第24話 経験と見た目
夕日が空を茜色に染め始めた頃、ようやく森の出口に辿り着いた。
そこから見える村の入り口には小さな人影が一つ、その人影は次第に僕らに近づいてくる。
お互いが近づくことにより次第に大きくなるその輪郭は、遂にはその人物が誰だか分かるまでに大きくなった。
「カナタくん!!」
その人影の主であるシアラさんが僕の名を呼ぶ。
恐らく僕たちの帰りを門の前で待っていてくれたのだろう。
僕らを見て、どこかほっとした表情だ。
ユニ助から降りて彼女の元へと駆け寄る。
先ずはシアラさんが口を開く。
「お帰りなさい。首尾は?」
「はい、もうワームは出て来ないと思います」
「そう、良かったわ」
シアラさんは安堵の表情を浮かべる。
「早速報告に行きましょう。ジンも待ってるわ」
シアラさんに促され、僕たちは村の中へと入る。
先頭を歩くシアラさんの足取りは軽い。
「カナタ〜。おなか減ったよ~」
小さい手で僕の頭を揺らしながら、ミウが食事の要求をする。
そういえばもう夕食の時間だな。
「ごめんな、ミウ。もうちょっと我慢してくれ。たぶんすぐ終わるから」
「うん、がまんする」
ミウの頭を撫でながらシアラさんの後について行く。
「……私も我慢する」
いや、ミサキさん。
頭を出されても撫でませんよ。
シアラさんを先頭に村長の家の一室に入る。
そこにはジンさんが鎧を着込んだままの姿で座っていた。
「待っていたよ、カナタくん。それで、どうだったね」
質問しつつも、ジンさんは僕の様子から既に結果は分かっている様子だ。
「はい、封印は無事完了しました。ワームはもう出てこない筈です」
ジンさんは無言で頷いた後、後ろを振り向き、そこにいる人物に声をかける。
「――だそうですので、依頼はこれで完了になります。よろしいですね」
苦々しい表情を隠そうともしない村長がこちらを睨んでいる。
「そんな事信じられるか! また出たらどうするつもりだ!」
「万が一の為に、一組のパーティーを一週間ほど滞在延長させましょう。恐らくは何もないと思いますがね」
「くっ! 私の宝を奪っておきながら良くもいけしゃあしゃあと。国に訴えてやるからな!!」
「どうぞ、ご自由に。ただし、その場合はギルドを敵に回すという事。これから先、ギルドの恩恵は受けられないものと思って下さい」
あくまで冷静な対応のジンさん。
「くくくっ。そんなに怒るとまた気絶しちゃうよ」
ペールさんが笑いをこらえながら村長をからかう。
「くそっ! お前ら、覚えていろ!!」
村長は捨て台詞とともに立ち上がると、怒りで肩を震わせながら奥の部屋へと消えて行った。
騒がしい村長が居なくなったところで、ジンさんは改めて僕らの方に振り返る。
「ふむ。これで依頼は完了となる訳だが、ギルドへの完了証明の方は私がまとめてやっておこう。依頼主があの調子ではね。カナタくんたちはそのままギルドで報酬を受け取ってくれたまえ」
「じゃあ、私は他のパーティーに知らせてくるわね」
そう言うと、シアラさんは外に出て行った。
さて、もう流れ解散って事で良いのかな?
僕らが部屋を出て行こうとした所で、再びジンさんから声がかけられた。
「今回は本当に助かったよ。また同じ仕事をする時があったらよろしく頼む」
ジンさんが僕たちに向かって頭を下げる。
「助かったのはこちらも同じです。ジンさん達がいなかったら、宝玉は手に入らなかったと思いますから。また会う事があったら、こちらこそよろしくお願いします」
僕たちも丁寧に頭を下げ、その場を後にする。
「終わったね、カナタ♪」
「ああ、そうだね。今回は自分たちに足りない物が分かったから良い経験だったよ。やっぱり熟練の冒険者の交渉力は違うね」
「……それは仕方がない。経験の差」
――あとは、見た目かな。
子供だと思われて舐められるって事がこれから先もあるだろう。
緑の旅団の人たちみたいな人たちがいてくれれば良いが、そうでない場合は中々厳しい。
「名前を売るしかないか……」
「……そうね、それも一つの手」
現在、冒険者のヒヨっ子である僕らにはまだ先の話だけどね。
今、悩んでも仕方がない。
「帰ろうか」
「うん! ようやくご飯〜♪」
僕たちはユニ助の背に乗り村を出発、人気のない所で別荘へと戻った。
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