第195話 厄介事?
かなり間が空いてしまいましたが、続きを投稿いたしますm(__)m
「上手くいっているみたいだね」
「うん、そうだね」
そう呟いた僕たちの目には、まずまずの客の入りの店舗が映っている。
長蛇の列には程遠いが、冒険者たちがちらほらと来店している。
手に取り、または実際に使用して、ここの武器が高品質だと彼らに知れれば、それがまた次の売り上げに繋がるだろう。
更にはメンテも行っているので、一度購入してくれれば頻繁に足を運ぶことにもなる筈。
そう、全てはここからがスタートなのだ。
「まあ、細かい嫌がらせはあるけど、予想していた範疇を越えてないわね」
横にいたヒミコが答える。
何でも、「ここの店の武器は粗悪品だ」とか、「職人の腕は三流以下」とか、中には「呪われた武器を販売している」なんて噂も流れたらしい。
だが、それでもそれはあくまで噂。
実際に目で見て判断する冒険者たちも中にはいる。
そうした冒険者たちの口コミにより、今現在は客足が少しづつ伸びているところなのだという。
「……噂だけを信じるようでは冒険者失格」
ミサキの言う通り、彼らが情報収集するにあたって噂は大事だが、危険が無い限り自分の目で確かめる事も必要。
特に今回の噂は、どこそこに怪物が出たなどといった危険を伴う噂では無いのだから。
「それ位しか出来ないのでしょうね。何せ彼らの力の一部はもう機能してないのですから」
ミルウォーク商会の力押しの源であった連中は一夜にしてヒミコたちに潰されている。
あちらもまさかこちらが急襲してくるとは思わなかったのであろう、ほぼこちらの被害は無し。
上手くいき過ぎて怖い位だ。
「これなら、暫く任せてしまって大丈夫かな」
「ええ。もう他に打つ手と言ったら……」
ヒミコが途中で言葉を止めた。
何事かの喧騒がこちらに近づいてくる。
何だか良い予感がしないが、程無くしてその騒ぎの元が現われた。
シルバーのプレートメイルで武装した、いかにもな騎士の集団だ。
そして、彼らは店の前で立ち止まり、そのうちの1人が声を張り上げた。
「この店に不正の疑いがあるとの情報が入った。よって、ブラント様の命により取り調べを行う。尚、調査の結果が出るまでは営業は停止してもらう」
一方的な主張を捲し立てた騎士は、店の客を追い出しつつ、ずけずけと店の中に入っていく。
「あのー、何の不正でしょうか? 私どもには身に覚えが無いのですが?」
「不正は不正だ! これから色々調べるので、お前たちは無駄な抵抗などするな!」
たまらず職人の1人が声をかけるが、取りつく島も無い。
そんな男の主張とはうらはらに、店の中に散らばった騎士たちは何を調べるでもなく武器を物色し始めた。
「これとこれ、どっちが良いと思う?」
「どちらも貰っておけば良いだろう?」
「それもそうか」
やっていることは強盗団と何ら変わらず、取り調べが聞いてあきれる行動だ。
「どうするの?」という皆の視線が僕に集中する。
もちろん、こんな事が許される訳がない。
僕は前に進み出て、連中の頭らしき男に話しかけた。
「貴方が代表者でいいのか? どう見ても調査しているようには見えないんだが、商品を盗った分の料金は払ってもらうぞ」
腹が立っているせいか、いつもより口調が乱暴になったが、こんな連中にはこれで良いだろう。
「ん!? 何だお前? ここの責任者か?」
騎士が値踏みするような視線を僕に向ける。
「ああ、そうだ」
すると、男が獲物を目にした時のような嫌らしい笑みを浮かべる。
「そうか、貴様がか。おい、お前ら! こいつを捕えろ!」
掛け声に合わせて数人の騎士が僕を拘束せんと駆け寄ってくる。
そんな彼らの前に立ちはだかるのはミウたちだ。
いや、ポンポ以外皆後衛だよね?
しかし、僕の心配をよそに、騎士たちはこちらを警戒して歩みを止めた。
何よりもミサキのスタッフから溢れ出る魔力に当てられているようだ。
「何だ! 何の騒ぎだ!」
騒ぎを聞きつけた警備兵が駆け寄り、僕と騎士の間に割って入る。
そんな彼に、騎士は悪びれることなく都合の良い言葉を並び立てる。
「おお、丁度良かった。実はこの店に不正有りとの情報が我が主、ブラント伯爵の元に入ってな。街の秩序を憂いた我が主人の命により調べようとしたところ、後ろ暗いところがあるのか抵抗されたのだよ。是非君らの力を貸してくれたまえ」
「嘘ばっかり! 調査なんて名目で、店の武器を大量に盗もうとしたじゃないか!」
「それこそ何を言いがかりを! さあ、街の治安を守る警備兵諸君、かたや栄光あるブラント伯爵の騎士団、かたや何処の馬の骨ともわからぬ人間、君らならどちらを信じるかね?」
「そ、それは……」
不味いな、警備兵が押されそうだ。
ここはどうしたものか。
「何があったのですか?」
そんな時、聞いたことのある澄んだ声が僕らの耳に届く。
純白のフードに顔を隠しているが、間違いない、あの人だ。
「ば、馬鹿な! 何でこんな場所に!?」
騎士の顔が驚愕に染まる。
それもその筈、彼女はこの国で聖女としてあがめられている人間なのだから。
彼女がフードを外すと、遠巻きに見ていた野次馬たちもざわつきだした。
だが、その時には既にお付きの騎士たちが彼女を守らんと、しっかりとしたフォーメーションで目を光らせている。
恐らく彼女のスタンドプレーには慣れたものなのだろう。
「これはこれは聖女様、ご機嫌麗しゅうございます。私はブラント伯爵の施設騎士団団長、ルテニアと申します。なに、不正を働いている輩を発見いたしましたのでこちらで処理しようとしただけの事でございます。態々聖女様のお手を煩わせるような事ではございません」
先程の態度とは打って変わって、ルテニアとやらが恭しく彼女に一礼する。
それに対し、彼女は特に笑顔を見せることなく彼に質問した。
「そうですか。それで、しっかりとした証拠はあるのでしょうね?」
「それは――」
「彼はこう見えても他国の領主。しっかりとした証拠も無く捕えたとあっては外交問題になりますよ。それこそ、貴方の主の地位が揺らぐ位の……ね」
「何と!? 本当でございますか!?」
「ええ。それを踏まえた上でもう一度聞きます。証拠はあるのですね?」
仲間の騎士の1人が駆け寄り、ルテニアに何やら耳打ちをしている。
「…………どうやらこちらの思い違いがあったようです。大変失礼をいたしました」
「では、もう良いのですね?」
「はっ! では、私どもは失礼させて頂きます。おい、引き上げだ!」
ブラント伯爵の騎士団は、集まった野次馬を掻き分けるようにそそくさと去っていった。
そして残されたのは僕らはというと……。
「お話がありますの。宜しいかしら?」
ミレニアーナさんが僕ににっこりとほほ笑む
何やら厄介事が終わった途端に別の厄介事が舞い込んできた予感。
でも、助けて貰って邪険にする訳にもいかない。
僕は落ち着いて話をする為、彼女らと供に店の中に入っていくのだった。
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