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第32話 王都到着

 しっかりと舗装された街道の先には見上げるほどの高い城壁。

 その上には、写真でしか見た事の無い西洋風の城の頭部分が見える。

 正面に悠然と構えるのは、巨竜でも楽にくぐれるだろうと思われる大きな門。

 その門からは、まるで甘いものを見つけた蟻のように長蛇の列が続く。

 しかし、姿は蟻のようだが、その進む速度は象のように緩やかだ。

 かく言う僕たちも、その蟻か象かの一員となり列に連なっている。


「まだ入れないの〜?」


 既に一時間は経っているだろう。

 その待ち時間にミウが不満を漏らす。


「……今日は特に混んでいる。普段の列はもっと短い」


 たまたまタイミングが悪かったということか。

 

 ここまでで一時間ということは、少なくともあと二時間はかかるな。

 僕もミウと同じで、行列に並ぶのはあまり好きではない。

 遊園地でも、二時間待ち……じゃあいいや! ってタイプだ。

 でも今回はいいやって訳にはいかないから困りものだ。


 ミサキ曰く、ここに並んでいるのは商隊、ならびに王都への新規入場者、他国の入場者が主とのこと。

 この国で活動している僕たちは、今回手続きをすれば次からは楽に入場できるとのことだ。

 長蛇の列の横で、すんなりと王都に入場している人達が目についていたが、次回からは僕らもその仲間入り出来るとあってほっとした。

 軽く身分証の提示を求められることもたまにはあるとのことだが、そんなのは些細なこと。

 ちなみに、僕らの身分証明書はもちろんギルドカードだ。


 あれからさらに三時間が経ち、僕たちはやっとのことで王都への入場を果たす。

 王都の城下町を見て、感想を一言でいうと――大きい!

 ベラーシの街も広いとは思っていたが、その比ではない。

 これでもかと言うくらいに広く作られた大通り、その幅は車道に例えると、優に6車線くらい取れそうだ。

 街路樹の脇にはしっかりと歩道も作られており、その横に立ち並ぶ商店街は、どれも大きな店ばかり。

 足元はタイルのような石で舗装されており、所々で色が変わっていて何やら模様が描かれている。

 そして、王都の外でも見ることのできた巨大な城。

 パウダースノーのように真っ白なそれは、この巨大な城下町を見守るようにそびえ立っていた。


「カナタ! 良い匂いがするよ! 先ずは食べようよ!!」


 そういえば、もう食べるには丁度良い時間だ。


「よし、食べようか。ミサキもそれで良い?」


「……ええ、問題ない」


 大通り沿いに幾つかあったレストランの中から適当に一つ選び、そこに入る。

 中はシックな雰囲気で、ちょっと高級店っぽい。

 こういう店はあまり得意では無いのだが、流石に今さらやめますとは言えないので、適当に注文する。

 テーブルに来たシェフの説明では、何やら高級食材らしいが、何というか……、味は普通としか言えない。


「う〜ん。スラ坊のご飯の方がぜんぜん美味しい」


 ミウさん、まだ店の中だよ!

 思っても口に出してはいけません!

 ミウの言葉はシェフには通じないから良かったけれど……。


 その後、支払を済ませて店を出る。

 街の食事の数倍取られてしまった。

 都会の洗礼だと思って諦めよう……。



 せっかく王都に来たので、ギルドにも寄ってみることにする。

 確か場所はこの辺りだと聞いたんだけど……。


「おっ、あった」


 王都の周りの風景から浮いている古ぼけた建物。

 そこを出入りする無骨な冒険者たち。

 早速、中に入り辺りを見回す。

 街ギルドより広い作りにはなっていたが、それ以外は何も変わらない。

 やっぱりこういう方が落ち着くよね。


「依頼を見てみようよ!」


 ミウが僕の頭の上で飛び跳ねる。

 元よりそのつもりだ。

 僕たちは依頼が掲示されているスペースへと移動した。

 そこには溢れんばかりの依頼が、所狭しと掲示されている。


「これは……、凄い量だね」


「……他のギルドでは無理な依頼も王都に集約される。……ある意味当然」」


 貼られている依頼を良く見てみると、何やら赤字で「緊急!!」と書かれている依頼がちらほらと見受けられる。

 その依頼には、共通して下の部分に他の街ギルドの名前が書いてある。

 このギルドから依頼が流れてきたってことか。


 興味本位でベラーシの街ギルドの依頼も探してみたが、見た限りでは見当たらなかった。

 冒険者が優秀なのか、はたまたそれほど大した依頼が無いのか。

 ベラーシを拠点としている僕としては前者であって欲しい。


 僕らは一通り依頼を眺めた後、特に受付せずにそのままギルドを出た。



 光があれば、その影もある。

 それは城下町にも同じことが言えた。

 崩れかけた家々にでこぼこな細い路地。

 王都の入り口付近の華やかさが嘘のように人通りも少ない。


 建物の影から怪しい視線をちらほらと感じるが、そのまま無視して目的地へと向かう。

 もちろん、向かっている先はダグラスさんが言っていた鍛冶師の店だ。


 しかし、本当にこんな所に店なんかあるのかね?

