第199話 祈りよ届け
お待たせいたしましたm(__)m
グローデンさんが倒れて居る襲撃者の1人を検分する。
そして一言――。
「間違いありません、キラードラックです」
「……やはりそうでしたか。出来れば間違いであって欲しかったのですが――」
ミレニアーナさんは地に伏した彼らに悲しそうな目を向ける。
「……手遅れ、……もう助からない」
ミサキが小声で僕に今の現状を教えてくれる。
「ミサキ。何か知ってるのかい?」
僕の問いにミサキが軽く頷く。
「……ある組織が好んで使う薬物。……人間の潜在能力を引き出し痛覚を奪い、その代償として使用者の命を奪う」
「そうか……。それでその組織って?」
「神の柩だよ。邪神を信仰し、各国にその根を蔓延らせるダニみたいな連中さ」
ミサキの代わりに答えたのはエンドリーさん。
顔にはその組織への嫌悪感がありありと浮かび上がっていた。
「我らの襲撃にこれが使われたとなると、ロッテ卿かベルティーニ大司祭、どちらかに奴らが食い込んでいることに――」
「グローデン、その件はいずれ戻ってから。先ずは霊峰を登頂して女神様のご信託を受けることが優先です」
「はっ!」
そしてミレニアーナさんは僕らに顔を向ける。
「さあ、この場に長居しても良いことなどありません。先を急ぎましょう」
襲撃者たちの遺体を一所に集め、火をつけて燃やす。
そのまま放置したらアンデットになりかねない、その為の処置だ。
そして僕らは馬車に乗り再び霊峰を目指す。
その後の道中は平和とはいかないものの、襲ってくるのはゴブリンのような小物のみ。
3人の騎士たちが名誉挽回とばかりに戦闘を買って出ていたので、僕らは馬車の中で割とゆったりとした時を過ごしていた。
「ねえ、まだ着かないの?」
ミウはかなり退屈なようで、座席で足をぶらぶらさせながら問いかけてきた。
その正面では、ポンポがミウとリズムを合わせるようように足をぷらぷらとさせている。
こちらは何となく楽しそうだ。
「うーん、どうなんだろう? 暫く危険は無さそうだし、何なら寝てても良いよ」
「……そう。……じゃあ遠慮なく」
僕の言葉に反応したのは何故かミサキ。
そして、そのまま僕の膝を枕にして横になる。
「あっ! ミサキずるい!」
「……早い者勝ち」
勝ち誇った顔のミサキを僕の膝から引きはがそうとするミウ。
ここはいつもの馬車の中では無いのだが……。
ミレニアーナさんが何やら微笑ましいといった表情でこちらを見ているのは勘弁してほしい。
「仲がよろしいのですね」
彼女のセリフに対して僕は苦笑いしか出来なかった。
「それと、霊峰にはもう少しで着くと思いますわ。そこからが本番なのでよろしくお願いします」
その言葉通り、遠方にそれらしき山が見えてきたようだ。
もっとも両膝をミウとミサキに占領された僕に見る術は無いのだが……。
漸く2人から解放された時には、既に馬車は山道を登り始めていた。
遠目から霊峰とやらの全景を見たかったという残念な気持ちを少々抱きながら、僕は馬車の窓から外を確認、周囲を警戒する。
しかし、外では数メートル先も見えないような深い霧が発生している為、かなり視界が悪い。
予定では中腹くらいまでは馬車で登るとのことだったが、大丈夫なのだろうか。
兎に角、魔物への警戒は充分に必要だ。
今通っている山道はおよそ馬車1台半程の幅があり、その両脇には草木が生い茂っている。
道は当然舗装されていない砂利道、ガタゴトと馬車に伝わる振動が激しい。
とはいえ、聖女様の乗る馬車は一般的なそれよりも造りは良く、座席のクッションなどによりお尻が痛くなるというほどでは無い。
「うーん。乗り心地はイマイチだね」
「ミウ、しっ!」
幸いにもミウの呟きは馬車の振動音でかき消されたようだ。
ミウは些か不満なようだが、ウチの馬車と比べるのはどうかと思う。
だってあれはユニ助の意見というか我儘により、スラ坊が色々と魔改造を施してあるのだから。
まあ、こちらも乗り心地が良い方がいいので黙って見守っていた節はあるのだけどね。
外を見ると、霧が更に深く濃くなってきた。
というか、目の前の道でさえ見えるか見えないかという状況だ。
流石にこれは不味いのではないか。
そうミレニアーナさんに伝えようとしたのだが――。
「心配には及びません」
こちらの心を先読みしたかのように彼女が口を開く。
更に、彼女の指示により馬車が一旦停車する。
「全知全能なる女神様。貴方様の場所へと我らをお導き下さい」
ミレニアーナさんが両目を瞑り、手を合わせて祈り始める。
彼女が呟き終えた瞬間、その身体から力のようなものが溢れ出す。
はっきり目に見えた訳ではないが、僕にはそう感じた。
「おおっ! 凄いです〜!」
「晴れてくの」
ポンポやアリアの言葉に釣られ、僕も窓から外を見る。
すると、あれほど深かった霧が波が引くようにみるみる晴れていく。
いや、晴れたのは馬車の周辺数メートルのみで、そこから先はまだ霧に覆われたままのようだ。
何となくレトロゲームの明かりの呪文を思い出すのだが。
そして、目を開けたミレニアーナさんが大きく息を吐く。
「さあ、先に進みましょう」
御者が再び馬車を動かし始める。
予想通りというか、霧の無い空間もそれに沿って移動していくようだ。
「便利な呪文だね、ミウも出来るかな」
「……やってみる?」
ミウとミサキがこそこそと話し合っていたが、僕が2人を止めたのは言うまでもない。
この現象が女神様の力のお蔭だったら、恐らく同じことが出来てしまう可能性が高い。
いや、同じなら兎も角、その効果が万一聖女様を上回ったりしたら……。
道中ずっと尋問されるなんて御免被りたいからね。
最後まで読んで頂きありがとうございます。




