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第2話 村人との遭遇

「〜〜♪」


 ミウが僕の頭の上で鼻歌を歌っている。


「ミウ、何の歌だい?」


「わかんない、適当だよ」


 こう見えてもミウは生まれて間もない。

 初めて話をしたのが僕なのだから、歌の知識などある訳がない。

 そう考えると自分で作ったのか、凄いな。

 その事をミウに言うと、「そんな事無いよ。小鳥さんたちは歌ってたよ!」とのこと。

 なるほど、自然の音と小鳥の歌のアレンジか。

 何か音楽の起源を見たような気がしてちょっと感動した。


「それよりカナタ。ミウはお腹がすいたよ! ご飯にしようよ!」


 言われてみれば、確かにちょうど小腹がすいてきた。


「よし、じゃあお昼にしようか。場所は――うん、あの岩が良いな」


 座るのにちょうど良い岩が近くにあったので、ここで昼食をとることにした。


「はい、ミウの分だよ」


 巾着袋の中からおにぎりを2つ取り出し、1つをミウに差し出す。


「足りなかったら言って。まだあるからね」


「うん、ありがとう」


 2人してもぐもぐとおにぎりを頬張る。

 僕のおにぎりの具は鮭だった。

 ミウのは――。


「カナタ〜。すっぱいよ〜」


 梅干しだったようだ。


「大丈夫? ミウ」


「……うん、平気」


 すっぱさから立ち直ったミウは、手に持っていた残りを食べ始める。


「うん、慣れればおいしいね」


 どうやら梅干しがお気に召したようだ。


 ミウがもう少し食べたそうにしていたので、もう1個おにぎりを取り出し、僕と半分こにする。

 中身の具はおかかだった。


「ごちそうさま」


「ごちそうさま〜♪」


 食べ終わった後は、再び水でのどを潤した。

 ミウもこくこく・・・・と喉を鳴らして美味しそうに飲んでいる。 


「もう少し休んだら出発しようか」


「うん!」


 2人でしばらく草原に寝転がり、青空と流れる雲を眺めていた。






「う〜ん、かなり歩いているんだけどなぁ。そろそろ人里が見えても良いと思うんだけど……」


 女神様に送られた世界なので、人がいない筈は無い。

 ひょっとして、進んでいる方角が外れなのか?


「カナタ、大丈夫だよ! すぐ見つかるよ!」


 根拠も無く自信満々なミウ。

 しかし、何となく見つかりそうな気持ちになってくるところが良い。

 やっぱり旅の仲間は必要だよね。

 

 だが、ミウという連れも増え、食料もあと二日分無い位なので、そろそろ何か見つかってくれないと正直困る。

 これだけ歩いていても大して疲れない体をくれた女神様に感謝しつつ、見つかるように心の中で祈った。


 

 そして、ついに手がかりをつかむ事に成功した。

 地面に何かの車輌によって出来た轍が残っている。


「ミウ! これを辿っていけば人里がありそうだぞ!!」


「く〜」


「ミウ?」


 どうやらミウは僕の頭の上で寝息を立てているようだ。

 ……寝かせといてあげるか。

 なるべくゆっくり、ミウを起こさないようにその轍を辿って行った。





「やった! ようやくあったぞ!」


 轍を辿って約一時間、待望の集落が視界に映る。

 集落を囲む簡素な木の柵の向こうには畑があり、何人かが野良仕事に精を出しているのが確認できた。

 そのさらに向こうには、写真でしか見た事が無いような藁葺わらぶき屋根の木造住宅が立ち並んでおり、この集落には何十人規模で人が住んでいることがうかがえた。


「ミウ、着いたよ」


 頭の上のミウを軽く揺り動かす。


「う〜ん。もうご飯なの?」


「そうじゃなくて、ほら。目の前に集落があるよ」


「ほんとだ!? 人がいる。やったね、カナタ」


 ようやく差し当たっての目標が達成できたことに2人ではしゃいでいると、村の入り口にいた門番のような人がこちらに気が付いたようで、ゆっくりと近づいてくる。


「坊主、この村に何か用か?」


 その西洋風の鎧を着た男が声をかけてきた。

 良かった、この世界でも言葉は通じるようだ。


(――あたりまえでちゅよ! そんなミスはしないでちゅ!)


