表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/213

第25話 とある別荘での一日

 別荘の朝は早い。

 その中でも一番早起きなのはスラ坊で、皆より一時間以上早くに起床、朝食準備に取り掛かる。

 器用に変形した手のようなもので、使い慣れた包丁を握り、綺麗に野菜を切っていく。

 鍋からは味噌汁の良い匂いが台所を漂う。

 スラ坊はそれが煮立つ前に火を止める。


「さて、これをこうして……と。そろそろカナタさん達を起こさなくては」


 一通りの朝食の準備が終わった所でスラ坊は二階へと上がっていく。

 扉の前に立ち、先ずは奥の部屋の扉からノックする。


「カナタさん、ミウさん! おはようございます、朝ですよ」


 数秒が経ち、部屋の中で人が動く気配がした。


「おはよう、スラ坊。すぐ行くよ」


 ドアの向こうから声がする。

 その声を聞いたスラ坊は、続いて向かいの部屋をノックした。


「ミサキさん! おはようございます、朝ですよ」


 返事が無いので、ドアノブを回し中へと入った。

 何時もの事である。

 

 案の定、未だ布団にくるまったミサキの姿を確認。

 腕?を伸ばし、布団の上から軽く揺り動かす。


「…………おはよう」


 眠そうに目を擦りながら起きるミサキ。


「おはようございます。朝食の準備が出来ましたよ」


「……行く」





 しばらくすると、三人が二階から降りてくる。

 それを確認したところで、ご飯をお茶碗に盛る。


「おお! 今日も美味しそうだね」


 そのセリフに嬉しさで震えるスラ坊。

 自分が作ったものを褒めてもらえる事が何より嬉しい。

 それこそがスラ坊の最近の楽しみである。


 三人が食事を食べている最中、スラ坊は別荘の外に出る。

 行先は馬小屋、ユニ助の元だ。


「うむ、スラ坊か! ご苦労」


「ユニ助さん、おはようございます」


 言い方は偉そうだが、根は悪い馬?では無い事は知っているので、特に口調を気にする事は無い。

 何時もの様にユニ助の分の食事を置いて、馬小屋から離れた。


 自分自身の食事も終わり、食事の片づけの済んだところで庭へと向かう。

 そこには最近カナタが買ってきてくれた苗が植えられていた。


「早く大きく育ってほしいですね」


 植えられているのは、ナナス、キウリ、ミニトメトの苗だ。

 カナタが、昔住んでいた世界で似たようなものがあったという理由で、懐かしさのあまり衝動買いしたものだ。

 毎日水をやるのもスラ坊の日課である。


「おっ、実をつけてきましたね」


 植物の成長を毎日見守る穏やかな日々、今まで考えられなかった生活に、スラ坊は幸せを感じていた。


 続いて向かったのは脱衣所、そこには洗濯機なるものが置いてある。

 使い方を間違えると目が回るほど回転させられた上に、別荘の外に水とともに放り出されてしまうという怖ろしい代物だ。

 だが、カナタ公認の家事マスターとなったスラ坊は、二度とそのような失敗はしない。


 皆の洗濯物を放り込み、蓋をしてからボタンを押す。

 これでしばらくは放っておけば良い。

 スラ坊は脱衣所を後にする。


 

 洗濯物を干し、昼食を済ませた後は、それぞれの部屋の掃除だ。

 ここでは、掃除機なるものを使う。

 これも危険な代物で、失敗すると吸い込まれたうえ、押し込められるかのように閉じ込められてしまう。

 なるべく吸い込み口とは離れる。

 失敗を基にスラ坊が学んだことだ。


 リビングに行くと、カナタ、ミウ、ミサキが集まっていた。


「やった〜! あがり〜」


「くそ〜、ミウは強いなぁ」


「……次こそは」


 カードを手に持ち、何やらゲームをしているようだ。


「あっ、ゴメンねスラ坊。邪魔しちゃってるね」


 スラ坊に気付き、慌ててカナタがその場を退く。


「いえ、こちらこそお楽しみの所をすいません」


 そのスペースに、スラ坊は掃除機をかけていく。


「スラ坊もやろうよ〜」


「すいません、ミウさん。そういうのはあまり得意ではないんですよ」


 残念がるミウに再び謝罪し、他の部屋に移動する。


 風呂も含め、一通り掃除が終わると、今度は夕食の準備。

 皆が食べ終わったところでその片付け。

 その後、取り込んでいた洗濯物を畳み、ほぼ一日が終了する。



 そして翌朝――、


「じゃあ、スラ坊。行ってくるね」


「スラ坊、またね〜」


「……いってきます」


「うむ。行ってくるぞ」


 朝早くにカナタたちは、冒険へと出かける。

 冒険者には常に命の危険が付きまとう。


「せめて別荘にいる間はゆったりとして欲しいですね」


 それが自分に出来る事。

 スラ坊は今日も元気に別荘で働くのだった。 

 



今回はスラ坊メインで書いてみました。

ご意見・ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