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第1話 カナタとミウ

 ――さて、何も無い草原にじっとしていても仕方がない。

 そう思った僕は、適当に方角を決め、歩き出すことにした。

 いや、だってどの方角も同じ景色なんだもの……。


 本当にこの草原はどこまで続いているのだろうか。

 ただ、鼻をくすぐる自然の匂いに癒されている自分もいて、割と今の時間を楽しんでいる。


 ちなみに今の僕は、現代ではあまり馴染みの無い格好をしていた。

 防御面も考慮された服装、RPGの初期装備といったところだ。

 女神様が剣と魔法のファンタジーと言っていたので、おそらく魔物との遭遇もあるだろう。

 そうなったときにただの布の服じゃ心もとない。

 そこら辺は女神様も考えてくれたのだろう。

 そして、この腰に下げている一見何の変哲もない巾着袋、これの性能が凄かった。


 「これは、わたしからのプレゼントでちゅ」といった手紙が入っていたので、女神様の贈り物で間違いない。

 どんな大きな物でも、生物で無ければ収納する事が出来、しかも重量を感じさせないという優れもの。

 さらに、中身を取り出すときは念じればすぐに取り出せるという便利仕様だ。

 実は先ほど、水と食材についてどれだけ入っているか確かめてみた。

 結果は――水が八リットル、食料が節約して約5日分ほどだった。

 多いか少ないかは微妙なところだが、ありがたいことは確かだ。

 でも、このまま町や村が見つからなかったら……、いや、悪い方向に考えるのはやめよう。

 この世界の僕はポジティブに生きるんだ!

 楽しもう! 第二の人生、ファンタジーライフ!!


 

 日差しが照りつける中、ひんやりとした風が頬に当たるのが気持ち良い。

 あれからひたすら歩き続け、もう三時間くらい経っていた。

 いい加減そろそろ何かが見えてきても良いんじゃないかな……。

 だからといって魔物とか出てきたら困るけどね。

 何せ今の僕には武器が無い。

 巾着袋を探ったが、それらしいものは入っていなかった。

 ここでいきなり遭遇したら、かなりの無理ゲーだと思う。

 ――女神様、そんな事無いですよね。



「たすけて〜!」


 その時、遠くの方で助けを呼ぶ声が!

 僕は、無意識のうちにそちらに向かって走り出していた。


 ――あれ、僕ってこんなに足が速かったっけ?


 周りの景色が電車の窓から見る景色の様に流れる。

 そのお蔭で、あっと言う間に声の聞こえた場所へと辿り着く事が出来た。


「グルルルルル……」


 そこには体長二メートルはあるだろう狼が二匹、声の主を取り囲んでいた。

 僕は二匹の意識をこちらに向けさせる為、地面に落ちていた小石を二つ拾い、狼に向かって投げつけた。

 その小石は見事に二匹の狼に命中、グシャッ! という音と共に二匹の狼の頭が破裂した。


「えっ!?」





 どうやら狼さんを、牽制のつもりで投げた小石で倒せてしまったようだ。

 何かと疑問は残るがとりあえず後回し、まずは助けた女の子の元に駆け寄る。

 しかし、そこにいたのは女の子ではなく、ふわふわな毛で囲まれた小さな生き物がふるふる・・・・と体を震わせていた。


 ――うさぎ? じゃないな。

 この子が声の主? 他に誰もいない……よね?


 うさぎよりも少し短い耳につぶらな瞳、雪のように白い毛はもふもふ感満載で思わず抱き上げたくなる。

 小動物のつぶらな瞳は、上目づかいでこちらの様子をうかがっている。

 どうやら警戒されているようだ。


「大丈夫、何もしないよ。とりあえず無事で良かった」


 自然と小さな子をあやすような口調になる。

 特に怪我はしていない様子だったので、そのまま立ち去ろうとした所――、


「あっ、あのっ……。たっ、たた、助けてくれたありがとう」


 もふもふ系小動物が話しかけてきた。

 発音的にはかわいらしい鳴き声なのだが、僕には自然とその意味が理解できた。


「どういたしまして。僕の言葉が分かるのかい?」


「うんっ!」




 このもふもふ小動物は、生まれたは良いが近くに親の姿は無く、頑張って食べ物を探していたところ、狼に遭遇してしまったらしい。


「せっかく木の実を見つけたのに……、おなか減った……」


 その言葉と同時に、小動物のお腹の音が可愛らしく鳴る。 

 僕は巾着袋から果物を取り出した。


「よかったら食べるかい?」


「いいの!?」


「ああ、嫌いじゃなかったらね」


「ありがとう!!」


 お礼を言うや否や、もぐもぐとわき目を振らず食べている。

 よほどお腹がすいていたらしい。


 もふもふ小動物は、あっと言う間に大きめの果物を2つ平らげ満腹そうだ。

 

 ――さて、この子をどうしようか。

 このまま放っておいたら、絶対また襲われるよなぁ。

 だったら――


「ねえ、僕と一緒に来るかい。旅のあてがあるわけじゃないけど、二人の方が楽しいと思うんだ」


 僕もこの世界で独りぼっち、旅の連れが欲しかった。


「いいの?」


「もちろん! そうだ、名前を聞いてなかったね」


「……名前は無いの」


 もふもふ小動物は、そう言うと頭を項垂れた。


「そうか……。だったらミウなんてどうだい。もちろん嫌じゃなければだけれど……」  


「ううん、嫌じゃないよ! ミウ……、ミウ……、えへへ」


「僕の名前はカナタ。そのままカナタでいいからね。これからよろしく!」


「うん! よろしくね、カナタ!」


 こうして僕たちは二人で旅をすることになった。


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