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第36話 カナタの剣

 王都に入場した僕たちは、早速ゼノンさんの所へと足を運んだ。


「ふん、思ったより早かったな。それで……素材は持ってきたのか?」


「はい、ここに」


 目の前のカウンターに例の素材三点を並べる。


「ふむ……、確かに預かった。すぐ作ってやるから待ってろ」


「えっ、そんなにすぐ出来るものなんですか?」


 てっきり何日後かにまた取りに来るものと思っていたので、思わず疑問が口から出てしまった。


「ふん。もう剣のベースは出来ている。あとはその素材を付与するだけだ。何だったら見ていくか?」


「えっ!? いいんですか!」


「ふん、素人が見たって何も分からんとは思うがな」


 そう言いつつも僕らを奥まで案内してくれた。


 


 裏の鍛冶施設は、表から見た店の外観からは考えられないくらいしっかりした建物だった。

 そこに鍛冶に対するドワーフの拘りが垣間見えるが、出来れば表の店ももう少し綺麗にした方が良いんじゃないかと思ってしまうのは、余計なお世話だろうか。


 

 目の前に現れた一本の剣。

 鋼鉄で出来たそれは、そのままでも眩しい程の輝きを放っている。

 今までの店売りの品では見ることの無かったその光沢は、それだけで素晴らしい切れ味を想像させた。

 おもむろにテーブルの上に素材を並べると、ゼノンさんは僕たちの方に振り返る。


「お前ら、静かにしてろよ。付与には集中がいる。失敗したらもう一回素材を取ってきてもらうからな」


 さすがにそれは勘弁してもらいたいので、口を噤み静かにその時を待つ。


 片手に素材、もう一方の手に剣を握り、集中するゼノンさん。

 その手からは光が溢れ、瞬く間に素材が消失する。

 それを三回繰り返し、ゼノンさんは大きく息を吐いた。


「よし、完成だ」


 その剣は素材を付与する前と違い、黒い刀身をしていた。

 黒といっても、どす黒い色では無く、鮮やかな光沢のある黒だ。


「どれ、持って素振りしてみろ」

 

 僕はその黒い剣を握る。

 それは以前使っていたロングソードに比べ軽く、右手にしっくりくる感じがする。

 そのまま何時もの要領で数回素振りをしてみた。


「どうだ、何か違和感があるか?」


「いえ、何か馴染むっていうか……、凄いですね、この剣」


「ふん。儂が作ったのだから当たり前だ!」


 ゼノンさんは自慢げに口ひげをひくつかせながら返答した。




 黒い剣を再びゼノンさんが真剣な目で見つめている。

 しばらくして、その剣から目を離して満足げな笑みを浮かべる。


「……ふむ、これなら修正の必要はないようだな。ならば、カナタよ。この剣に名前をつけてやってくれ」


「名前……ですか?」


「うむ。ドワーフの言い伝えでは、剣に使い手自らが名前をつけることによって、万倍の力を貸してくれるといわれている。良い名前を頼むぞ」


 そう言われても、名前か……。

 自らってからには、僕一人で考えないと駄目だよね。

 …………

 しばらく考えた僕の頭に、ある一つの名前が浮かんだ。


「黒曜剣……っていうのはどうですか」


「うむ、ではその黒曜剣は今日からお前の物だ。大事に使ってくれよ」


「はい、ありがとうございます!!」


 ちなみに値段は金貨一枚だった。

 ミサキ曰く、付与もついているレベルの剣では破格の安さだそうだ。

 僕は再度ゼノンさんにお礼を言い、店を後にしたのだった。





 黒曜剣を手に入れた僕たちは、王都のギルドへと向かっていた。

 マイケルくんからの頼まれ事と同時に出来る依頼が無いか見に行く為だ。


 程無くしてギルドの前に辿り着いた。

 だが、何だか入り口付近に人だかりが出来ていて込み合っている。

 何事かと人ごみをかき分けてその中心へと進むと、そこでは二人の男が睨み合いをしていた。

 まるで果し合いのような雰囲気に、周りの人たちも口を出せずにいるようだ。


「てめぇ! 俺様が誰だかわかって喧嘩を売ってるんだろうな!」


「……たしか、溝鼠(どぶねずみ)のリーダーだったか?」


「赤虎だっ!! てめえ、もう容赦しねえ!」


 赤く巨大なバトルアックスを構えた巨漢な男の額には血管が浮き出て今にもはち切れそうだ。

 それとは対照的に、黒い装束に身を包んだ細身の男は、冷静に相手を観察するような目つきで相手を見据え、自然体で佇んでいる。

 その二つの眼以外は装束で隠されているため、顔つきは確認できない。

 ギルドの職員は表には出てきておらず、どうやらまだこの騒ぎにまだ対応できていない、もしくは静観を決め込んでいるようだ。


「半殺しにしてやるよ! 唸れ! ヒートアックス!!」


 巨漢の男の斧を相手目掛けて唸りを上げる。

 斧は赤く燃え上がり、焼き尽くさんとばかりに黒装束の男に振り下ろされた。

 一切の手加減が感じられない殺す気の一撃。

 この場所での惨劇を予想し、野次馬の大半が目を瞑る。


 しかし、巨漢の男の渾身の一撃は空を切る。

 そこには狙いを定めた相手は既に存在しなかった。

 巨漢の背後で短刀を構える黒装束の男。


「半年は仕事が出来ないと思うが、自業自得と思ってもらおう」


 背後から短剣を突き刺され、巨漢の男はその場に崩れ落ちた。



 

 周りの野次馬がざわつく中、黒装束の男は巨漢の男の落とした赤い斧をひょいと拾い上げると、その懐に仕舞い込む。


「お前には過ぎたる武器、私が頂いておこう。戦利品だ」


 そう言うや否や、人ごみをかき分け、その場を消えるように去っていった。





「……カナタ、見えた?」


「一応ね。でも対処となると、やってみなければ分からないな」


 ミサキの問いに僕はそう答えた。

 ダグラスさんとの特訓のお蔭で、ある程度の素早い攻撃も一応は目で追えるようになっている。

 だが、あれが彼の本気かは分からない。


「ミウも見えたよ〜! すごい?」


「……ええ、流石ミウ」


「えへへ〜♪」


 ミサキに撫でられご機嫌なミウ。

 ピリピリとした雰囲気が一気に和やかになる。

 うん、これがミウの魅力だね。



 野次馬がぱらぱらと散開していく。

 何人かは倒れている巨漢の男に寄り添い、状態を確認しているが、どうやら命に別状は無さそうだ。

 そこには治癒魔法の使い手もいたらしく、淡い光が巨漢の男を癒していた。

 あの私闘は何が理由かはわからないが、僕も絡まれないように注意しよう。


 僕たちは気を取り直してギルドへと入っていった。




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