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第200話 僕たちに試練はいらない

大変長らくお待たせいたしましたm(__)m

 どれくらいの時間が経過しただろうか?

 馬車の周囲の視界が晴れたとはいえ、その範囲外はただただ真っ白、景色とは言えない景色の中を馬車は進んでいる。

 このような状態では馬車の速度など出せる筈も無く、そのゆったりとした足取りはそのまま馬車内部の時間経過まで遅くなったかのような錯覚を覚える。

 うちの年少組の退屈度は既にMAXなようで、瞑っていた目を開けては窓の外を確認、代わり映えの無い景色につまらなそうにしている。


「もうそろそろ中間地点に着くはずですよ」


 ミレニアーナさんも流石にそれに気がついたのだろう、現状をフォローするようにミウたちにそう話しかけていた。

 確か中間地点に馬車を置いて、そこから歩いて頂上を目指すって予定だったか。

 僕も流石にこの状態は暇を持て余している、そろそろ着くなら何よりだ。


 それから数十分後、馬車は予定通り中間地点に辿り着いた。

 そこに建てられていたのは木造の小屋、その横には馬を休ませる厩舎も備わっている。

 馬車がゆっくりと停車、僕たちは久々に地上に降り立ち、大きく伸びをする。

 辺りは少々薄暗くなっており、ここから先に進むのは明日の予定とのこと。

 どうやらここまでは予定通りのようだ。


 小屋に中は霊峰の登頂者が休むだけあって、外見よりもしっかりとした作りをしていた。

 部屋数は2部屋、当然男女に分かれて休むことになる。

 食事は携帯してきたもので済ませ、皆早めに床に就く。

 見張りは騎士の人達の交代。

 馬車の中で揺られていただけの僕たちも加わってもよかったのだが、彼らの使命感ありありの態度を見て、妙な軋轢を生じさせるのも何だと思いそのまま休ませて貰うことにした。



 そして何事も無く翌朝、僕たちは小屋で待機となる御者に見送られて徒歩で山頂を目指すのだが――。


「さあ、参りましょう!」


 変わり果てた聖女様の姿。

 長い髪はポニーテールで結び、上半身は長袖のポロシャツ、下半身はジーンズのようなものを履き、オーラこそあるもののその恰好は少し裕福な町娘のようだ。


「あら、山登りを仰々しい恰好ですると思いましたか?」


「まあ、そうですよね」


 そうは答えたものの、これは霊峰登頂という教会の一大イベントらしきものだった筈、一体これで良いのだろうか?


「いいんじゃない。そもそもそんなこと気にしないと思うし」


「……お菓子さえ持っていけば問題なし」


 ミサキの言い分が何気に酷いが、全否定は出来ないところが辛い。


 そして僕たちは再び山を登り始める。

 周囲には魔物の気配も無く、今のところ順調な足取りだ。


「大丈夫ですよ、カナタさん。魔物なんて出ませんから」


「えっ!? そうなんですか?」


 ミレニアーナさんの言葉に驚き、僕は聞き返す。


「ええ。ここまで来れば後は試練を残すのみです」


「試練って何をやるのです〜?」


 ポンポが会話に割り込み、質問する。


「わかりません。毎回登頂者に合わせてギリギリ乗り越えられるであろう試練が課せられますので、こればかりは進んでみないと。ちなみに前回登頂を成功させた司祭の時は、全体がパズルのような迷路だったそうです。要所要所で謎を解き、扉を開けていく仕組みだったとか」


「大丈夫です! どんな試練でも聖女様でしたら無事に達成できるでしょう! それに我々もついています」


「グローデン、ありがとう。言われるまでも無く、どんな試練でも乗り越えるつもりです」


 ミレニアーナさんが毅然とした態度で答えた。


「謎解きかー。面白そうだね」


「……任せて」


「ああ、頼りにしてるよ」






 ――と、そんな言葉を交わしたのがほんの数時間前だったなぁ……。

 思わず心の中で現実逃避した僕の上から落下する飛来物。

 それを避けつつ、正面に見える巨体にファイアボールを放つ。

 だが、それは相手の顔面を捉えるも何事も無かったかのように霧散した。

 

「まさか……こんな……」


 後方でミレニアーナさんが呟く。

 騎士たち3人はそんな彼女を守ることで精一杯だ。


「ねえ、これってギリギリ乗り越えられるんだよね?」


 一旦後方に下がった僕にミウが質問する。


「ああ、そう言ってたけど……、流石にこれはやり過ぎじゃないかな」


 しかし、目の前にいる巨大亀は容赦なく僕たちを責め立てた。

 甲羅の中心にある噴火口のような場所から岩をまき散らしながら首を伸ばし、大きな口で僕たちを喰らわんとする。

 ポンポが前に出てその鼻先を斬りつける。

 殆ど傷はつかなかったが、巨大亀はそれを嫌がるように首を左右に振った。

 頭1つとっても僕よりも大きい巨体がするその動作は、それだけで大きな攻撃となるのが厄介だ。

 僕たちは全員が後方に飛び退いてそれを躱す。


「ミサキ、あれの情報は?」


「……知らない」


 ミサキも知らないとなると、この為だけに創造された生物って可能性もあるのか?

 そんな事を考えつつ、僕はチラリと後方を確認する。

 ミレニアーナさんが祈るような表情と仕草でこちらを見ている。


「ねえ、これじゃあミウたちの試練じゃないのかな?」


 もっともだ。

 何処で取りちがったのやら、帰ったら文句の1つくらい言ってもバチは当たらない筈だ。


「えいっ、なの!」


 アリアの放った矢が巨大亀の目を狙う。

 しかし巨大亀は瞼を閉じてそれを回避、矢が全て弾かれる。


「しかし堅い外皮だな」


「……弱い魔法は通らない。……お願い」


「わかった。ポンポ、行くぞ!」


「任せるです〜!」


 ギリギリの試練ならどこかにクリアできるヒントがある筈。

 僕とポンポは牽制の為、再び巨体に向かって行くのであった。



最後まで読んで頂きありがとうございます。

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