第28話 そうそう上手くいく筈もなく……
あれから何体か亡霊らしきものを倒すも、落とすのは聖水ばかり。
さすがにもう見飽きてしまった。
しかし、亡霊が聖水を落とすってどうなのだろう?
明らかに彼らの弱点になるものだよね。
そんな物を持ってるっておかしくないか?
ゲーム内ならば、有名なところではバブリーなスライムが毒消しを落とすなんてあるけれど、あくまでそれはゲームの世界。
現実でもこんなご都合主義的で良いのだろうか……。
そんな事を考えつつ、作業的に魔法を放ちアイテムを拾い上げる。
ふむ……、また聖水か。
「……油断しないで。……そろそろ暗くなる」
気がつけば辺りが薄暗くなってきていた。
昼過ぎに来たから、結構な時間戦っていた計算になる。
「ミウ、疲れてないかい?」
「う〜ん、まだ大丈夫だと思う」
一応ドロップアイテムの聖水を使いつつ魔力の温存を心掛けてはいたが、思い切って夜になるまで休んだ方が良いかもしれない。
同じ敵、同じアイテムではさすがに時間と労力の無駄だ。
「よし、一度戻ろう!」
濃い霧の中、僕は鍵を使い別荘に戻ることにした。
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――その頃、エルドアの墓場の入り口。
「何をやっているのだお前たちは! 随分後れを取ってしまったではないか!」
「はい、申し訳ありません、ガローニ様。……ですが、あれがこの馬車の限界速度でして……。それ以上になりますと馬が潰れてしまいます」
「言い訳は聞きたくない!! これで負けたらお前のせいだ! 首だけで済むと思うなよ!」
御者を務めていた部下に対して恫喝するガローニ。
しかし、思いもかけないところから助け舟が入る。
「安心しろ。昼間にここを訪れても雑魚しか出ない。精々聖水を落とすのが関の山だろう」
この道中、馬車の中で目を瞑り、ただひたすら黙していた男が初めて口を開いた。
「ほ、本当だろうな!」
「俺の言う事が信じられないなら、俺はここで降りてもいいんだぜ、ガローニさんよ」
「……わかった、信じよう。だが、お前には大枚をはたいているんだ。勝利という結果以外、私は許さんぞ!」
「ああ。どんな手を使っても勝ってやるよ。お前さんは黙って見てれば良い」
「ふん。ならばこれ以上何も言わん。期待しておるぞ」
ようやく落ち着いたガローニを見て一安心する部下たち。
雇われ冒険者に感謝の視線を送るが、本人はにべもない。
馬車を降りたガローニたちは、やとわれ冒険者を先頭にエルドアの墓場へと足を踏み入れる。
「お、お前ら。私を守れよ! こ、こら! 離れるな!!」
雇われ冒険者以外の三人はガローニを囲う様に守る。
言うならば、人間の盾といったところか。
「ガローニさんよ。怖いなら外の馬車で待ってくれても良かったんだぜ」
「な、何を言う! 私がこ、怖いなどとは! 有り得ん!」
そう言いつつも足はガタガタ震えている。
冒険者はそれを鼻で笑った。
「ぶ、無礼な! これは武者震いだ! 勘違いするな!!」
「なら良いんだけどよ。俺の邪魔だけはするなよ」
そのセリフと共に、急に襲い掛かってきた亡霊を剣で一閃。
亡霊は見事に一瞬で消滅する。
その刀身は、白い光でキラキラと光っていた。
「おお、何か落としたぞ! スタッグ! 拾え!」
仕方がないとばかりに落ちているアイテムを拾うと、ガローニに向かって放り投げる。
「聖水だ。たいして珍しくも無い。狙いはこれじゃねえよ」
いきなり投げられた聖水をお手玉しているガローニを放って、スタッグはさらに奥に進んでいった。
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「流石にもう真っ暗だね」
別荘から再び戻った僕たちは、警戒しながら進み始める。
靄のようなものはいつの間にか消えていて視界が良好になったのは良いが、真っ暗な中に白い墓が浮かび上がる光景はかえって不気味だ。
幽霊の類がさほど苦手で無い僕でもそう感じるのだから、苦手な人にはたまらないだろう。
「そういえば……、ミサキはこういうのは大丈夫なんだね」
ふと、ミサキに聞いてみる。
「……ええ、幽体は魔法が使えれば実入りが良い」
さいですか。
ミサキ様は中々の現実主義のようだ。
ふと、何か気配がしたような気がしたので、暗闇の中、目を凝らす。
あれは、人か?
――とすると、ガローニたちだろうか。
「……気をつけて、カナタ」
ミサキがピンクの杖を手前に突き出し臨戦態勢を取る。
近づくに連れ、そいつの正体が分かった。
人間の形はすれど、あるべき肉はついていない。
スケルトンだ!
2体の物言わぬ剣士はこちらに気付いたらしく、剣を振り上げ襲い掛かってくる。
「……フレイムバースト」
後ろの一体が小爆発に巻き込まれる。
どうやらミサキの魔法のようだ。
僕は迫っていた先頭のスケルトンの剣をロングソードで受け止める。
さほど力は強くない。
筋肉が無いからかな? 関係ないか。
そのまま力任せに押し返し反撃、剣を持っていた腕を切り落とす。
しかし、スケルトンは痛がるそぶりを見せず、そのまま反対の手で殴りかかってくる。
甘い! もう一人いることを忘れちゃいけない。
「いっくよ〜!」
ミウの聖なる矢がスケルトンに直撃、その拳の反撃を弾き返す。
体勢が崩れた隙に剣を振り上げ、頭蓋骨に向けて振り下ろす。
力任せの剣にその頭蓋骨が砕かれ、スケルトンはようやく地に崩れた。
「……お疲れ」
どうやらミサキの方も終わったようだ。
さて、目的の物は……と。
ん!? これかな?
拾ったのは二つの小さな指輪。
その色は毒々しいくらいに真っ赤であった。
これ、呪われてないよね?
「……赤光の指輪。魔力を通すと発光する」
「えっ!? それだけ?」
昔は、駆け出し冒険者に魔力があるかどうかを調べるのに重宝されていたらしいが、現在では、より優れたアイテムが開発され、廃れてしまったらしい。
要するにハズレってことね。
「まあ、そうそうすぐに良いアイテムなんて出るものでもないか」
でも、新たな敵が出てきたのは収穫だ。
とりあえず、地道に行きますかね。
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