 何やら頭の中で声が響いたようだが、気にしないことにした。

 僕は男の問いに答えるべく、その男を正面に見据える。

 そこで初めてはっきりとした男の姿を認識した。


 鎧はくたびれているが、その中身は筋骨隆々、街でからまれたら「ごめんなさい」と逃げ出すレベルだ。

 その睨むような視線に思わず素直に撤退を図りたくなる。

 しかし、ようやく見つけた人里、ここで逃げ出すわけにはいかない。

 僕は自分の中にある精一杯の勇気を振り絞る。


「実は道に迷ってしまいまして、ここが何処なのか教えて頂きたいのですが……。あと、出来れば食料も少し譲っていただけないでしょうか」


 よし、よく言えた! 偉いぞカナタ!

 僕は心の中で自分を褒めてあげた。


 門番の男はゆっくりと目線を上下させ、僕たちを観察していた。

 その溜めの時間が何とも言えず僕を不安にさせる。

 数秒が何十分にも感じられ、ようやく男が口を開く。


「おう、そいつは災難だったな。しかし、この近辺は弱いとはいっても魔物が出ないわけではない。坊主みたいなのが一人でここまで辿り着いたのは逆についていたかもしれんな」


「ええ、その点は運が良かったと思います」


 門番の思ったより気さくな口調に張りつめていた緊張の糸がほぐれた。


「でも、大変だったんだよ!」


 続けてミウが会話に入ってくるが、ミウの言葉は門番には通じていないようだ。

 ミウはしばらく頑張ってみたが、やはり駄目だった。

 どうやらミウの言葉は普通の人には通じないらしい。

 門番は何事も無いように話を続ける。


「まあ、何もない村だが休んでいけ。食料も多少は融通してやろう。宿なんか無い村だから俺の家に泊めてやる。なあに、坊主は悪い人間には見えんしな。遠慮するな!」


 そう言うと、背中をバシッと叩かれた。


「はっ、はい。ありがとうございます!」


 あまりの馬鹿力に思わずよろめくが、何とか体制を保ちお礼を言う。

 ミウも頭の上から落ちそうになるのをぐっと堪えた様だ。

 髪の毛が引っ張られてちょっと痛い。


「俺の名はダグラス。このバレン村の門番をやっている。よろしくな」


「はい。僕はカナタで、頭の上にいるのがミウです。よろしくお願いします」


 お互いの自己紹介も終わり、村の入り口へと向かう。


「ところで坊主。おそらく街に向かっていたんだろうが、一番近い街まで徒歩だと10日かかるぞ。定期馬車もさっき出たばかりで、次に来るのは7日後だな。まあ、それまでゆっくりしていけ」


「えっ!? 7日後ですか?」


 ――となると、7日間も泊めて貰う事になるのか。

 さすがにそれは悪い。

 その事をダグラスさんに伝えると――、


「坊主みたいな若いもんが、そんなこと気にするな! 家のカミさんもにぎやかな方が喜ぶ!」


 そう返され、再びバシッと背中を叩かれた。

 

 しかし、この世界の人は皆、こんなに力が強いのか?

 どう見ても軽くたたいているとしか思えないのに……。


 その疑問は、ダグラスさんと話していくうちに少し解けた。

 ダグラスさんは今は引退しているが、昔は騎士だったとの事だ。

 全ての騎士の力が強いかは定かではないが、一応は一般人の基準では無かったので少し安心した。


 引退する年には見えなかったので、そこを突っ込んで聞いてみると苦笑いされた。

 どうやら何か理由があったらしいが、初対面なのでさすがにそれ以上突っ込んだ質問をするのはやめておいた。


「さて、先ずは村長のジジイの所に行くぞ。こっちだ、ついてこい」


 この村の村長さんに会わせてくれるようだ。

 7日も滞在するのに、挨拶一つしないのはさすがに不味いよね。

 僕たちは黙ってダグラスさんの後に続いた。



 異世界で初めての人との接触に、緊張はしたがボロが出なくて良かった。

 先ずはこの村で、この世界の常識を学ぼう。

 もちろん、ミウと一緒にね。

 


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