第46話 祭り
久々の連日投稿です。
あれから連日のように中和剤散布を行い、約一週間が過ぎた。
一通りの作業は終わり、後は定期的な散布と森の自然回復を待つのみ。
事態が落ち着いたところで、僕たちは道すがらついでで受けた依頼もこなしつつ、ベラーシの街へと戻ってきた。
久々に来た街の中の様子はいつもと違っていて、大通りは人でごった返しており、かなり賑やかだった。
所々に飾り付けが飾られており、屋台や露店の数も通常の倍以上出ている。
「あの〜、これは何が行われているんですか?」
道行く人を捕まえて聞いてみる。
「君、旅の人かい? なら教えてあげるよ。これは女神祭さ。街の発展の感謝を女神様に捧げる年に一回のお祭りだよ」
「お祭りなんですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。君たちも楽しんでいきなよ。じゃ、僕はこれで」
そう言い残すと。その人は人ごみの中に消えていった。
「へぇ〜、祭りか。折角だから少し回ってみようか」
「やったぁ!」
「……了解」
僕たちは言われた通り、祭りを堪能することにした。
肉串を頬張りながら表通りを歩く。
「んぐんぐ……。カナタ、あそこからも良い匂いがするよ。行ってみよう!!」
ミウに急かされ新たな屋台の前へ。
先程からこの繰り返しである。
この小さな身体のどこにあれだけの食べ物が入るのだろう。
珍しい、ここは海鮮焼きの店か。
タレの塗られた貝や串焼きの魚が美味しそうな音を立てて網焼きされている。
街の近くには海が無いのでめったに見かける事は無いが、今日は特別な日、わざわざ取り寄せているのだろう。
その為か値段は少々高めだ。
「カナタ! あの貝が食べたい! 買って!」
可愛いミウにねだられたら嫌とは言えない。
その大粒の貝は、口の開いた殻の上でタレと共に踊りを踊っている。
醤油系の香りが鼻をくすぐり何とも言えない。
「すいません、この貝を3つください」
「はい、ありがとうござ……っ!?」
売り子のお姉さんの言葉が途切れる。
その顔には驚愕の色がうかがえた。
「マリアンさん、こんな所で何をやっているんですか?」
「イエ、ワタシハソノヨウナナマエデハアリマセンヨ」
売り子さんは、そっぽを向きつつ片言のセリフで反論するが、説得力が無い。
「……ひょっとして、ギルドをクビになったんですか?」
心配になり、つい口から出てしまった。
「そんな訳ないでしょ!! あのギルドは私でもっているんだから!」
「しまった!」という顔をしてももう遅い。
大きくため息をついた後、マリアンさんは観念して事情を話し出す。
「はぁ〜、知り合いとはあまり会いたくなかったんだけどなぁ。家の実家、食堂なのよ。店の方は祭りのお陰で盛況でね。それで、出店の方は私が任されてるって訳よ。何てったって年に一度の稼ぎ時だからね」
「ギルドの方はどうしたんですか?」
「もちろん有給よ! 祭りの日は冒険者の手続きも少ないから、いてもやる事があまり無いのよ。まあ、あっても偶にはマスターが働けば良いから問題なしよ!」
ふふんとマリアンさんは鼻を鳴らす。
ギルドマスターってそんなに暇なのだろうか。
「それはそうと、カナタくん。貝だけじゃなく、他のも買っていきなさい。ここは男の甲斐性の見せ所よ!」
なし崩し的に大量の海産物を買わされてしまった。
普段世話になっているから良いけどね。
屋台の手前に用意されていたベンチに座り、それらの味を堪能する。
うん、美味い!
貝もぷりぷりしていて、噛むごとに旨みがあふれ出てくる。
この醤油系のタレが良く合って絶品だ。
塩焼きの魚もホクホクしていて、元日本人としてはご飯が欲しいところだ。
気がつけば、あっという間にあれだけの量を平らげてしまった。
ミウとミサキも満足そうだ。
多少の食休みを経て、僕たちはその場を後にする。
マリアンさんは忙しそうだったので、手を振って挨拶しておいた。
さらに屋台を梯子しながら中央通りを奥へと進む。
ミウとミサキの食への探求は僕の予想をはるかに超えており、僕一人を取り残して2人の会話は続く。
「ミサキ、美味しかったね!」
「……ええ。満足」
「あっ、あそこにお菓子があるよ!」
「……行きましょう」
少なくとも僕の倍以上は食べていた筈。
それ以上食べると太るよ。
「……何?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
どうも僕は顔に出るたちの様だ。
気を付けよう。
寄り道しながらの歩みは予想以上に遅く、ようやく僕らは中央の噴水の前まで辿り着いた。
そこには、いつもは無い女神の像が飾られていた。
恐らく、この祭りの為に引っ張り出してきたものだろう。
慈愛溢れる優しい笑顔、大人びたロングの髪を腰まで伸ばし、豊満な胸を隠そうともしないドレスのような衣装。
……いや、さすがにこれは違うでしょ。
実際は、子供のような無邪気な笑顔、活発に動き回るのに適した切り揃えられた髪、豊満どころかツルペタな胸。
女神様、詐欺で訴えられますよ。
(想像するのは個人の自由でちゅ! 皆の夢は壊しちゃいけないでちゅ! ……わかりまちたね)
頭の中で聞きなれた声がする。
最後の一言はこちらが震えあがるほどの迫力があった。
……やっぱり気にしてたんですね。
はい、もちろん誰にも言いません。
ふと横を見ると、ミサキが震えながらコクコクと頷いていた。
ひょっとして、同じことを考えたな。
露店の数は思っていた以上に多く、そろそろ見て回るのにも疲れてきた。
ふと目線を遠くに向けると、何かが僕の琴線に触れた。
僕はそのままそちらへ向かっていく。
そこは小さな露店。
地面に穴の開いたぼろの布を敷いて、その上に小さめのアクセサリーが置かれていた。
「アクセサリー、いかがなの?」
帽子を深くかぶった子供が僕に声をかける。
留守番だろうか?
