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第39話 腹が減っては……

アクセスありがとうございます!!

お楽しみ頂けたら幸いです。

 依頼を受けた僕たちは、出来る事から始めることにする。

 先ずは、トーマスさんに住民の全員を湖畔の一角に集めてもらった。

 集められた魚人たちは総勢45人、お年寄り10名、女性16名、子供14名、そして戦闘のできる男が5名である。


 トーマスさん主導による僕たちの紹介が終わった後、それぞれに水の配給を行う。

 ボトルに入れられた飲料水を2本ずつ、巾着の中から取り出し、皆に配る。

 何故それ程の本数が用意されていたのかと不思議に思うかもしれないが、実はこれにはからくり(・・・・)がある。

 実はこの巾着と別荘の冷蔵庫は空間的に繋げることが出来るのである。

 別荘の冷蔵庫は、在庫が無くなると自動で補充されるという便利仕様、その中には飲料水も何本かストックされていた。

 要するに、巾着袋から取り出した瞬間に在庫が補充、それをまた取り出すため、無限に水を渡すことが出来るのである。

 その機能に気づいたのは最近で、その日から魔法の巾着袋の有用性がさらに上がったのは言うまでもない。


 さて、次に配るのはもちろん食料なのだが、彼らが何を食べられるのか僕には良く分からないので、トーマスさんにリサーチした後に配給も行うつもりだ。

 マイケルくんが美味しそうにお弁当を食べていたところを目撃しているので、人間と同じ雑食だとは予想できるが、何かあってからでは困るので慎重には慎重を重ねようと思う。


「この水、美味しいよ!!」


「うん、いつもと違うね!」


 水を受け取った魚人の子供たちが、美味しそうにのどを潤す。

 また、ある一角では、老魚人たちが「ありがたや、ありがたや……」と呟きながら、ちびちびと水に口をつけていた。

 槍を持った若者たちの視線も幾分か和らいだ気がする。


「すまんの。これだけの水を用意してもらって。さぞかし大変だっただろうに」


 全員分の水が行きわたったところで、トーマスさんがこちらにやってきてお礼を言う。

 その手には空のボトルが握られていた。


「いえ、元々用意していたものなので大丈夫です。それより、食事も用意したいと思うのですが、何か食べられない物は何かありますか?」


「おお、それは有り難いの。儂らの食べられる食事は人間と変わらんはずだの。好みは多少違うかもしれんがな」


 詳しく聞いてみたところ、普段の食事は魚だが、肉、野菜に関しても食べられるとのこと。

 思った通りの雑食だった。

 現在は魚が取れないので、主に狩りでの獲物の肉と野菜で飢えをしのいでいるが、人数分の食料の確保が難しく、主に食事は子供に回しているらしい。

 やはり、食料も早急に用意した方が良いな。

 そう思った僕は、スラ坊に協力を仰ぐため、今すぐ別荘に戻ることにした。


 ミウ、ミサキにはそのまま集落に残ってもらい、森の中の人気のない所へと移動、別荘への扉を展開する。

 中に入ると、僕の気配を瞬時に察知してか、目の前には既にスラ坊の姿が……。

 恐るべき管理人マスター、そのスキルは計り知れない。


「おかえりなさい、カナタさん。……ミウさんとミサキさんはどうされました?」


 いつも一緒にいる二人がいないので、心配そうにぷるんと震えながら僕に質問する。


「ただいま、スラ坊。ミウとミサキなら心配ないよ。やることがあって向こうに残ってもらってるだけだから。ところで、スラ坊。急で悪いんだけれど50人前ほど料理を作ってくれないか。内容は簡単なもので良いから……。魚人たちに食べさせたいんだ」


