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第19話 いざ、森へ

 ペタの村に着いた頃にはもう日が暮れていた。

 既に村の中には何組かの冒険者らしき人が見うけられる。


 前回と違い門番の姿は無かったので、そのまま村に入った。

 そこで目についたのは地面に無数に空いている穴。

 直径1メートルはあるだろうか。

 恐らくはワームの通り道。

 つまりそれだけ巨大な魔物って事だ。


 確か怪我人が出ていると言っていたが……。

 僕は馬車を降りて、近くにいた冒険者らしい集団に聞いてみた。


「すいません。ギルドの依頼で怪我人の治療に来たんですが、怪我人はいますか?」


「怪我人なら村長の家に集められている。中心にあるり大きな家だ」


 鉄のプレートを着込んだ中年冒険者が教えてくれた。

 村長の家か……。

 行きたくないけど仕方がない。


 例によって使用人に案内され村長の家の中に入る。

 そこには多くの人が所狭しと横たわっていた。

 腕を怪我している人、足が血まみれになっている人など様々だ。

 そして、その村人たちを熱心に治療している女性が一名。

 きれいな金髪を後ろで纏め、回復魔法で手際よく村人たちの傷を治していく。

 僕はタイミングを見計らい、その女性に声をかけた。


「僕も手伝います。回復魔法なら使えますので」


「助かるわ。あっちにいる人達がまだ治療が終わっていないの。お願いできるかしら」


「ええ、もちろん」


 僕は早速、村人の治療に加わる。

 ミウもミサキに抱きかかえられながら治療に参加した。

 ミサキが治療しているように見せる為のカモフラージュである。




「ふぅ……」


 村長宅に横たわっていた人たちの他にも、治療を聞きつけ後から次々と村人たちが運び込まれる。

 その全ての人の応急処置が終わり、ようやく僕たちは一息入れる。

 思っていた以上に怪我人の人数が多く、かなりきつかった。


「……お疲れさま、カナタ、ミウ」


 ミサキは回復魔法を使えないので今回は出番なしだ。

 ぐったりとしている僕とミウを労う。


「ありがとう、おかげで助かったわ。私一人じゃどうにも出来なかったから」


 先程のお姉さんが水を持ってきてくれた。

 僕はそれを一気に飲み干す。


「自己紹介がまだだったわね。私はシアラ。Cランクパーティー、緑の旅団のメンバーよ。よろしくね」

 

 優しい笑顔で握手を求められた。

 しかし、この世界は美人が多いな。


「…………」


「僕はカナタです。名前はまだないですがGランクのパーティーを組んでいます。よろしくお願いします」


 お互いに握手を交わす。


「そちらの女の子もパーティーメンバーなのかしら? よろしくね」


 シアラさんはミサキに笑顔で語りかける。


「……よろしく」


 一言で終わりかい!

 思わずツッコミそうになった。

 しかし、何が気に入らなかったのか、会話はそれで終了らしい。


「あの、彼女はミサキです。少々無口なところがありまして……」


 そのままでは今後気まずいのでフォローをしておく。


「平気よ、気にしてないわ。じゃあ私はメンバーの元に戻るわね。また後で」


 そう言い残すと、シアラさんは家を出て行った。




「……私達も行きましょう」


「そうだね」


 幸い、治癒魔法を施した人たちについては、動ける村の人達が経過を見てくれている。

 新たな怪我人がいない今、僕たちがここで出来る事は少ない。


「ミウ、大丈夫かい?」


「う〜ん。ちょっと疲れた」


 やはり、治癒魔法の連発はミウには応えた様だ。


「じゃあ、これでどう?」


 まだへばっているミウを抱え上げ、そのまま抱っこする。


「うん、いい感じ♪」


 ミウが少し元気の出たところで、僕たちは村長宅を後にした。






※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 村の片隅に、しかめっ面で一人佇む男がいる。

 重量級の鎧を身に着け、腰には真っ赤な斧。

 見る人が見れば一目で誰だか分かる出で立ちだ。


 男は、村に出来た穴を眺めて思案に暮れていた。

 時折、短く切り込まれた緑色の髪をくしゃくしゃにする。


「何か思いついたかい?」


 佇む男に話しかける仲間らしき少年、いや、背は小さいが歴とした成人のようだ。

 尖った耳をしていることからヒューマンではない事が窺える。


「……ペールか。いや、お手上げに近い。ただ倒すだけなら何とかなるかもしれないが、村人を守りながらとなるとある意味防衛戦だからね。一言で言うと人数が足りない。村人がすべて街にでも避難してくれれば何とかなるのだが……」


「ああ、あの村長かい。典型的な駄目首長だね。村人の命より村と権力が大事だってんだから」


「彼だけ残るならば問題は無いんだがな。村の人も村に愛着があるから出来れば離れたくないって思いがある。結果、村長の意見が通り、ほとんど誰も村を離れないって状況が出来上がる。……全く、頭が痛いよ」


「いつ死人が出てもおかしくないってのに、呑気なことで……。命があればいくらでもやり直せるってのによ」


「まあそう言うな。今更言ってもどうにもならんさ」


 男はため息交じりの言葉を口にする。


「穴から出てくるのを待つしかない、何匹いるかもわからない、大人数を守らなければならない。諦めて逃げ出すかい、ジン」


「ふっ。分かってて言っているだろう、ペール。無論、戦うさ」


「そうこなくちゃ!」




「ジン!」


 村の中心部から駆けてきた金髪女性がジンを呼ぶ。


「シアラ。手当は終わったのかい?」


「ええ。ギルドが治癒士のパーティーを寄越してくれたわ。お蔭で治療は完了よ。ただ、治癒魔法も万能じゃないから、少なくとも2〜3日の安静が必要ね」


「そうか……。まあ、応援が来たのは良い知らせだな」


「ええ。そちらはどう? 何か作戦は?」


「いいや、さっぱりだ」


「そう……。あら? あの子たちは」


 シアラの目線の先には先程の治癒士のパーティーが。

 そう、カナタ達である。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 シアラさん達のパーティー、緑の旅団の話を聞き状況を確認。

 地中深くにいるワームは、出てこない限り手が出せないらしい。


 ただ待つだけか……。

 だが、僕には少し気になることがあった。


「ミサキ、始めに目撃された魔物はワームじゃなくてオークだって言ってたよね」


「……ええ」


「僕はやはり森を調べた方が良いと思うんだ。ワームの大発生についても何か分かるかもしれない。オークだって何かを察知して逃げてきたんじゃないかな」


「森に行くんだね、カナタ!」


 ミウもだいぶ元気が出てきたようだ。


「他のパーティーは防衛で動けない今、動けるパーティーは僕たちしかいない。僕たちは防衛要員じゃないからね。駄目元で調べてみる価値はあると思うんだけど、どう思う?」


「……行きましょう。森へ」


 ミサキが提案に同意してくれた。 

 だが、もう夜中。

 この時間に真っ暗な森に入るのは避けたい。

 ミウもかなり魔力を消耗している。


「出発は明け方、止められる可能性が高いから、他のパーティーには見つからないように出るよ。それで良い?」


 二人は頷く。

 そうと決まればまずは回復だ。

 僕たちはゆっくりと休む為、こっそりと村を出て別荘へと戻った。

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