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第192話 始動

お待たせいたしましたm(__)m

「それで、私という訳ね」


 念の為、ミウたちを街に残して帰還したイデア。

 僕は別荘の居間でお茶を飲み寛ぐヒミコに声をかけた。

 他に住居を立てたにもかかわらず、いつの間にかここに居座っているのは今さらである。


「ああ、どうかな?」


 人手が足りないという事もあるが、人間社会に詳しい彼女ならば今回の役割りにうってつけだ。


「しかし、私が表に出ても良いのかしら? また悪さするかもしれなくてよ?」


 そんな彼女の言葉を僕は首を振って否定する。


「今や女神様の茶飲み友達と化しているヒミコが、また悪さするとも思えないな」


 それに表に出すのは他国の領地であることも大きい。

 彼女を事を知る人間がごく一部とはいえ、やはりまだガルド王国内での活動は自粛すべきであろう。


「ふふっ、それもそうね。でも、その茶飲み時間が減るかと思うと残念ね」


 ヒミコがさも困ったという風なジェスチャーをする。

 それに対し、ミサキがボソッと辛辣な一言を呟く。


「……働かざる者食うべからず」


「相変わらず痛いところを突くわね。別に引き受けても良いけど、これだけは言っておくわ。私は命の危険が迫ったならば迷わず能力を使うわよ」


「あれ? でもその指輪は?」


 確か彼女の能力は指輪で封印されていた筈だが……。


「ああ、それなら自由に外せるようにしておいたでちゅ」


 スラ坊の新作スイーツを頬張りながら、これまた当たり前のように居間で寛ぐ女神様。

 もう見慣れた光景なので敢えて触れはしなかったが……、慣れとは恐ろしいものである。

 しかし自由に外せるって、既にしている意味が無いんじゃないだろうか?

 ――でもまあ、判断したのが女神様なら問題ないか。


「女神様のしたことなら、僕は反対しないですよ。一応護衛はつけるから心配ないと思うけど、万一の時は使っても構わない」


「そう、ありがとう。それで、いつから行けばいいのかしら」


「うん、準備が整い次第かな。一週間以内には整うと思う」


 ヒミコの問いに僕は答える。


「あら、早いのね。というわけで女神様。暫くはご一緒にお茶できませんわね」


「残念でちゅ」


 本当に残念そうな女神様。

 そこに奥から新たなデザートを持ったスラ坊が現われる。


「女神様、私で良ければいつでも相手をしますよ」


 そういえば、また新たな分体を作れるようになったって言ってたっけ。

 戦闘以外のスペックはもう最強レベルだね、スラ坊。


「おおっ、それは嬉しいでちゅ。でも、ヒミコちゃんも偶には顔を出すでちゅよ」


「それは雇い主の心遣い一つですわ」


 チラリとこちらを見るヒミコ。

 僕は「はいはい、わかってますよ」との意を込めて頷いた。





 ※




 街の外れにあった一軒の武器屋。

 店は小さいが冒険者にはそれなりに知られていたその店が一時閉店の張り紙を出すこと数日。

 とある日の夜明けとともにその場所に突如として現れたのは今までとはまるで違う巨大な店舗。

 近隣の住人にとって驚きを隠せないその出来事は、瞬く間に街の噂になって広がった。

 そしてそれは当然この男の耳にも……。


「どういうことだ?」


 老人の鋭い目が1人の男を射抜く。

 彼こそがミルウォーク商会の会長、ケモセアである。


「はい、現在詳しく調査をしております」


 そんな男のセリフに、ケモセアは顎鬚をいじりながら更に問いかける。


「お前は前回の失敗の時に確かこう言ったな? 作戦自体は上手くいかなかったが充分な脅しにはなった、この街を出ていくのは時間の問題だ、と?」


 問いかけられた男は無言で頭を更に垂れる。

 この場にいる男たちも全て無言。

 誰もがここでどんな言葉を並べても、火に油を注ぐだけだと理解している為だ。

 現に今でさえ、ケモセアの言葉の端々からは内部に渦巻く爆発寸前の感情の奔流が、解放の瞬間を今か今かと心待ちにしているのが目に見えて明らかであった。


「何でも、店を畳んだ木っ端な武器職人たちが集まってるらしいじゃないか。まさかとは思うが、この儂に逆らおうとしているのではあるまいな?」


「はっ。まさかそのようなことは……」


 男の言葉に、ケモセアの顔は真っ赤に染まる。


「あるから言っておるのだ!! 貴様、何を悠長にしておるのだ!! とっとと潰して来い!! それが出来ない無能は儂の部下には必要ないぞ!!! お前らもだ!! 逆らう者は全力で潰せ!! それが我が商会、そしてお前たちの生きる唯一の道だと思え!!」


「「「「ははっ!!」」」」


 そして事態は動き出す。

 しかし彼らは知らなかった。

 武器職人たちの守りに入った者たちの正体を――。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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