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第23話 VS ワーム

「フシャァァァァァッ!!」


 祠の周りの地面から飛び出ているミミズのような怪物。

 埋まっている部分を計算に入れれば、体長は4メートル位だろうか。

 その体の先端には大きい口のみが存在し、自らの体を投げ下ろすかの様にオークたちに迫り、丸呑みしようとしている。


「皆、耐えるんだ! もう少しで儀式が完成する。そうすればこいつらの力は半減するはずだ!」


 周りのオークの指揮を上げる為、大声で鼓舞する一人のオーク。

 おそらく自分にも言い聞かせているのだろう。


 ワームの数は十数匹、対するオークの数は二十人。

 数的には勝ってはいるが、ワームの巨体とそこから繰り出される力を考えるとやはり人数が足りない。


 ある時は上から、またある時は地面の下からのワームの攻撃を受け、次第に劣勢になっていく。


「ぐっ! 不味い。このままでは……」



「どりゃあっ!!」


 その時だった。

 怒声とともに目の前のワームが切り裂かれ地面へと崩れ落ちた。

 

 現れたのはオークの族長であるゴラン、そしてそれに連れ添う二名と一匹であった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 オーク達は劣勢に立たされていた。

 オークの長は巨体に似合わない速度でその戦場へ飛び込んでいく。


「ミサキは遠距離から支援を、ミウはあそこで倒れているオークの治療を頼む。その後はミサキと供に後方支援で」


「……了解」


「まかせといて!」


 ミウが僕の頭から飛び降り、飛び跳ねるようにして戦線離脱しているオークの元へと向かう。

 僕も一匹のワームに狙いをつけ戦闘に参加する。


 どこに目があるのかは分からないが、僕の接近を認識したワームが、そのまま上空から叩きつけるように体当たりをしてきた。


「ぐうっ!!」


 まともに正面から攻撃を喰らうことは逃れたが、それでもその衝撃は凄まじいものがあった。

 ロングソードで受けた体ごと後方に弾き飛ばされる。


 パワーがあるオークが圧倒される訳だ。

 これは正面からまともにいったら危険だな。


 素早く体勢を立て直して、右に回り込むように移動する。

 ワームも飛び出している地面を支点として僕を正面に見据える。


「だあっ!!」


 気合とともに胴体を斬りつける。

 ぷしゅっ! という音と共に緑の体液が飛び散る。

 だが、薄皮よりも多少中に食い込んだ程度で、ワームの傷は浅い。


「フシャァァァッ!!」


 体をくねらせながらの体当たりを避け、再びロングソードを構える。


 相手は強烈な一撃を放つのに対し、こちらの攻撃は大して効いているように思えない。

 このままではジリ貧になる可能性が大きいな。

 どうする……。


 しかし、考える時間を与える暇なくワームの攻撃は続く。


「カナタ!!」


 風の刃がワームを切り裂き、多数の傷を作っていく。

 その攻撃を受け、ワームの巨体が体を大きくくねらせる。

 はるか上にあったワームの頭が、僕の手の届く高さに降りてきた。


「だああっ!!」


 その好機を見逃さず、ロングソードをワームの口に突き刺すように刺した。

 そこから全体重を掛け、剣を振り下ろす。


「フシャァァァッ!!」


 人間で言う下唇の部分を大きく切り裂かれ、ワームがのた打ち回る。

 巻き添えを避ける為、僕はワームからいったん距離を取る。

 どうやら効いているようだ。


「ミウ、もう一回だ!」


「うん!」


 巨体をくねらせ、のた打ち回るワームに対し、再度魔法を放つミウ。

 暴れる巨体に巻き込まれないように注意し、再度口の中に剣を入れ、今度は上にかち上げる。



「フシャァァァァァッ!!」


 これでその口は使えないだろう。

 だが、致命傷というわけではない。


「カナタ! あそこ!!」


 ミウが指をさした所は胴体の中心。


「剣を突き刺して、カナタ!」


 僕はミウに言われるままに、その部分に剣を突き刺す。

 するとワームは異常に苦しみだし痙攣、その後、全く動かなくなった。

 どうやらここが弱点だったようだ。


「良く分かったね、ミウ」


「うん、体をくねらせている時、そこだけ他と動きが違ったの」


 僕は駆け寄ってきたミウを抱き寄せ、その頭を撫でる。

 ミウは目を瞑り気持ちよさそうだ。


