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第33話 いろいろ暑(熱)い

お待たせいたしました。

 ガルド王国の北にそびえるロキアス山脈。

 東西へとそのすそ野を広げ、それが隣接するロキア商業連合国との国境線となっている。

 その山脈を形成する山々の一つであるルブルス山。

 王国側に近く、他の山に比べて一際低いその山はある意味有名であった。

 何故なら――



「暑っちい……」


 ルブルス山の中腹にある洞窟の中で、あまりの暑さにたまらず呟く。

 ルブルス山は活火山。

 その内部へと続く洞窟の中は天然のサウナとなっていた。


「カナタ〜。お水ちょうだい」


 巾着袋から冷えた水を取り出しミウに渡す。

 あまりの洞窟の暑さに別荘にいったん戻り、大量に巾着袋に詰め込んだのでまだまだ冷えた水のストックはある。


「ミサキ、そのマント暑くない?」


 この暑さでもマントを脱いでいないミサキを心配する。


「……大丈夫。触ってみて」


 広げたマントの内側を触ってみると何だかひんやりと冷たい。


「……温度調節機能付き。……高かった」


 どういう仕組みか分からないが便利な機能だ。

 後で買った店を教えて貰おう。


 

 しっかりと水分補給をした僕たちは、再び奥へと進む。

 その通路のすぐ横は崖になっており、その遥か下には真っ赤なものが見える。

 ――あれは、どう見ても溶岩だよね。

 落ちたら高さ的にも温度的にも助からないことが確実だ。

 敵と地形に気をつけながら慎重に進んでいこう。


「カナタ! 来るよ!!」


 僕にもそれが見えた。

 真っ赤なスライムが二匹、通路を所狭しとうねりながらこちらに向かってくる。

 先制攻撃とばかりに、一匹のスライムが魔法を放ってきた。

 火属性魔法、ファイアボールだ。


「……ウィンドバースト」


 ミサキの一番得意な火属性魔法は今回はお休み。

 風属性のウインドバーストをファイアボールに向けて放つ。

 集約された空気の圧縮弾がファイアボールと衝突し、その瞬間弾けとぶ。


「おわっ! 危ない!」


 その衝撃波に思わず飛ばされそうになるが何とか踏ん張る。

 頭の上にいたミウを抱えることも忘れない。


 その威力により、スライムの放ったファイアボールは当然のごとく消滅した。

 だが、爆発地点が遠かった為、スライム二匹にダメージは無かったようだ。


 ミウをその場に残し、勢いよくスライムたちに接近する。

 スライムは身体の一部を触手のように伸ばし、鞭のごとくしならせて追撃してきた。


「させるかっ!」


 迫りくる触手に対し剣を振るう。

 スパッという擬音が相応しいくらい小気味よく切断、借り物のロングソードは切れ味抜群だ。

 半透明の赤い身体の中心に丸いものが見える。

 どうやらあれがスライムの核、僕は迷わずロングソードを突き刺した。


 ぷるぷると震えながら力なく崩れるスライム。

 もう一匹の抵抗も難なく退け、二匹の無力化に成功した。




 ミサキがスライムの破片を瓶に集めている。

 ほとんどが溶け出して残っているのはごくわずかなので、中瓶一本でも容量が余るくらいの量だ。

 このスライムゼリーは、どうやら素材として売れるらしい。

 ミサキからスライムゼリーの瓶を受け取り巾着袋に入れておく。


「そうだ! ミサキ、派手な魔法はなるべく禁止ね。崖から落ちたら洒落にならない」


 再出発の前にミサキに注意をしておく。

 先程の魔法位なら何とか踏ん張れるが、この閉鎖空間でさらにド派手な魔法でも使われた日にはかなり危険だ。


「……スタッフの性能で威力が増えていた。……反省」


 威力増加まで計算に入れなかった様子。

 それが分かっているのなら心配はなさそうだ。




 途中、いくつか分岐点があったが、適当に選び奥へと進んでいく。

 僕たちの目的はあくまで魔物の素材。

 手に入れたらこんな暑い場所とは速攻でおさらばだ。

 幾度かの魔物の戦闘をこなし、熱にやられないように適度に休憩を取る。

 そしてようやく、目的の魔物が目の前に現れた。


 赤い鱗を身にまとい、四本の足で地面を這う。

 体長は二メートル、いや、尻尾を入れれば三メートル程か。

 時折、緑の舌をちろちろと出す様はまさしくトカゲそのもの。

 フレイムリザード――火山に住まう大トカゲだ。


「ウィンドカッター!」


 ミウお得意の風の刃がフレイムリザードへと襲い掛かる。

 しかし、フレイムリザードは後ろを向いたかと思うと、その長い尾を振り回し、風の刃を全て跳ね返す。

 

