第43話 すっきり
お待たせしました。
戦闘パートです。
続けざまの斬撃を受け、僕は後ろに吹き飛ばされる。
「くっ!!」
吹き飛ばされながらも何とか空中で体勢を立て直し着地する。
予想はしていたが、見かけによらず凄い力だ。
「くくくくっ……。その魚人たちを助けるのでは無かったのかい? 彼らの命は君たちに掛かっているのだがねぇ」
くそっ! 絶対にその嫌らしい笑みを消して見せる。
「ピピピピッ。ツイゲキシマス」
距離的に一番近い僕をターゲットに据え、再びメタルゴーレムがこちらに接近する。
始めから来ると分かっていれば対処の仕様はある。
右手からの攻撃を受け流し、続けざまに迫る左手の攻撃を受ける。
高い金属音が辺りに響く。
その力を利用しつつ後方へと跳躍する。
これで再び距離を取る事が出来たという訳だ。
「ピピピピッ、コウゲキシマス。ロケットパーンチ」
メタルゴーレムの右手が唸りを上げて迫る。
そのサーベルを握った飛び道具を僕は大きく躱す。
一瞬の風きり音に続き、大きな破壊音が辺りに響く。
恐る恐る振り向くと、後ろの建物の壁が粉々に破壊されていた。
それを引き起こした物体は、本体と繋がったワイヤーで巻き取るかのように元の場所へと戻っていく。
――機械的な単眼といい、ロケットパンチといい、古代文明だか何だか知らないが、前の世界の匂いがぷんぷんする。
ひょっとして古代文明って、転生者の知識じゃないだろうか。
しかし、あれだけのパワーに遠距離攻撃有りって、もう少し自重してくれても罰は当たらないと思うのだが……。
僕とメタルゴーレムの距離が空いたことにより、ミウとミサキが魔法攻撃を仕掛ける。
しかし、速度重視のその攻撃は、命中はするもののあっさりとそのボディーに弾かれた。
「くくくくっ。そんな魔法が効くものかね。私のメタルゴーレムは完璧だ!」
白衣の男は後方で醜悪な笑みを浮かべている。
「……やはり大きな魔法が必要」
そのミサキの呟きが耳に届くのを待つこと無く、僕に向かってメタルゴーレムが迫る。
いつまでも受け身ではいられない。
メタルゴーレムの攻撃を躱し、黒曜剣を振るう。
黒い軌跡がメタルゴーレムの胴へと吸い込まれ、その直後、僕の腕に強烈な痺れが襲った。
「ぐっ!!」
切り裂いたのは人間でいうところの薄皮一枚のみ。
黒曜剣を落とすまいと力を入れるが、その動きが一瞬の隙となる。
メタルゴーレムは作業でもするかの様にそのまま上段から剣を振り下ろす。
その剣が僕に届くよりも一瞬早く、魔法の矢が僕の真横を通過した。
マシンガンのような魔法の連射は、力押しでメタルゴーレムを後退させることに成功した。
「……フレイムサークル」
炎の壁が敵を囲むように出現する。
僕は一旦メタルゴーレムから距離を取った。
「ミウ、ミサキ! 助かった!」
再び体勢を整える。
奴には飛び道具がある、油断はできない。
「ピピピピッ! コウゲキタイショウミカクニン。ゴメイレイヲ」
「何をやっている。目の前にいるだろうが! 早く始末しろ!!」
メタルゴーレムの様子がおかしい。
先ほどよりも炎が弱まり、その視界の正面に僕がいる筈なのに、奴にはまだ見えていないようだ。
こいつ、もしかして……。
「ミサキ、炎をもう一度メタルゴーレムを囲むように出してくれ」
「……わかった」
消えそうになっていた炎に上書きするように、再び炎の壁が発現する。
僕はゆっくりとその壁に焼かれぬギリギリの所まで近づく。
額からの汗が頬を伝う。
「ピピピピッ! エラーハッセイ。コウゲキタイショウミカクニン」
無機質な電子音が響く中、炎の壁が次第に低くなっていく。
そして、ついに視界にメタルゴーレムを捉えた!
僕は迷うことなく炎の中に飛び込んむ。
……手応え十分。
黒曜剣はメタルゴーレムの単眼に突き刺している。
その瞳は次第に赤から黒へ、その光を失う。
「ピピピピッ。エラーハッセイ。エラーハッセイ。モニターエラー」
黒曜剣を抜き、少し離れて様子を窺う。
これで相手の視界は潰した。
もう炎は必要ない。
「何をやっているか! 相手は目の前だ! 叩き潰せ!」
白衣の男はその場で武器を振り回すメタルゴーレムに命令する。
「メノマエ、リョウカイシマシタ。タタキツブシマス」
必殺のロケットパンチが唸りを上げ発射される。
僕たちでは無く、白衣の男目掛けて――。
「ごわっっ!!!」
白衣の男はそのまま建物の壁に叩きつけられる。
壁は見事に粉砕、そして白衣の男も……。
「ピピピピッ。エラーハッセイ。エラーハッセイ。モニターエラー」
電子音が響く中、僕はミウ、ミサキの元へと戻る。
もちろん、奴をそのままにはしておけない。
「……ミサキ。あの壊れている所に雷撃を頼む。たぶん今なら効くはずだ」
現時点で魔法の威力が一番あるのがミサキだ。
ここは確実にいった方が良い。
「……サンダーレイン」
発生したのは雷の柱。
その柱は次々とメタルゴーレムへと命中する。
もちろん、そのモニター部分にも……。
「ピピ……、エ……ハ…………」
その電子音を最後に、メタルゴーレムは静かに沈黙した。
「ふぅ……、上手くいったね」
「……ええ、お疲れさま」
「カナタ、じっとしてて」
ミウが僕に治癒魔法をかけてくれた。
そう言えば少し火傷をしていたな。
「ねえ、カナタ。何で炎に飛び込んだの?」
何故わざわざ火傷をする必要があったのか。
ミウのその言葉には、その非難も多少含まれているようだ。
「ああ、それはね。メタルゴーレムは僕たちを視覚では無く、熱によって感知していたんだよ。炎という熱源があれだけ燃え盛っていれば、奴には何も見えないのさ。その隙を狙うしか無かったんだ」
「へ〜。カナタ、あったま良い〜」
まあ、偶にはね。
いつもはその役割はミサキに頼ってたから……。
「……少しすっきり。……ありがとう」
ミサキも止めを刺せて、めでたしめでたしってことで――。
さて、まだする事は沢山あるけれど、取りあえずは少し休憩で良いかな。
僕は巾着から水を取り出し、その喉を潤した。
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