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第35話 うおっ!!

今回は冒険色が薄いです。

 時が静かに流れていた。

 水のせせらぎが耳に心地よく、気分を穏やかにさせる。

 生物の起源は水の中からと言われているが、ここまで落ち着いた気分でいられるのは、それが関係しているからだろうか。

 ポチャンという音と共に同心円状に広がる波紋は、上流からの水の流れによってかき消され、また何事も無かったかのように元の状態に戻る。

 空には白い雲たちがぷかぷかと浮かび、時折それらが影を落として日差しを遮る。

 ふぅ、何だか瞼が重くなって来たなぁ……。


「……カナタ、寝ちゃ駄目」


 ミサキに軽く頭を小突かれ、旅立つ寸前だった僕の頭が覚醒する。


「……いや、だって……ねえ。ただ待つだけって中々忍耐がいる訳で……」


 言い訳しつつ、僕は釣竿をいったん引き戻す。


「あちゃあ、バレた」


 先端についていた餌は見事に無くなっていた。


「…………」


「……ごめんなさい」


 ミサキのジト目を受け、僕は素直に謝る。



 さて、何故僕たちが釣りをしているかというと、もちろん素材集めの一環で、決して遊んでいる訳では無い。

 狙っているのはアンコと呼ばれる魚型の魔物、ギルドの資料で見た限りではどう見ても鮟鱇(あんこう)なのだが、こちらのアンコは深海では無く、川の底に潜って生活しているらしい。

 王都の西に位置し、ロキアス山脈から南に流れるメキド川にのみ生息しているとのこと。

 川底の何処に潜っているか見た目では分からない為、釣り針に垂らした餌でおびき寄せるのがアンコを取る一番良い方法とされている。

 先達たちの教えに従い、僕たちもこうして釣り糸を垂らしているという訳だ。


 しかし、かれこれ二時間はこうして釣りをしているが、一向に獲物が引っかからない。

 子供の頃に川釣りを何回かやっただけなので、特にテクニックも何もなく、ただ餌をつけて釣糸を垂らしているだけ。

 「釣りは忍耐が必要」と何処かの釣り番組で言っていたのも思い出す。

 何かやり方が不味いのだろうか? それとも、ここは我慢のしどころなのだろうか?


 ちなみにミウはというと、既に日向ぼっこからのお昼寝へのコンボでご就寝だ。

 耳を澄ますと、すうすうという寝息と共にもこもこが上下している。

 寝る子は育つと言うし、そのまま寝かせてあげよう。


 そんな事を考えながら呆けていると、いきなりググッと釣竿がしなる。

 僕は慌てて竿を握り、後方に体重を掛けてそれを引き戻す。


「ミサキ! でかいぞ! フォロー頼む」


「……あいあいさー」


 王都で釣り竿と一緒に買ったたも網(・・・)を持ち、ミサキが水面に近づく。

 一進一退の攻防の末、ようやくその魚影が水面に現れた。


「うおおおおっ!」


 最後の力を振り絞り、獲物を引き揚げる。

 ミサキがたも網を入れようとしたその時……。


「痛い痛い! 痛いがな! やめて〜な!」


 水面に現れたのは目的の魚、いや魚では無い何かだった。






「しっかし、あんさんも酷い事をしなはる。いきなり目の前に美味そうな餌をちらつかせて……。こないされたら誰でも喰い付くっちゅうねん」


 見事に釣られたその魔物は、見た目は巨大な魚、鯉か鮒といった見た目なのだが、その胴体からは筋肉質の手足が生えていた。

 身振り手振りで僕たちに抗議するその様は、とてつもない違和感を拭いえない。

 何よりもそのエセ関西弁が怪しさ全開だ。


「すいません。アンコが欲しくて釣りをしてたんですが……、まさかあなたが引っかかるとは思わなくて……」


 全面的にこちらが悪いとは思っていないが、釣り上げて痛い思いをさせてしまったことは事実なので一応謝罪する。


「まあ、分かってくれたらええんや。あんさんアンコを釣りたいんか? それやったらこないな餌じゃ釣れまへんで。ちょっと待ってえな」


 その半魚人(一応合ってるよね?)は河原をうろつき、ある一点で立ち止まると何やら穴を掘りだす。

 そして何かを穴の中から取り出すと、得意満面そうな笑みを浮かべて僕の前にそれを差し出す。


「ほれ、これで釣ってみなはれ!」


 差し出されたのはアサリくらいの大きさの二枚貝、僕はその殻を開き、中身を釣り針につけて糸を垂らす。

 すると、一分もかからずに竿がしなる。

 釣り上げたのは、あれだけ待っても釣れなかったアンコであった。


「どや、凄いやろ。何故かあんさんとは話が通じるよって、教えたったんや。普通の人間は知らんで」


「ありがとうございます! 助かりました!」


「いやいや、どういたしましてや。それにそないな丁寧な言葉で喋らんでもええで。ワイのほうがむず痒くなるわ。……そや、名前教えとらんかったな。ワイの名前はマイケルや。どや、カッコええやろ。マイケルくんって気軽に呼んでくれや」


「…………うん、そうだね。僕の名前はカナタ、あとミサキにミウだ」


「……よろしく」


「よろしくね〜!」


 ミサキに続き、いつの間にか起きていたミウも挨拶する。


「ほうか、カナタくんにミサキちゃんにミウちゃんか。ワイのマイケルには負けるけど皆ええ名前や」


「…………うん、ありがとう」


 言いたいことは多少あったが、言ってはいけない気がした。




「そうや、わいの種族は魚人族。大抵は湖とかに住んどるんやけど、ワイはさすらいの旅人やからな。こうして川を下って旅をしとるんや。おっ、これも美味いな」


 僕たちはお礼も含め、マイケルくんと一緒に食事を取っている。

 どうやらスラ坊特製弁当はマイケルくんの口に合ったらしい。


「そや、アンコのお礼といっては何やが、一つ頼まれたってくれんか?」


 食事の手を止め、マイケルくんが真剣な顔でこちらを見る。


「別に出来ることならいいけど……。どんな事?」


 助けてもらった手前、無下に断る訳にもいかない。

 あまりに無茶な内容ならその限りではないが……。


「そんな難しい事ではあらへんよ。これをワイの両親に届けてほしいんや」


 そう言って一枚の手紙を取り出す。

 川の中にいたのに良く濡れてないな、これ。


「長らく家に戻ってへんので、心配させてるやろうからな。ワイはまだしばらく旅はやめられへん。元気やったとも伝えたってくれると嬉しいわ」


「ああ、そういう事なら構わないよ」


 マイケルくんから手紙を受け取る。


「おおきに。これも何かの縁、また何処かで遭ったら仲ようしたってや」


 僕らはマイケルくんと握手を交わした。


 空に赤みが差した頃、僕たちに両手を振りながらマイケルくんは下流に流されていった。

 姿はあれだが、感じの良い魚人だった。

 剣が出来た後で、この手紙は両親に届けてあげよう。


 

 さて、フレイムリザードの鱗、ワイバーンの鉤爪、アンコの肝、ゼノンさんに言われたものは全て揃った。

 肝とかを如何使うのか、いまいち疑問が残るが……。

 まさか食べる訳じゃないよね。

 多少の疑念が生まれつつも、僕たちは素材を持って王都へと戻るのであった。



 

 

一応エセとは書いたんですけど、関西弁間違ってないですかね?

間違ってたらごめんなさい。

先に謝っておきます。

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