第3話 ダグラスとアリシア
「おう! 邪魔するぜ!」
村の中心にある一回り大きな家。
その玄関をズカズカと入っていくダグラスさん。
僕は恐る恐るといった感じでその後に続いた。
「何じゃ、ダグラス。騒々しい。ちょっとは静かに出来んもんかの?」
目の前に現れたのは白髪の老人、顎には立派な白髭があり、腰は少し曲がっていて杖をついている。
恐らくこの人が村長さんなのだろう。
ダグラスさんは老人の注意を気にも留めずに話し出した。
「この坊主を何日か家に泊めるんで、村長に顔を通しておこうと思ってな。名前は……、坊主、自己紹介してやれ」
どうやら僕の呼び名は坊主で定着してしまい、まだ名前を憶えられていないようだ。
僕は村長さんだけではなく、ダグラスさんにも覚えてもらうように名前の部分を強調しつつ自己紹介する。
「はじめまして、カナタといいます。頭の上にいるのは相棒のミウです。運悪く道に迷ってしまい、定期馬車が来るまでの間、ダグラスさんの家でご厄介になることになりました。よろしくお願いします」
「よろしくね〜♪」
ミウも続けて一言挨拶をする。
通じてないけど、その気持ちって大事だよね。
「これはこれはご丁寧に。儂はこのバレン村で村長をやっておるガクじゃ。何もない村ですがゆっくりしていって下され。それにしても若いのにしっかりしてらっしゃる。ダグラスの若い頃とはえらい違いじゃ。そもそもこいつの若い時ときたら……」
「ジジイ! 五十前の男を捕まえて、何時までその話を引っ張るつもりだ!」
「ほっほっほっ。儂が死ぬまでは諦める事じゃな」
「くたばりやがれ!」
村長さんとの面会も滞りなく終わり、いよいよダグラスさんの家へと向かう。
「おっと!」
道中、子供たちが仲良く遊び駆け回っていて、僕にぶつかりそうになった。
僕はとっさにそれを避ける。
「兄ちゃん、ゴメンね〜♪」
子供たちは何でもない風にそのまま駆けて行った。
子供ってどの世界でも元気だよね。
道すがら出会う人たちからは笑顔で挨拶され、僕もその都度笑顔で挨拶を返す。
ありがちなパターンで、圧政に苦しんでいる村を助けるなんてストーリーがあるけど、初めて辿り着いた村が平和な村で良かった。
女神様からは「才能チートにしたでちゅ♪」とは言われたけど、まだ剣術はおろか魔法の使い方さえわからない。
そこへいきなりのトラブルなんていうのは、さすがにご勘弁願いたいからね。
「ついたぞ! ここだ」
色々と考え事をしているうちに、いつの間にかダグラスさんの家へと着いた様だ。
引き戸を開けて中に入るダグラスさんに僕らも続く。
「おう! 帰ったぞ!」
「あら、お帰りなさい。今日は早かったわね」
「いろいろあってな。おい、坊主!」
ダグラスさんに声をかけられ、呆けていた僕はハッと我に返る。
青髪のロングに整った美人顔、しかし僕が呆けていた理由はそれに見とれていた訳ではなく、その全身から醸し出す神秘的な雰囲気に呑まれてしまって声が出なかったからだ。
「あら、こんにちは。私はアリシア、そこにいるダグラスとは一応夫婦ってことになっているわ。よろしくね」
笑顔で僕の緊張を解すかのように挨拶をしてくれるアリシアさん。
「す、すいません。ぼ、僕はカナタと言います。この子はミウです。しばらくご厄介になります。よろしくお願いします」
少々どもってしまったが、何とか挨拶を返す。
「おい! さては俺の嫁さんに見惚れちまったな。 まあ、アリシアは美人だからな」
そう言うと、ダグラスさんは豪快に笑った。
夕食では、アリシアさんの料理に舌鼓を打ちながら、これからに必要な話を幾つか聞く事が出来た。
その中で残念だったのは、収入源として期待していた冒険者ギルドについて、やはり街に行かないと無いとの事だった。
収入確保の為、ギルドに登録したい事を二人に話すと――、
「よし! この村にいる間は俺が鍛えてやろう」
「私も魔法なら教えられるわ。期間からいって基礎のみになると思うけど……」
生き抜くための基礎である剣術と魔法を教わることを提案された。
アリシアさんはこの村で唯一魔法を使えるとのこと。
もちろん、僕は一も二も無くこの話に飛びついた。
「はい! よろしくお願いします!」
「ミウもやるよ!」
明日の朝から早速特訓開始とのこと、明日が楽しみだ。
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