第14話 報告とプレゼント
「ありがとうカナタくん、助かったわ!」
僕の報告を聞き、アリシアさんがぎゅっと抱き着いてくる。
うん、ふわふわだ。
何がふわふわなのかはあえて言わないが、ミウがいつも飛び込むのが分かる気がするよ。
しかし、至福の時間はそう長くは続かなかった。
「ぐわっ!! く、苦しい! ……何だよ、ミサキ!」
「……カナタ、デレデレ」
ミサキに襟を掴まれ、思いきり後ろに引かれた。
ちょうど服に首を締められる形となり、強引に引き剥がされる。
「あらあら、やきもち焼かれちゃったかしら。大丈夫よ、取らないから」
「……ならいい」
アリシアさんは僕とミサキの顔を交互に目くばせする。
「それにしても、カナタくんも隅に置けないわね。いつの間にかこんなに可愛い子を連れて歩いているなんて」
「すみにおけないね〜♪」
ミウが茶々を入れる。
「いや、今回の仕事を手伝ってくれるって事で、その、成り行きで……」
女神様の事は話せないので、何と説明して良いか分からない。
「あら、成り行きで女の子を連れ回すいけない子なのかしら、カナタくんは」
「そういうんじゃ無くてですね……」
「……あの夜の出来事は嘘だったの?」
いや、ミサキ! 何だよあの夜って!
そもそもミサキと会ってからまだ一日経ってないから!
「――冗談よ、カナタくん。カナタくんが真面目なのは分かってるわ」
アリシアさんがいたずらが成功した少女のような表情で笑う。
「でも、真面目すぎるのも良くないわよ。少しくらい羽目を外さないと……ね♪」
アリシアさんが僕に向かってウインクする。
すいません、性分なんです。
「さて、真面目な話に戻しましょうか。報酬だけど、そうね、金貨1枚でどうかしら」
「えっ!? そんなに貰えませんよ」
討伐依頼の相場は良く分からないが、その報酬がかなり多い事だけは分かる。
アリシアさんにはお世話になっている事もあるので、なおさら受け取れない。
「いいのよ。パーティーメンバーも増えたことだし、いろいろと資金もいるでしょう。それにお金なら昔稼いだ貯金が結構あるのよ。貯めておくよりカナタくんに有効利用してもらった方が嬉しいわ」
結局、アリシアさんに押し切られ、強引に報酬を渡されてしまった。
「さて、じゃあ夕食の準備をしなくちゃね。ミサキちゃんも泊まるってことで良いのよね」
「……おねがいします」
「わかったわ。何も無いけど、ゆっくりしていってね」
そういうと、アリシアさんは奥へと引っ込んだ。
僕も料理が出来れば手伝うんだけどね。
「さあ、今日は腕によりをかけて作った自信作よ。召し上がれ」
テーブルいっぱいに家庭料理が並ぶ。
これは何だろう? 肉じゃがか?
試しに口に運んでみる。
「どうかしら?」
「はい! 美味しいです!」
薄味だけどしっかり出汁が利いて、素材の味を引き立てている。
うん、家庭の味というやつだ。
飽きのこない昔ながらの味、料理の最後に行きつく先はこれだよね。
「……!? 美味しい」
「ミサキちゃんの口にも合ったみたいでよかったわ。それはそうと、ミサキちゃんは料理が出来るの?」
「……いえ。全く」
「それじゃ駄目よ。男を捕まえるのには先ず胃袋から。美味しい料理が出来ればきっとカナタくんもメロメロよ」
「……メロメロ……」
「ええ、間違いないわね」
アリシアさん、恋話をするのは良いんですが、本人の目の前ではやめて欲しいです。
「……教えて欲しい、いえ、教えて下さい」
「いいわよ。可愛いミサキちゃんの頼みだもの。基礎からみっちり教えるわよ! 覚悟は良い」
「……師匠、お願いします!」
早くこの場を引き揚げるために、目の前の熱血ドラマをなるべく視界に入れずに黙々と食事を食べる。
そうだ、スラ坊の分も持っていかないと……。
自分の分の食事を食べ終えた僕は、小皿にいくつかの料理を盛り、スラ坊に食べさせるために部屋に戻ることにした。
しかし、あらぬ方向に向かっていた女性の会話にあっさり捕まってしまう。
「カナタくん。ミサキちゃんをしっかり守ってあげなきゃダメよ! 男の子なんだから」
「……カナタは今日も私を守ってくれた。無問題」
何やら雲行きが怪しくなってきたので、僕は戦略的撤退を試みる。
たたかう
⇒にげる
ぼうぎょ
どうぐ
しかし、回り込まれた。
「ミサキちゃん、男はしっかり手綱を握っていなきゃダメよ! そうしないとすぐ他の女に目が行くの。そういう時にはしっかりお仕置きが必要よ。この前のダグラスときたら…」
「……大丈夫、カナタはもう私にメロメロ。きっと幸せな家庭を築いていける」
いや、メロメロ、しかも家庭って!?
第一まだ会ったばかりだし、そういう雰囲気は一切無かったぞ!
「……無問題。愛は時間を超越する」
人の心を読むなって……。
食事の美味しさ以外は苦行のような夕食の時間が終わり、僕は部屋へと戻る。
途中、ミサキが何食わぬ顔で僕の布団に自分の枕を並べる様に置いたので、そのままミサキを枕ごと追い出した。
きっと今頃、アリシアさんの部屋でまたガールズトークでもしているのだろう。
「く〜」
ミウは疲れたのかもうご就寝だ。
ぽよぽよしたスラ坊に乗っかって寝ている。
スラ坊もミウを包み込むように変形していて、寝心地は中々良さそうだ。
そんな事を考えているうちに、僕もいつの間にか意識が途切れた。
「久しぶりでちゅね。元気そうでなによりでちゅ」
僕の目の前には懐かしい女神様の顔が。
あれ? 確か僕は布団で寝てたよね。
「ここはあなたの夢の中でちゅ。女神でちゅから、こんな事も出来るでちゅよ」
女神様はえっへんとばかりに小さい胸を張る。
なるほど、理解しました。
「理解が早くて助かるでちゅ。ところでミサキちゃんとはもう会えたでちゅね」
「ええ、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「それは何よりでちゅ。ミサキちゃんは少々変わってはいますが良い子でちゅ。出来ればずっとパーティーに居させてあげて欲しいでちゅ。これはわたしからのお願いでちゅ」
女神様が頭を下げる。
「いや、そんな事をして貰わなくてもそのつもりですから。頭を上げてください」
「あの子には信頼できる仲間が必要でちゅ。幸いあの子はカナタを気に入ってるでちゅ。どうかよろしく頼むでちゅ」
まるで子供を心配する親の様だ。
体型だけ見るとどちらが親か分からないが……。
「ん!? 何か失礼なことを考えたでちゅか?」
「いえ、そんなことは無いです」
危ない危ない、気をつけなくては……。
「まあいいでちゅ。それで、お礼と言っては何でちゅが、戻ったら袋を探ってみるでちゅ。良い物を入れといたでちゅ」
「良いもの?」
「それは戻ってからのお楽しみでちゅ。きっとこれからの貴方の助けになるでちゅよ〜〜〜〜〜〜」
パッと目を開けると、天井が目に入る。
うん、元の部屋だな。
「夢じゃない……よね」
まだ寝ているミウとスラ坊を起こさないように立ち上がり、例の巾着を取り出す。
女神様に言われた通りに探ってみるとそこには……。
「うん、今日にでも試してみよう」
僕はそのプレゼントを巾着に戻し、再び布団の中で眠りに落ちていった。
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