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第20話 森の中では……

 陽の光が地平線をうっすらと照らし始めた早朝。

 見張りの冒険者の目を掻い潜り、森へと侵入する。


「上手くいったね♪」


「ああ、ここまではね」


 獣道らしきものを見つけたので、先ずはそれを辿りながら奥へと歩を進める。

 森の中は静寂に包まれ、それがかえって不気味な雰囲気を醸し出す。

 普通は鳥の鳴き声くらい聞こえてきそうなものなんだが……。

 鳥は災害などに敏感だという話を昔テレビで見た事がある。

 鳥がいないということは、やはり森に何かがあるのではないだろうか。


 見上げるくらい高い針葉樹が立ち並ぶその間を縫うようにして、さらに森の奥へと進む。

 すると、目の前で獣道がY字路のように二股に分かれていた。

 

「さて、どっちにする?」


 もちろん二手に分かれるという選択肢が無い以上、どちらかを選ばなくてはならない。


「……ミウ、どっちが良い?」


 ミサキがミウに判断を委ねる。


「う〜ん、左!」


 僕たちはミウの感を信じて左に進むことにした。






「……カナタ、見て」


 ミサキが地面の一部を指さす。

 そこには何かの跡があるようだが……。


「……足跡、二本脚だから恐らく獣ではない」


「ひょっとしたら目撃されたオークかもしれないね。辿って行こう!」


 足跡は獣道を逸れ、さらに森の奥へと進んでいた。

 草をかき分けながらその足跡を辿る。


 既に日は十分な高さまで登っていた。

 この世界の時間は元の世界と同じだということは知識として得ている。

 もう昼に差し掛かるくらいの時間だということだ。


「ミサキ、少し休もうか?」


 女神様が与えてくれた僕の体は、前の世界に比べ体力は倍以上備わっている。

 ミウは僕の頭の上、たぶん疲れはあまり無い。

 でも、ミサキは魔法職、普通に考えれば体力は無い筈。


「……ありがとう、カナタ。……愛に目覚めた?」


「冗談は良いから休憩しよう。あそこの木の上が良い」


 ちょうど横倒しになっている木を見つけ、座るように促す。

 端にちょこんと座ったミサキに水を手渡す。

 ミウも僕の頭から飛び下りて水を受け取ると、小さい手でボトルを掴みつつ器用に水を飲む。

 

「ちょうどお昼時だからご飯も食べよう。腹が減って力が出ないと困るしね」


 スラ坊特製のおにぎりを取り出し二人に手渡す。

 僕も自分の分を一口。

 うん、美味い!

 しかも巾着袋のお蔭で保存が効いているからホカホカだ。

 美味しい食事で気力満タン、もう何でも来いだね。



 再び足跡を辿っていた僕たち、その前に現れたのは白い建物だった。

 しっかりとした石畳の土台の上に建つ石造りの三角屋根の建物は、おおよそ自然あふれる森には似つかわしくない。

 建物の正面には重厚そうな扉がついている。

 その扉に向かい歩みだしたその時――、


「どりゃあ!」


「うわっ!!」


 建物の影から飛び出した何者かが僕に襲い掛かってきた。

 間一髪でその剣を躱し、襲撃者を正面に見据える。


「この盗人野郎が! とっとと盗んだものを出しやがれ!」


 襲撃者が僕たちに向かって声を荒げる。

 さらに、襲撃者の仲間らしき集団が、森の奥からぞろぞろと姿を現す。


「盗人? 僕は何も盗んでない!」


「嘘をつけ! 人間が盗んでいったのを仲間が目撃しているんだ!」


 そう、彼らは人間ではない。

 この世界ではオークと呼ばれている存在だ。


「人間って、僕を見たわけではないんだろう!」


「ここに戻ってきたのが何よりの証拠だ!」


 オークは再び剣を振りかざす。


「ミウたちは何も取ってないよ!」


 ミウも僕の頭の上で無実を叫ぶ。


「何だ、お前は! 人間の仲間か? ん!? ……おい! 人間のお前、儂の言葉が分かるのか?」


 今までやり取りをしていて何を今さら。


「ああ。とりあえずどういう事か話を聞きたい。剣を下ろしてもらえないか?」


 オークはしばらく考えてから一言、


「ふん、良いだろう。だが、我らを騙そうとしても無駄だぞ!」


 オークたちは構えを解く。

 だが、油断は出来ない状況だ。

 何かあれば、またオークたちは襲い掛かってくるだろう。


 ピリピリとした雰囲気の中、目の前のオークは語りだす。


「この祠にはある魔物が封じてある。はるか大昔、人間と我らが共存していた時代、人間と我らの先祖は協力して、多大な犠牲を払いつつも何とか奴を封じ込めた。だが、先日この祠の力の源である宝玉がお前ら人間によって盗み出されてな。今その封印が解けようとしている」


「まだ復活はしていないのか?」


「ああ。長く封じ込められていた為に、恐らく活動するエネルギーが無いのだろう。ワームが暴れているのをお前は見たか? ワームは奴の眷属。ワームが蓄えたエネルギーを吸収することによって奴は力を溜める。我らも急襲を受け何人かやられた。奴の復活は時間の問題だ」


「それって、どんな魔物が封じられているんだ?」


「わからん。多数の触手を持った魔物というくらいしか言い伝えられておらん」


「復活は阻止できないのか?」


「方法は二つだけ。再び宝玉で封印するか。もしくは、まだ本調子ではない内に奴を倒すかだ。ただし、後者は犠牲は覚悟しなければならんがな」


「宝玉は人間に奪われたことは確かなんだな?」


「ああ、それは間違いない」


 この森に入るのは、殆どがペタの村の人の筈。

 そうなると、僕たちに出来る事は……。


「ミウ、ミサキ。村に戻ろう!」


 二人は黙って頷く。


「少し時間が欲しい。貴方が言っている宝玉を探し出したい」


「「人間が信用できるか!」」


 後ろに控えているオークの集団から怒声が上がる。

 それを僕の目の前にいるオークが片手で制した。


「いいだろう。信用したわけではないが、方法が限られている以上、手札は多いに越した事は無い。だが、復活まで時間が無い。急げよ」


「ああ、ありがとう」


 聞けば、宝玉は黄金色の球体とのことだ。

 僕たちはオークに頭を下げ、来た道を戻っていった。




 オークが十分見えなくなってから、僕は別荘行きの鍵を使う。


「ユニ助!!」


「何だ! カナタか? どうした、息を切らして」


「いいから来てくれ!」


 ユニ助を連れて、再び元の場所に戻る。


「森の中だけど、村まで走れるか?」


「ふん。我を誰だと思っている」


「じゃあ、頼む」


 皆でユニ助の背に乗り、しっかりとしがみつく。


「行くぞ! しっかり掴ってろよ!」


 ユニ助は凄まじいスピードで森を飛ぶように駆けて行った。






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