 このあたりの雰囲気からして、店なんか開いてもお客が来るとは思えない。

 ダグラスさんが言うからにはあるんだろうけれど……。



 そして目的の店に着く。

 一応、看板はあるので店には違いないだろう。

 それが、ドアの横に立てかけてあるだけの腐りかけた木だとしても――。


 怪しい雰囲気だが、勇気を出して一歩を踏み出す。

 中には埃の被ったカウンターテーブルが存在するのみ、人は誰もいない。


「すいませ〜ん! どなたかいませんかー!!」


 その場で大きな声を出して呼んでみる。

 すると、しばらくして奥から気怠そうに男が出てきた。


 身長は子供のように低くずんぐりむっくり、口髭をいっぱいに生やした男を見て僕は思わず口に出していた。


「ドワーフか!?」


 その男はこちらを怪しい者でも見るかのようにこちらを観察して一言。


「ふん。いかにも儂はドワーフだが、それがどうかしたか?」


 気分を害してしまったかと思い、僕は素直に謝る。


「あっ、すいません。いきなり失礼をしてしまって……」


「なんだお前は。ここには謝りに来たのか」


 どうやら早く本題を話せとのことらしい。


「いや、そうではなくて……。実は武器を作ってもらいたくてここに来ました」


 その言葉に、ドワーフは渋い顔をする。


「ふん。武器なら商店街で沢山売っているだろうが。寄らなかったのか?」


「は、はい。あっ、そうだ。これ、紹介状です」


 そう言ってダグラスさんの手紙を渡す。

 ドワーフはその手紙を黙って呼んでいる。

 そして、読み終わるとその手紙を丸めて捨てた。


「えっ!?」


 さすがに捨てるとは思わなかったので、思わず声が出てしまった。


「ふん。何を勘違いしている。もう読み終わったから捨てただけだ。ちょっと待ってろ」


 そう言い残し、ドワーフは奥へと引っ込む。

 しばらくして、三本のロングソードを抱えて戻ってきた。


「お前、これを順番に振ってみろ!」


 言われた通りにカウンターに置かれた三本の剣を順番に手に取り、素振りを行う。

 ドワーフはそれを見ながらぶつぶつと呟いている。


 素振りが終わった後も何やら呟いている。

 ミウとミサキはその行く末をただ黙って見守っている。


 そして数分後、ようやくドワーフが独り言から目覚める。


「ふん。まあ、ギリギリ合格だな。作ってやろう」


「本当ですか!?」


「嘘を言ってどうする。お前、名前は」


「はい、カナタです!」


「ふん、カナタか。儂はゼノンだ。では、早速だがこの素材を取って来い」


 ゼノンに先ほど呟いていた時にメモをしていた紙を渡される。

 そこには、魔物の名前と部位が書かれていた。


「何ですか、これ?」


「ふん、見てわからんのか!? お前の剣を作る為の素材だ。儂の剣はオーダーメイド、一から作るに決まってるだろ。ダグラスに聞いとらんのか?」


 ダグラスさん、聞いてないです。


「ふん、その代わり、集めさえすれば今のお前にとっての最高の剣を打ってやろう! そら、この剣を持ってとっとと集めて来い!」


 ゼノンさんにそのまま店の外に押し出される。



 僕は改めてメモを見る。

 中には有名どころの強そうな魔物も……。

 これ、剣が新しくなる前に死んだりしないかな?


 ゼノンさんに渡されたロングソードも観察してみる。

 先ほど素振りをしたうちの一振り、今持っている物よりも良い物なのは確実だ。


「どうするの?」


 ミウが聞いてくる。


「いや、やるしかないだろう。……二人とも、付き合ってくれる?」


「……問題ない。嫌がってもついて行く」


「ミウももちろん行くよ!」


 こうして、僕たちは新たな剣を求め、素材集めに奔走することになった。



 



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