「……ダークボール」


 ファイアボールの闇属性版、真っ黒な闇の玉を三つ、リザードに向けて放つ。

 それを牽制として、僕はリザードに近づいて行く。


「フシャァァァ!!」


 先程と同じく長い尾で振り払おうとしたが、今度は逆にダメージを負った様子。

 その隙を見逃さず、僕はリザード目掛けて横なぎに斬りつける。


 プシュッ! という音と共にリザードから赤い体液が吹き出す。

 幾分か胴体を斬りつけたが、致命傷には程遠い。


 さらなる危険を認識したのか、リザードは頭をこちらに向け僕を睨む。

 リザードの身体が、軽く後ろに沈んだ気がした。


「カナタ! 危ない!!」


 ミウの叫びが届いた時には、もう眼前にリザードが迫っていた。

 僕は慌ててロングソードを盾にする。


「ぐはっ!!」


 剣でガードし直接喰らって無いとはいえ、その巨体の体当たりは僕を吹き飛ばすには十分だった。

 そのまま勢いに任せて真後ろの壁に激突する。


「カナタ!」


 ミウがこちらに駆け寄ってくる。


「平気、ちょっと油断した……くっ!」


 立ち上がろうとすると背中に痛みが走る。

 かなり激しく打ちつけたから当然か。


「ヒール!!」


 ミウの治癒魔法が僕の体に染み渡る。

 痛みが引いて行く……。


「ありがとう、ミウ。大分痛みが取れたよ。これならば大丈夫だ」


 今もフレイムリザードとの戦闘は続いている。

 ミサキが魔法で牽制し、こちらに近づけないようにしてくれていた。

 普段と違い高威力の魔法が放てない為、倒すには至ってないようだが……。


「カナタ! 気を付けてね!」


 ミウに無言で頷き戦場へと戻る。

 もう油断はしない!


「ミサキ、ごめん! 待たせた」


 ミサキの手前に陣取り、フレイムリザードと対峙する。


「……平気?」


「ああ、問題ない。ここからミサキを抱っこしたまま王都まで帰れるぞ」


 問題ないことをアピールする為に、偶には軽口を言ってみる。


「……お姫様抱っこで」


「いや、それ位復活したって事を言いたい訳で……、それより魔法で牽制よろしく!」


 深みに嵌る前に話を切り上げ、フレイムリザードに向かってダッシュする。

 リザードはその大きな尾を振り回して攻撃してきたが、そんな大振りの攻撃は当たらない。

 後方から放たれたミサキの魔法に加えてミウの魔法もリザードに着弾する。

 身悶えているリザードの頭部目掛けて、体重を乗せた剣を一直線に振り下ろす。

 その剣はリザードの頭に食い込み、フレイムリザードはそのまま活動を停止した。



 横たわったフレイムリザードから、ゼノンさんのメモの通りにその素材を剥ぎ取る。

 フレイムリザードの鱗――ようやく一つ目の材料が手に入った。

 その他、牙も素材として売れるようなので回収しておく。

 さて、ようやくこの蒸し暑い空間からおさらばだ。


「よし、帰ろう! 汗だくだから早く風呂に入りたい」


「うん、ここにはもう来たくないね」


 ミウの言うことに同意だ。

 蒸し暑くて集中力は途切れるし、使える魔法も制限されている。

 良い経験にはなったと思うけど、二度目はもう来たくない。



 ちなみに、帰るときにミサキにお姫様抱っこでの移動を要求されたが、流石に勘弁してもらった。

 その代り、その場でお姫様抱っこだけはさせられたのは三人だけの秘密である。







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