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第193話 襲撃者

長らくお待たせいたしましたm(__)m

 大半の住民が寝静まる真夜中、暗闇の中をヒタヒタと足早に進む集団があった。

 その集団の顔の部分は忍者が着ける覆面のような布で覆われており、怪しい光を放つ目だけが露出している。

 また、数人の手には何かを叩き壊すために用意したような巨大なハンマーが。

 そして、そんな大きな武器を難なく片手で運ぶ様からも、この集団がおおよそ素人では無い事が見て取れる。


 暫くして、彼らの足がある場所でピタリと止まる。

 先頭の覆面が片手を挙げると同時に、数人が目の前の建物を囲むように散開していく。

 そんな時、暗がりの中から彼らの耳に届いたのは透き通るような女性の声であった。


「あら、お客様かしら?」


 忍者もどきの集団は、突如聞こえたその声に警戒心を顕わにして武器を抜き、声を発した人物を探す。

 すると、いつの間に現れたのか、彼らの目の前には艶やかな着物を着た女性が微笑みを浮かべて立っていた。


「うーん、どうしようかしら? 特に歓迎の準備は出来ていないのよね。このまま帰って下さらない?」


 集団に囲まれても物怖じしない、そして自らが気配を察知できなかった女性に対して警戒心を最高レベルまで引き上げた覆面たちは、合図により散開していた仲間を合図にて呼び戻す。

 再び集まった覆面たちも武器を抜き、先頭にいる隊長格の男の次なる号令を待つ。


 すると、目の前の店の扉が勢いよく開き、中から現れたのは2人の男。

 その2人は彼女を守るように前に進み出る。

 そして、そのうちの1人である大柄な男は、困った風な表情で彼女に語りかけた。


「あまり勝手に動いてもらっては困るんだが……」


「あら、ガイムさん。別に休んでくれてても良いんですよ」


「そういう訳にもいかん。たとえ必要は無くても、これは仕事なのでな」


 そう言うと、ガイムと呼ばれた男はその体格に相応しい大剣をスラリと抜く。


「ふーん、隠れているのも入れて15人ってところか。お言葉に甘えて僕は休んでて良いかい?」


 小柄な男がガイムに問いかける。


「駄目に決まってるだろ、シード。しっかり働け」


「はいはい、わかりましたよ」


 シードと呼ばれた男は面倒くさそうに短剣を抜いた。


 そんな緊張感の無いやり取りを目の前で見て流石に痺れを切らしたのか、覆面たちが一斉に彼らに襲い掛かる。

 だが――。


「ふんっ! 遅いわ!!」


 ガイムが大剣を横一線に振るうと、それだけで数人の襲撃者が吹き飛ぶ。

 斬るというよりかは叩きつけるような斬撃だ。

 そしてもう一振り、地面に横たわる人数が更に増える。


「くっ! 距離を取れ!!」


 接近戦は危険と判断した隊長格の男の命令に、今度は少し距離を置いて飛び道具で攻撃を始める襲撃者たち。

 メルドは飛来する金属製の矢尻のような武器を大剣を振るって打ち落とす。


「シード、少しは働け!」


「わかってますよ」


 前傾姿勢になったシードの口から放たれた直線的な何かが、距離を取っていた襲撃者の1人の肩を撃ち抜く。

 高密度に収束された水のレーザー、ウォーターブレスである。


 続けざまに放たれるそれに、離れた襲撃者たちも回避行動を余儀なくされる。

 しかし、まるで次の行動が予知されているが如く、それらは正確に彼らを撃ち抜いていった。

 予定調和の如く1人、また1人と倒れていく状況の中、1人の男の怒声だけがこの場に響く。


「散開しろ! 狙いを定めさせるな!!」


「ほう、他を気にしている余裕がまだあるのか?」


「なっ!!」


 いつの間にか息がかかる程間近に迫ったガイムに気がつき、男は剣を瞬時に前に出し身を固める。

 直後、ドカッ! という剣と剣のぶつかり合いではありえない音が響き、男は離れた店の壁へと身体を叩きつけられる。


「ガイムさん、壊して貰っては困るんですけどね」


「……いや、何と言うか、すまん」


 バツが悪そうな顔をするガイム。

 その間に、吹き飛ばされた男は身体の痛みをこらえて立ち上がる。


「ほう、中々に良い根性だ。とても腐った作戦の実行犯とは思えん」


 そんなガイムの言葉に対し、男は黙して語らない。

 既に彼の仲間は全て地面に這いつくばっていたが、男は撤退せず再び武器を構える。


「ふむ。その根性に免じて、俺も全力で応えよう」


 ガイムは大きな身体を更に大きく見せるような上段の構えを取った。

 その醸し出すオーラにより、ピンと張りつめた空気が辺りを支配する。

 先に動いたのは襲撃者。

 もう後が無い男にとって全力の攻撃、それは今までのどの攻撃よりも鋭かった。

 しかし――。


「ぬうん!!!」


 ガイムが繰り出す振り下ろしの一撃。

 それは相手の剣を破壊して尚その勢いは止まらず、そのまま男の身体を切り裂いた。

 崩れ落ちる襲撃者。

 そして、大きく息を吐くガイムの額には大粒の汗が流れる。

 初太刀に全てをかけるが故に、半端では無い疲労感が彼を襲っていた。


 その時、守られていた?女性、ヒミコの視線が遠方を射抜く。


「ん!? どうした?」


 額の汗を拭ったガイムがヒミコに問いかける。


「いえ、何も。私、ちょっと散歩をしてきますわね」


「おい!」


 ガイムが制止するよりも早く、正面の建物の屋根に飛び乗り、何かを追うかの様に全力で駆けだした。





「くそっ! まさかこの距離で!?」


 その少し先で屋根から屋根へ飛び移る影が、信じられないという口調で吐き捨てる。

 作戦の失敗を悟り、気配を消しつつ報告の為すぐさま離脱、気づかれる要素は何もなかった筈。

 そんな思いを抱きつつも今ある現実を認め、逃げながらも何か対策をと考えをめぐらす影。


 追手は1人、しかも女。

 隠密行動を任されている影は当然腕にも覚えがある。

 影は逃げるのを止め、屋根の上で立ち止まった。


「あら、もう逃げないのかしら?」


 対峙する2人。

 影は無言で短剣を構える。


「シッ!」

 

 振るった短剣から飛散する液体。

 ヒミコが飛び退いた後の屋根からはジュッという嫌な音と共に白煙が発生する。

 そこから間髪入れず、直線的な跳躍でヒミコに襲い掛かる。


 ヒミコはその攻撃を舞でも舞うかのように優雅に躱す。

 影の攻撃は止まらない。

 しかし、それ以上に攻撃が当たらない。

 焦る気持ちを抑え、更なる攻撃を繰り出す影。

 そんな中、防戦一方であったヒミコがとうとう動きを見せた。

 影の目の前で猫騙しのように柏手を打ったのである。


 パァン! と夜空に響く音。

 影は目さえ瞑りはしなかったものの、何事かと目を見開く。

 その時、影とヒミコの視線が重なった。

 

 影は彼女の視線から目を離せない――――。


「武器を降ろしなさい」


 毒の塗られた短剣が影の手から離れ、屋根伝いに地面へと落下する。


「さあ、行きましょうか」


 そして、その影はまるでヒミコに長年連れ添っていた従者の如く、彼女に頭を垂れるのであった。

 



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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