「はい、お安いご用です。三十分程お時間を頂けますか」


 スラ坊は特に細かい理由は聞かず、準備における所要時間のみを割り出し僕に伝える。


「そんなに早く出来るの?」


「ええ、お任せください」


 どん(・・)と胸?を叩くしぐさを見せ、いそいそと調理場に向かうスラ坊。

 その背中は僕にはとても頼もしく映った。

 ふるふると外敵に震えていた頃のスラ坊を知っているだけに感慨深いものがある。

 成長したなぁ……、父さんは嬉しいよ。



 既に料理マスターの名を欲しいままにしているスラ坊に対し、邪魔はすれど手伝えることは無く、居間のソファーでくつろぎながら料理の出来上がりを待っている。

 しばらく経ち、何とも言えない良い匂いが僕の鼻に運ばれてくる。

 僕がすんすんと鼻を鳴らしていると、スラ坊が器用に大鍋を抱えてやってきた。

 身体にはウサギらしきアップリケが刺繍されているエプロン、手には鍋つかみをはめていた。

 スライムがするには違和感あるこのスタイルも、今はもう慣れたものである。


「時間が無かったので煮込みは足りないかもしれませんが、その分しっかりと味はつけてあります。一応多めには作りましたが、足りなければ言ってください」


「ありがとう、スラ坊! ちなみに何を作ったの?」


「簡単なシチューですよ、野菜はたくさん取れますからね。魚があれば魚料理が良いと思ったのですが、生憎と数が足りませんでしたので断念しました」


「いや、十分だよ。……あれ? シチューって事はこの前家庭菜園に新しく追加した野菜だよね。もう収穫できたの?」


「ええ。何やら考えられない位すくすくと育ってまして……。これも女神様の影響でしょうか?」


「……たぶんそれしか無いよね」


 まあ、収穫が多い分には問題ない、……いや、一つあるか。


「スラ坊、手が足りなかったら言ってね。僕たちも収穫を手伝うから」


「はい、その時はよろしくお願いします」

 


 さて、長く喋ってしまったが、早く戻らないと……。

 巾着袋に大鍋ごと収納し、急ぎ集落へと戻った。




「ちゃんと並んでね〜! 横入りは駄目だよ〜!!」


 ミウが魚人たちを整列させ、僕とミサキがシチューを器によそう。


「熱いから気を付けて食べてね」


「うん。お兄ちゃん、ありがとう!」


「……こぼさないように」


「おお、すまんね」


 全員に行きわたったのを確認してから、僕たちは自分たちの分を盛り付ける。

 鍋は既に空っぽ、僕たちの分は少なめだが何とか確保できた。

 多めに作ってくれたスラ坊に感謝だ。


「何これ、初めて食べた!?」


「魚以外あまり美味いと思わなかったが……、うん、これはいけるぞ!」


「素晴らしいわ。こんな料理がこの世には有ったのね……」


「おお〜。長生きはするもんじゃ」


 一杯では足りないと不満を漏らす魚人が続出するほど、料理は大好評だった。

 どうやら百人前くらい作らないと駄目だね。

 スラ坊にはかなり負担をかけてしまう。

 何か別の方法も考えとかないと駄目だな。



 その後、食事についてトーマスさんに再三のお礼を言われた。

 「一体どこでこれだけの食糧を手に入れたんですか?」とも聞かれたが、適当にお茶を濁しておいた。

 トーマスさんはそれ以上深く追及はしてこなかった。


 慌ただしい時間はあっという間に過ぎ、既に日の光が届かぬ時間となっていた。

 僕らが案内されたのは一軒の木造住宅、ここを自由に使って良いと言われた。

 家に入ると中は小奇麗に整頓されていて、つい最近まで誰かが住んでいた形跡がある。

 僕らは改めて事件の根本的な解決を決心し、有り難くここを使わせて貰うことにした。

 

 

 翌日、朝の食事の配給が終わった後、僕らはトーマスさんと解決に向けて話し合った。

 その後、主要な魚人たちを集め、その事についての話し合いを行う。

 少し広めの部屋には、トーマスさんをはじめとしたお年寄りの面々と5人の若い魚人が一堂に会している。


「それでだの。カナタさんたちにこの湖の源流に向かって貰うことした」


 トーマスさんが先に僕らとと話し合った内容を、ここに集まった魚人たちに伝えている。

 会合では、「人間になぞ任せられん!!」というお決まりのパターンは無く、おおむね好意的に捉えてもらった。

 どうやら、2回にわたる食料の配給が効いているようだ。


「では、カナタさん。何卒よろしくお願いします」


 僕らに課せられた目標は、行方不明者の捜索、毒についての原因究明、毒物の除去の3つである。

 食料については、ある程度の食材を置いて行くことにした。

 若い魚人との狩りと合わせれば、しばらくは飢えをしのげるだろう。

 先ずは調査のみの予定なので、そんなには長く外す予定はないしね。


「よし、行こう!」


 僕たちは魚人たちの見送りを受け、川の上流へと向かった。


 

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