第30話 判定は?
見た事のある顔、そう、ガローニに雇われていた冒険者だ。
アイテムらしいものを手に持ち、ニヤつきながらもこちらの反応を伺っている。
「それは反則……、って言っても無駄ですよね」
「良く分かってるじゃないか。油断した方が悪いって事だ」
「このまま見逃すとでも……」
「あいにく俺は逃げ足には自信があってね。悪いが全力で逃げさせてもらうよ」
「僕たちのような駆け出し冒険者から逃げ出すんですか?」
男は冗談っぽく肩をすくめる。
「馬鹿をいうな。あの戦いを見た後では、誰もお前らを駆けだしとは思わねえよ」
「そりゃどうも……」
「――ってことで、後ろの嬢ちゃんも魔法は無駄撃ちになるからやめた方が良いぜ。殺す気の魔法は撃たないだろ? なら俺の足止めは無理だな」
ミサキが僕と目を合わせる。
いや、流石に殺しちゃ不味いだろう。
「そういうことで、これは頂いてくぜ。ありがとよ」
無駄だと言われていても、はい、そうですかと帰すわけにはいかない。
ミウ、ミサキの魔法の発動に合わせて、地を蹴りつけ男に迫る。
男は慌てた様子を見せず、何かを投げるような動作をする。
キラリと何か光るものが眼前に迫り、僕は慌てて首を振る。
頬にチクリとした痛みが伝わるが、気にしている場合ではない。
そのまま男に迫ろうとしたその時、急に体から力が抜ける。
その姿を見て、男は口角を上げる。
「「カナタ!!」」
ミウ、ミサキの叫び声が聞こえる。
「経験が足りないな、坊や。そのナイフには麻痺毒が塗ってある。しばらくは体が重いと思うぜ。まあ、死にはしないから安心しろ」
そのセリフを残して、男は僕たちの前から消えて行った。
「キュア!」
僕の体を淡い光がつつむ。
怠かった体が回復していくのが分かる。
拳を握り、力の感触を確かめる。
「うん、ありがとう、ミウ。もう大丈夫だ」
男が言ったように、どうやら大した毒では無かったようだ。
治癒魔法をかけてくれたミウと心配そうに覗き込むミサキに向けて笑顔を作る。
「カナタ〜」
抱き着いてくるミウをぐりぐりしながら、これからを考える。
アイテム、取られちゃったな……。
せっかく手に入れたアイテムを奪われた落胆は大きい。
夜明けまであと二時間もないだろう、どうしようか。
その時、ふと目の前を小さな生物が横切った。
「……カナタ、倒して!」
珍しくミサキが声を張る。
何だか良く分からなかったが、とりあえずミサキの言う通りその生物を追いかける。
「くぴ〜、くぴ〜」
そのハツカネズミのような生物が可愛い鳴き声をもらす。
すると、何処からともなく現れた大量の霊体が、そのネズミを守るように襲い掛かってくる。
「何だこれっ! 一瞬でも可愛いなって思った僕が馬鹿だった!」
迫りくる霊体に対し、ミウとミサキは臨戦態勢を整える。
「させないよっ!!」
ミウの聖魔法により、襲い掛かってくる霊体は次々に浄化されていく。
ミサキも炎の魔法で応戦。
その間に僕はそのネズミを追いかけ回す。
「くぴ〜、くぴ〜」
ネズミが霊体やスケルトンを集め、それをミウとミサキの二人が倒す。
僕はネズミを追いかける。
その格闘劇は、朝日が昇るまで続いた。
「では、双方アイテムを出してくれ」
ギルドマスターの言葉に従い、アイテムをギルドマスターに渡す。
双方のアイテムをギルドマスターがじっくりと吟味する。
「ふむ……、この勝負、カナタの勝利だ!」
「なにっ! そんな馬鹿な!」
ガローニが喚く。
相手方のアイテムは見た事がある。
スケルトンロードが落としたアイテム、あの時盗られたものだ。
どうやらそれ以上のアイテムは手に入らなかったようだ。
対して、僕たちが手に入れたのは霊体の腕輪。
霊体の攻撃ダメージを壊れるまで半分肩代わりしてくれる消耗品。
最後に倒した魔物、サモナーラットのドロップ品だ。。
サモナーラット自体の出現率とドロップ率の低さもあり、結構価値がある、とは、ミサキ先生の談である。
「スタッグ! 話が違うではないか!!」
「いや……、そんなはずは……。あの短時間で有り得ん」
「……結果が全て。私たちの勝利」
ミサキが勝利宣言をする。
「俺がお前らのアイテムを盗ってからほとんど時間は残されていない筈だ! きっと何か不正をしたに決まっている」
「ほう、どういうことですかな。あなた方は相手のアイテムを盗んだ――と聞こえたのですが……」
ギルドマスターの目が鋭く光る。
「…………いや、俺の勘違いだ」
「ふむ、ならばここにカナタたちの勝利を宣言する。以後、ガローニ殿は彼らにいらぬちょっかいをかけぬ様にお願いしますぞ! 破ったらギルド全体が敵になると思って結構です」
ガローニは肩を震わせ、睨み殺さんばかりの恨みの表情を僕に向ける。
あの~、ギルドマスター、余計恨まれてませんか?
「くそっ! 行くぞ、お前ら!! スタッグ! 報酬は払わんからな!!」
ガローニは、馬車に乗り込みこの場を去っていった。
「ギルドマスター、話が違うんですけど……。恨みの度合いがかなり上がってませんか」
「でもな、ほら、あれだ、ギルドが表だって保護できるようになったから――」
「……報酬上乗せ」
ここぞとばかりにミサキが要求する。
「わかった、わかった、考えよう。すまんな。じゃあ、これで」
これ以上要求されたら堪らないとでも思ったのか、そそくさとギルドの奥に引っ込んでしまった。
「ねえ。この勝負、負けた方が良かったんじゃない」
今さらながらだが、ため息交じりに僕が呟く。
「……それは駄目、私たちのチームは最強」
ミサキの矜持がそれを許さないらしい。
「だめだよ! カナタは負けたら!」
ミウからもツッコまれた。
はぁ……。
余計なトラブルが無いといいなぁ……。
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