこのまま別荘に連れて行くことにした。

 魚人たちの集落もだいぶ形になってきていることだし、皆で見て回るのも良いよね。



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