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第190話 ロゼ救出

 自然により作られた一本道の通路。

 ミウたちはポンポを先頭にゆっくりとした足取りで前進する。


 岩壁に一定間隔で取り付けられてあるランプがぼんやりと3人の姿を照らす。

 曲がりくねった自然の洞穴は、ミウたちの予想よりも奥行きのあるものであった。

 だが、所詮は誘拐団のアジト、魔物が住まうダンジョンのように大規模であろう筈が無い。

 それから暫く歩くと、微かな男たちの話し声がポンポの耳に届いた。


「いるです〜」


「しっ!」


 興奮したのか少し大きめな声を上げたポンポに対し、ミウが口元に指を当ててそれを制す。

 曲がり角に身を隠すようにして先の様子を窺う3人。

 

 視界に映ったのは大きく開けた洞穴の終着点。

 そこに建てらていたのはいかにも怪しい木造の小屋。

 周囲に見張りがいないのを確認したミウたちは、忍び足でその小屋に近付く。


 窓の無い窓枠からそっと中を覗くと、そこでは3人の男がテーブルを囲んで酒を飲んでいるのが見えた。

 そしてさらにその奥、そこには身体を縛られ猿轡をされた少女、ロゼが横たわっている。

 彼女の目元は泣き続けていたのか真っ赤に腫れており、更にはその頬までもが痛々しいまでに腫れ上がっていた。


 今にも飛び出したい衝動をぐっと抑え、ミウは慎重に状況を確認する。

 1人の男の腰には長剣、だが残りの2人は油断からか丸腰、その武器は少し離れた壁に立てかけてあった。

 結構な時間飲んでいるのかその顔は赤く、かなり酔っているようにも見える。


 目線を合わせ、無言で頷く3人。

 次の瞬間、パリン! と言う音と共に天井のランプが割れ、部屋の中が暗闇に覆われる。


「おい! 何だ!」


 闇の中で一人の男が叫ぶ。

 だが、仲間からの返事は無い。

 それもその筈、残りの2人はミウの魔法と同時に放たれたアリアの弓に成す統べなく倒れていたのだから。


「捕まえるの」


「了解です〜!」


 アリアの指示にポンポが動く。

 種族的に夜目が効くポンポは、長剣の男に対してここぞとばかりに攻撃を畳み掛ける。


「くっ、誰だ! 卑怯だぞ!」


 どの口が言うのか? という男のセリフにもポンポの斬撃は止まらない。

 手傷を負いつつ壁際まで追い詰められた男は、次第に慣れてきた目で襲撃者の顔を確認する。


「てっ、てめぇはあの時のガキ!」


「これで終わりです〜!」


 ポンポが相手の剣を真上に跳ね上げる。

 そして、男の手から離れた長剣が天井に刺さる頃、彼のその喉元には鋭利な刃がつき立てられていたのであった。


 



「大丈夫、もう安心だよ」


 魔法で再び明るく照らされた室内。

 当初何が起こったのかわからなかったロゼであったが、目の前のミウの姿を見て目に涙を溢れさせる。

 そのままミウに抱き着き泣きじゃくるロゼ。


「頑張ったね」


 ミウはその背中をポンポンと叩きながら、もう一方の手で腫れあがった顔に治癒魔法をかける。


「無事で良かったの」


 アリアが心底ホッとした表情で呟いた。



 一方、その傍らでは一人の男が何やら喚き散らしていた。


「てめえら! ガキの分際で俺たち闇の蜥蜴に手を出してタダで済むと思ってんのか! 俺に何かあったらてめえらの命が幾つあっても足りねえぞ!」


 目の前のポンポ相手に凄む男だったが、その身体は縄で括られ、決して迫力があるとは言えない。


「五月蠅いです〜」


 ポンポが鞘の付いた剣で男の頭を小突く。


「てめぇ!」


 男は野犬だったら今にも噛みつくであろう怒りを顕わにし、ポンポを睨み続ける。


「俺らの仲間がこれだけだと思ったら大間違いだぞ! 後で痛い目に遭いたくなかったら、今すぐ縄をほどきやがれ!」


 そんな大声で喚き散らす男の元にアリア、そしてロゼを落ち着かせて一段落したミウが近づく。


「へえ……、でも目撃者がいなくなれば、復讐のしようが無いんじゃない?」


「そうなの。良い考えなの」


 黒いオーラを醸し出しつつ、男に更に近付く2人。

 男の額から冷や汗が流れる。


「お、お前ら……、何をする気だ! 近寄るな! 何かしたら只じゃ済まんぞ!」


「ふーん」


 ミウが掌に魔力を込める。


「……いや、待て、わかった! 手を出さない! お前らには今後手を出さないと誓おう!」


 そんな男の肩に、ミウはゆっくりと手を添える。


「や、やめろ! やめ、ぎゃーーーっ!」


 悲鳴を上げた男はぴくぴくと痙攣した後、仰向けに床に倒れた。

 もちろん痺れさせただけ、死んではいない。

 またひと仕事をやり終えたミウは軽く息を吐き、皆に声をかけた。


「さて、色々心配かけるといけないから早く帰ろう。ポンポ、『それ』持ってね」


 精神的に回復しきれていないロゼ、彼女にとって悪いイメージしかないこんな場所には極力留まるべきではないとミウは考えていた。

 幸い彼女に肉体的ダメージはもうない。

 

「うん、帰るの」


「わかってるです〜」


 ロゼもそれに黙って頷く。

 そして、それ扱いされた男をポンポが担ぎ、ミウたちは誘拐団のアジトを後にするのであった。








最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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