「アクセサリー、安いの。買ってほしいの」
その場で立ち止まった僕に、一生懸命売込みをかけてくる。
その声から察するに、どうやら女の子のようだ。
「お嬢ちゃん、えらいね。店番かな?」
僕は怖がらせないように微笑みながらその少女に話しかけた。
すると、僕の手首をミサキが掴み一言、
「……誘拐犯発見。通報します」
「するかっ!!」
ミサキの失礼な物言いに瞬時にツッコむ。
少女はそれを不思議そうに眺めている。
「ごめんね、驚かせちゃったね」
少女はふるふると首を横に振る。
お詫びにアクセサリーでも一つ買っていくか。
魔法の練習も兼ねて、並んでいるアクセサリーに最近覚えた鑑定をかけてみる。
物品の詳細がわかる便利な魔法だ。
ルビーメタル
炎系魔法威力 +30%
サファイアメタル
水系魔法威力 +30%
身代わりのロザリオ
大ダメージを1回のみ肩代わり 消耗品
凄いラインナップだ。
まだ幾つかの商品は並んでいるが、どれも見劣りしない一級品。
言い方は悪いが、こんな露店で売っているのが信じられない。
ミサキと顔を見合わせる。
ミサキには珍しく、僕たち以外が見てもわかるような驚き方をしていた。
「ねえ、これはどこで仕入れたのかな?」
「……企業秘密なの」
「これ一ついくら?」
もうすでに幾つか買う気ではいるが、値段が気になる。
一つ金貨100枚とか言われたらどうしよう。
しかし、少女の答えは、邪魔者によって遮られることとなる。
「てめえ! ここで商売するんじゃねえと言っていたはずだ! ここに露店を出していいのはガローニ様に許可をもらった者だけだ。お前ら! 構わねえ、品物をすべて叩き壊しちまいな」
いきなり現れて、有無を言わさず強硬手段に入るゴロツキのような集団。
恐らくはショバ代を払う払わないみたいなものか。
そう言えば、こいつらガローニとか言っていなかったか。
これは黙って見てはいられないな。
もちろん、どちらの味方をするかは言うまでもない。
僕は少女と商品に襲い掛かる男を押さえつけ、後方へ弾き飛ばした。
「なんだ、てめえは!」
男たちが僕を睨む。
「いきなりそれは無いんじゃないかな。あまりに乱暴だと思うよ」
「うるせえ! お前ら、こいつもやっちまえ!」
話し合いの余地は無く、男たちはそのまま僕に襲い掛かってきた。
その動きは素人丸出しだ。
それでも油断せず、慎重に対処する。
もちろん手加減も忘れない。
「くそっ! 覚えてろ!」
男たちはお決まりの捨て台詞を残して去って行った。
辺りを囲んでいた野次馬も、次第に興味をなくし散開していく。
「やったね、カナタ!」
「大したこと無かったからね」
これ位なら僕一人で十分だ。
さすがに街中では魔法は使えないからね。
ミサキに任せたら恐ろしいことになりそうだ。
僕はそっとその場で縮こまっていた少女に近づく。
「怪我は無かったかい?」
少女は無言でコクリと頷く。
その拍子に、かぶっていた帽子が地面へとゆっくり落ちた。
きれいなロングの銀色の髪、尖った耳が僕の視界に入る。
ざわっ……
周りの雰囲気が変わった気がした。
立ち止まった通行人の一人がぼそっと呟く。
「……ダークエルフだ」
その呟きが周囲に伝播し、ざわつきが止まらない。
「ミサキ!」
僕の合図と共にミサキが少女を抱え上げる。
僕は商品を敷いていた布に包み込み一纏めにする。
お互い眼で合図した僕たちはその場から逃げるように立ち去った。
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