第17話 お買いもの
「う〜ん。高いな」
「……相場はこのくらい。しょうがない」
「いえいえ、お客様。これでもかなり勉強させてもらっています。どうですか、この造り。かなり頑丈に出来ているので長旅にはピッタリですよ!」
揉み手をする店員さんに勧められた馬車を見て考え込む。
銀貨60枚か……。
そう、僕たちは青空の下、馬車売り場を見に来ている。
何故、こんなところに来ているかというと――、
「……カナタ、馬車を買った方が良い」
「えっ!? 馬車?」
唐突なミサキの提案に思わず聞き返す。
「……そう、あの馬が引く馬車」
いや、それは分かっているけどさ。
「……これからいろいろな場所に行くのに乗合だと大変。……それに毎回借りるとなるとお金がかかる」
「毎回借りるよりってことか……。でも馬車って高くない?」
壊れたときの修理などを考えたとき、どちらが安いかってことになると思う。
でも、乗り物って高いイメージがするんだよなぁ。
「……この前貰った金貨一枚でたぶん足りる」
いや、十分高いな。
僕としてはいざという時の為に、このお金は取っておきたい所だけど……。
「……それに別荘に置いておけば管理が楽」
ミサキがさらに畳み掛けてくる。
なるほど、使わない時はスラ坊に見てもらうって事か。
「わかったよ。取りあえず見るだけは見てみるよ」
ミサキの主張を受け、僕たちは馬車売り場へと行くことになった。
そして現在に至る。
色々と馬車を見せられているが、正直どれが良いのか分からない。
「ミウはゆっくりお昼寝できるのが良いな」
「う〜ん。そうすると揺れの少ないものか」
「それでしたらお客様、こちらなど宜しいかと思います。下回りに衝撃を吸収する仕組みを備えております。ただ、お値段は銀貨80枚と少々値が上がりますが、当店おすすめの品でございます」
「……何人乗れる?」
「はい、こちらは六人乗りになります。今でしたら内装一式もお付けするサービスを行っております。この機会に是非お願いいたします」
ミサキが僕の顔を見る。
「……カナタ、どう?」
「うん、良いとは思うよ。でも馬も買わなくちゃいけないとなると完全な予算オーバーじゃない?」
「いえいえ、お客様。今でしたら良品質の馬二頭で銀貨50枚に勉強させて頂きます。馬はこちらにおりますので、まずはご覧になって下さい」
流れのままに店員に馬の厩舎まで連れて行かれる。
なるほど、確かに元気そうな馬だ。
でも、二頭で銀貨50枚か。
馬車も合わせると現在の手持ちのお金を全て使ってしまう。
さすがにそれは出来ない。
今回は見送りだな。
ミサキにその事を伝えようとすると――、
「……あの馬なら一頭で十分」
ミサキがとある方向を指さす。
そこには他の馬より二回りは大きい馬が、他の馬とは隔離された場所に繋がれていた。
真っ白な艶のある肌が太陽に反射して綺麗なのとは裏腹に、その顔からは覇気というかやる気が感じられない。
僕は店員に聞いてみる。
「あの馬だったら一頭で引けますかね?」
すると、店員さんは困った顔をして答えた。
「ああ、あの馬ですか。確かにあの馬ならば1頭でも十分馬車を引けるでしょう。ただ、あれは気性が荒くてね。正直に言うと、何度も返品されているんですよ。売り先で暴れて何人も怪我させたりで、逆にお金がかかってしまってね。そろそろ殺処分にでもしようと思っているんですよ。選んでくれるのは有り難いんですが、また賠償騒ぎになるとちょっと……」
その時、何となく馬の目の色が変わった気がした。
「ちなみにいくらなんですか?」
「買ってくれるのなら銀貨5枚、……いや、タダで持っていって良いですよ。ただし返品不可、暴れても責任は負わないという条件になります。こちらとしては置いておくだけでも出費でね。貰ってくれるだけでも有難いです。お勧めはしませんがね」
僕たちはその馬の近くに行ってみることにした。
「カナタ、普通の馬のほうがいいよ! 何か感じ悪いよ」
ミウにしては珍しく好き嫌いを主張してきた。
「何だと! このチビ!! この高貴なる我に向かって感じ悪いとはどういうことだ!」
馬が大きく一鳴きしたが、僕にはそれが言葉として聞こえてきた。
「えっ!? 喋った! こいつもしかして魔獣か?」
僕の言葉にその馬は反応する。
「おおっ! 我の言葉がわかるのか。今までの人間は、我の言葉が通じなくてな。お主、よほど高貴な出の人間なのであろう。そんなお主に朗報がある。我の従者に任命してやろう。さあ、我をこの鎖から解き放ち、我に仕えるのだ!」
どうやらミウの予感は正しかったようだ。
「……行こうか、ミウ、ミサキ。馬車はもう少しお金が貯まってから考えよう」
「……うん、カナタ。それがいいよ」
「……仕方ない。了解」
僕たちはとっととその場から離れようと踵を返す。
「待つのだ! ……いや、待ってくれ! 我はこう見えてもユニコーンの末裔、役に立つぞ! 何なら従者ではなくパートナーということでも良いぞ!」
「カナタのパートナーなら、ミウがいるからいらないよ〜」
「……私もいる。十分」
ミウとミサキが即座に却下する。
しかし、馬?は、なお食い下がる。
「そうだ! 馬車を引くのに馬が必要だと言っていたな。我が引いてやろう。……いや、引かせてください、お願いします」
だんだん馬?が弱気になってくる。少し可哀想になってきた。
「う〜ん。まあ、それなら連れて行くか」
「え〜っ!?」
ミウは不満そうだ。
僕は店員にこの馬?を引き取る旨を伝える。
しっかりと返品不可・賠償請求なしの念書を書かされた。
よほど始末に困っていたのだろう。
「僕の名はカナタだ。まあ、よろしく。頼むから暴れるなよ!」
「…………ミウだよ」
「……ミサキ。暴れたら燃やす」
ミサキが掌に炎を発現する。
「も、もちろんわかっている。暴れたりはしない」
馬?は震えながら答えた。
「ちなみにお前、名前はあるの?」
「よくぞ聞いてくれた。我の名は、ボンジョピエール・スペルノビッチ・フランソワ………」
「長いからユニ助な」
「なっ!?」
馬? 改めユニ助は絶句する。
「ユニ助、ユニ助〜♪」
すかさずミウがからかう。
「何だ、このドチビ! やんのかコラ!」
高貴な出の割にはガラが悪いな、こいつ……。
「おとなしくしろと言ったろ。これから一緒に過ごすんだ、喧嘩すんなよ! ミウもあまりからかうなよ」
「……うむ、わかった」
「……は〜い」
ユニ助とミウは頷いた。
とにかくこれで馬車+ユニ助で銀貨80枚で抑えられた。
一応、得をした……のかな?
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