 さて、他の戦況は……。

 自分の戦闘で手一杯だった為、周りの状況を確認する。

 全体の戦況は未だ不利だが、ミサキが後方支援で頑張ってくれているようだ。

 オークの長もワーム相手に有利に戦っている。


「よし、ミウはあそこで倒れているオークを治療してくれ」


 端の方には戦線離脱したオークが二人、その手前ではオークの長が庇うようにワームの相手をしていた。


「うん! ミウもすぐ行くね」


 僕らが再び参戦しようとしたその時、祠から眩いばかりの七色の光があふれる。

 そして、僕らの後方にあったはずの祠が突如として消失する。


「えっ!? …………そうか、成功したのか」


 一瞬、何だか良く分からなかったが、オークの長の言葉を思いだした僕は合点がいった。

 例の祠の隠蔽機能が発動したという事だろう。


「ミウ、予定通りいくよ!」


「うん!!」


 僕らはオークたちの支援をすべく、戦場へ飛び込んでいった。


 

 その後は拍子抜けするほどあっけなかった。

 親玉の封印により力が半減したワームはオークたちの敵ではなかった。

 また、ミウの治療により、戦線離脱していたオークたちも再び戦闘に参戦。

 数の上でも有利にはたらき、こうなれば負ける道理は無かった。

 



「我らの勝利だ!!」


「「「おおおおっ!!!」」」


 地鳴りのような雄叫びがオークたちから発せられる。

 僕たちは地面に座りそれを眺めていた。


 しばらくして、オークたちがこちらにやってくる。

 その先頭は、戦場で無類のパワーを発揮していたオークの長だ。


「人間よ、お前らのお蔭で助かった。礼を言わせてもらう」


「まあ、こちらも被害に遭っていたのでお互い様ということで……」


 そもそも村が被害がきっかけで参戦した。

 助かったのはお互い様だ。


「いや、元々封印の守護は我らの役目、その責任は我らにある。さらに先ほどの戦闘でも仲間を治療してくれたという。是非礼がしたい」


 困ったな……。

 いきなり礼と言われても何も思いつかない。

 僕はミウとミサキに目線を配る。

 しかし、ミウ、ミサキは首を横に振った。

 はいはい、僕に一任ってことね。


「う〜ん。じゃあ貸しって事で。いつか何かあった時に協力してくれればいいよ」


「……わかった。族長であるゴランの名のもとに約束しよう。お前たち、それでいいな!」


「「「おう!!」」」


「そういえば名前を聞いていなかったな。儂の名はゴランだ。今回は世話になった」


 ゴランは右手を差し出した。


「僕の名はカナタ。こっちがミウでミサキだ。こちらこそありがとう」


 僕も右手を出して握手をする。

 オークの手はかなり大きかった。


「では、我らはこれで。カナタよ、また会おう」


「ああ、また」


 オークたちは森の奥へと戻っていった。




 オークたちが見えなくなるまで見送ってから、僕は二人に話しかけた。


「さて、村に戻って報告しなくちゃね」


「……ええ、そうしましょう」


 ん!? 何か忘れている気がする。

 気のせいか……。

 

「ねえ、カナタ。ユニ助は?」


 そうだ! ユニ助だ!!

 そのまま祠の前で待機してもらっていたはずだけど……。

 まさかワームにやられちゃった何て事は無いよね。


 その時、奥の茂みからガサッという音がする。

 僕たちは音がした茂みに向かい、臨戦態勢を取る。


「ま、まて! カナタ! 我だ!!」


 ユニ助が茂みから姿を現す。

 どうやら無事だったようだ。

 

「よかった。無事だったんだな、ユニ助」


 しかし、ユニ助の顔は不満たっぷりだ。


「酷いではないか! あんな所に置き去りにして。あんな化け物どもが大量に出てくるなど聞いていないぞ! 封印したら無事解決って話では無かったのか!!」


「えっと……。まあ、何事もイレギュラーはつきものということで……」


「危うく喰われそうになったのだぞ!! ユニコーンの末裔たる高貴な我がワームの餌になるなど……。ご先祖様にあの世で言い訳できぬわ!!」


 その後、ユニ助の愚痴はひたすら続き、ユニ助の小屋のさらなる改造を請け負うということで何とか話がついた。

 今回はユニ助も活躍したことだし、まあそれくらい良いかなと思っている。


 僕たちは機嫌を持ち直したユニ助に乗り、今度はゆっくりとした速度で村へと戻っていった。





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