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第194話 反撃

お待たせいたしましたm(__)m

 事が終わり、建物内に戻ったヒミコを待ち受けていたのは、今回の店を立ち上げるにあたって集められた街の武器職人たち。

 いや、一度は商会の圧力によって店を辞めた彼らは、元武器職人というのが正しいだろうか。

 

「ヒミコさん、何があったんですか? 大丈夫なんですか?」


 その集団を代表して、カルロがヒミコに問いかける。

 とはいっても、おおよそ何が起こったのかは理解しているようだが。


「あら、こんな夜中に皆さん起きてらっしゃったのですね」


 それに対し、ヒミコは普段通りといった感じで応対する。


「ええ。外で凄い物音がしたものですから」


「なるほど、起こしてしまいましたか。でも安心なさって、大した問題はありませんでしたわ」


 そんなヒミコの言葉にも不安を拭えないでいる職人たち。

 ヒミコは続ける。


「餅は餅屋、という言葉があるそうですわ。その意味は、何事も専門家に任せておけば間違いない、だったかしら。荒事は私たちに任せて、貴方方は専門である武器製作に専念してくださいな。横やりさえなければ、質では負けないのでしょう?」


 少々挑発的な物言いに、職人たちは皆が当然だとばかりに頷く。

 だが、そんな中で1人の職人が不安を口にする。


「しかし、質では勝っても生産量はどうにもならんぞ。アンタのトップはミルウォーク商会を潰す気でいるようだが、それは不可能なんじゃないか?」


 その意見に同調する職人たち。

 それを見たヒミコは、懐から一振りに剣を取り出して職人に渡す。

 渡された方の職人は、初めは意味がわからず戸惑いを見せるが、彼女に促されてその剣の検分を始める。


「こ、これは……」


「おわかり頂けましたか?」


 剣は順々に職人の手に渡っていく。

 検分し終わった職人たちの顔は皆どこか悔しそうだ。

 それもその筈、その武器の質は彼らの作るそれを上回っていたのだから。


「私たちはこの質の武器を大量に用意できます。同じ値段であって明らかに違う品質、冒険者たちがどちらを選ぶかは自明の理ではなくて?」


 それが本当なら……と、その言葉に納得する職人たち。

 しかし、彼らの中では別の不安が渦巻く。

 それを察したヒミコは説明を続ける。


「こちらも技術を出し惜しみする気はありません。相手があるうちは、一定の給金は保証しましょう。ですが、前に話した通りに事が済めば私たちは引き揚げます。その後、お客様に武器の質が悪くなったと言われない様、しっかりと努力してくださいね」


 彼らは、自分たちの行く末が決して順風満帆では無い事を理解する。

 しかし、それはあくまで自身の腕による公平な勝負、力による理不尽さは存在しない。

 そもそも技術の向上を諦めた武器職人が職を失うこと自体は一般的によくあることなのだから。

 そして、この周りにいる職人たち全てが自分のライバルになりうる、そのことを理解し彼らの動きは早かった。


「わかりました。開店は明日でしたよね。それに備えて我々はひと眠りすることにします」


 与えられた部屋に引き上げていく職人たち。

 それを見て、ヒミコは満足そうに微笑む。


「なるほど、競争の原理ですか。ただ手を差し伸べるのではなく、そのあとの事も考えているのですね。中々やりますわ」


 この街の市場が活性化した未来を思い浮かべたヒミコは、満足そうに頷く。


「ここまでお膳立てされて、私が失敗する訳にもいきませんね。さて、あちらさんの手を幾つか潰しておきますか」


 そして彼女は、外で静かに命令を待っていた覆面の男を引き入れ、自室へと向かう。

 こうしてヒミコたちの反撃が始まった。

 




 その2日後、人々の間で颯爽とオープンした武器屋が話題になっていた陰で、もう一つ話題になっていた話があった。

 住人の間ではガラの悪い人間が出入りしていると前から噂になっていた屋敷、その建物が立っていた場所が解体屋も真っ青な手際で更地になっていたのだ。

 そして警備兵の詰め所の前には縄で括られた人相の悪い男たち。

 彼らは明け方に警備兵に発見されるや否や、我先にと自らの罪状を告白してきたそうだ。

 その顔はまるでなにかから逃れたくてたまらないといった風に恐怖に染まっていたとのこと。

 果たして何があったのか、街の人間によって様々な憶測がなされる中、怒りに震える人物が1人。

 その男は持っていたワイングラスを報告に来た男に叩きつけた。


「こっ、この無能がっ! きっ、貴様がそんなだから儂はっ!」


 ケモセアの顔は真っ赤に染まり、言葉も詰まる程に怒りを顕わにする。


「その捕まった連中の中には、儂の名前を出している者もいるそうだな! 王都の連中に知れたらどうするのだ!」


「そ、そこは問題ありません。根回しはしてあります」


 慌てて部下の男が答える。


「本当だろうな? 嘘ならば貴様の首一つでは足りぬぞ?」


「は、はっ!」


 深々と頭を下げる部下を見て少しは落ち着いたのか、ケセモアは考え始める。

 一夜にして潰されたのはミルウォーク商会虎の子の裏部隊。

 するとその後に狙うのは――。


 彼がそう考えた直後、一本の短剣がケセモアの目の前の床に刺さる。

 部屋にいた男たちの理解が追い付かず、一瞬時が止まる。


「て、敵襲だ! ケセモア様を守れ!」

 

 姿を現さない襲撃者に対し、厳戒態勢を引く部下たち。

 だが、その後は特に何か起きることは無く、襲撃者の姿も無い。

 ケセモアは部下たちに命令する。


「貴様ら、ここの警備を厳重にしろ。とにかく許可なく人っ子一人入れるな!」


 ケセモアの顔に恐怖の色が浮かぶ。

 それはここ数十年で初めての事であった。


 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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