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第12話 ゴブリンの巣

 身を屈め、遺跡の岩陰に隠れながら移動する。

 剣が使える僕が先頭、その後をミサキが続く。

 ミウはもちろん僕の頭の上、スラ坊は左腕に巻きついている。


「……どうやらあそこが巣になっている」


 ミサキが指をさす方向には、ゴブリンが一匹。

 ゴブリンはその場を動かず、何かを守るように立っていた。


「あれは……、入り口か!?」


 ゴブリンの後ろに見える何かの入り口らしきもの。

 その後ろに建物が無いということは、おそらく地下へと続くのだろう。


「外にはあの一匹だけか。これは突入しないと駄目かな?」


「入り口から中に向けて魔法を放つっていうのはどう?」


「いや、中がどういう構造になっているか分からない。魔法が届かない可能性の方が高いよ」


「……周りを徘徊しているゴブリンにも注意が必要。不必要に騒がれると困る」


 取れる策としては、速攻で見張りのゴブリンを退治、その後突入か。

 人手不足で、突入時に外に見張りを置けないのが痛いな。

 万が一外から来たゴブリンと挟み撃ちにでも遭ったら、その時は強行突破するしかない。

 なるべくそうならない様にしないと……、これは時間との勝負だな。


「よし、行こう! 僕が接近するから、合図したら魔法で援護頼む」


「わかったよ!」


「……了解」


 岩陰を利用し、隠れながらゴブリンの近くまで移動する。

 見つかる限界まで接近したところで、手を挙げて後方の二人に合図を出した。


 その合図と共に、炎の矢と風の刃がゴブリンに向けて放たれた。

 それと同時に僕も影から飛び出し、ゴブリンに向けて突撃する。


 魔法は見事ゴブリンに命中、それだけでも十分倒せる威力に見えたが、念のためロングソードで斬りつける。

 ゴブリンは悲鳴を上げる暇なく、地面へと崩れ落ちた。


 見張りのいなくなった入り口からその奥を覗いたが、どうやら近くには他のゴブリンはいないようだ。

 ミウとミサキを手招きで呼び寄せる。


「うまくいったね、カナタ!」


「……お茶の子さいさい」


「ああ、一匹だけだったからね」


 話しながらも周りへの警戒は怠らない。

 一つの油断が命取り、ダグラスさんに嫌というほど教わったことだ。

 

「さて、突入するけど準備は良いかい」


「うん、大丈夫だよ!」


 ミウは僕の頭に飛び乗る。


「……いつでも大丈夫」


 ミサキも例の杖を構えて臨戦態勢だ。


「よし、入ろう!」


 僕たちは地下の暗闇へと足を踏み入れた。




 遺跡の地下道をゆっくりと、そして警戒しながら奥へと進んでいく。

 遺跡の中は湿気が体に纏わりつくようで、あまり良い空気ではない。

 奥に進むにつれ薄暗くもなっていくが、それについては徐々に目が慣れてきている為、今の所それ程苦にはなっていない。 

 ミサキ曰く魔法で明るく出来るそうだが、それではゴブリンたちに気付かれてしまう。

 ここは我慢するしかないだろう。


「ゴブリンって夜目は利くの?」


 ミサキに聞いてみる。


「……特殊な個体でない限り利かない」


 なるほど、条件は五分ってことか。



 曲がり角に差し掛かり、何やら前方に何かの気配が……。

 僕はミサキに無言で合図をする。

 どうやらミサキも気付いていた様だ。

 ミウも僕の頭から飛び降り戦闘態勢を取る。

 そして、そのまま息を殺して曲がり角で待ち構える……。


 ゴブリンが視界に入るや否や、僕は剣を袈裟斬りに振るった。

 ゴブリンの胸元から緑色の血が噴き出す。


「グゴアアッ!!」


 ゴブリンの断末魔の叫びが辺りに響く。

 その後ろに続いていたゴブリンが、仲間がやられたのを見て、怒りの形相で襲い掛かってきた。

 しかし、それよりも先にミウの魔法がゴブリン目掛けて着弾、ゴブリンの攻撃は中断される。


「だあっ!!」


 その隙を見逃すことなく、ロングソードによる一撃をゴブリンに放った。

 その斬撃の勢いそのままに、ゴブリンは仰向けに倒れる。

 だが、この場にいるゴブリンは二匹だけではなかった。

 さらに後方にいた赤いゴブリンの杖から炎の玉が発現し、唸りを上げてこちらに迫る。


 しかし、その炎は「ボンッ!」という音と共に僕の目の前で消失した。

 どうやらミサキが同じ炎の魔法で相殺してくれたようだ。

 さらに、それだけに止まらず、勢いの衰えを見せない炎が赤いゴブリンに命中する。

 威力はミサキの魔法の方が数段上のようだ。

 そして、炎の着弾とほぼ同時に、僕は赤いゴブリンの喉笛に剣を突き刺した。




「ふぅ……、もう来なそうだね」


 倒したゴブリンは全部で3匹、他にはゴブリンの気配はない。


「ミサキ、ありがとう。助かったよ」


「……問題ない」

 

 何でもないという風にミサキが答える。


「ミウも頑張ったよ!」


「ああ、ミウもありがとう」


 僕の胸に飛び込んできたミウを受け止め、そのままミウの頭を撫でた。

 ミウはそれが気持ちが良いのか目を細め、耳をぴくぴくさせる。

 撫でてる僕もその毛触りが気持ち良く、出来ればいつまでも撫でていたい所だが、現状を考えるとそういう訳にもいかないので、仕方なくその欲求を押し込め現実に戻る。


「……カナタ、気を付けて。相手のリーダーは少しだけ手強い」


「えっ。どういう事?」


 ミサキが何故そう思ったのか、僕には分からなかった。


「……さっきの戦闘でゴブリンメイジがいた。ボスはそれよりも上位種のゴブリン。……おそらくゴブリンロードあたりが妥当」


 なるほど、ゴブリンにゴブリンメイジが従う訳ないということか。


「……でも大丈夫、カナタなら余裕。私もいる。無問題」


「ミウもいるよ〜!」


「あの〜。戦力になりませんが私も……」


 仲間たちの発言が心強い。

 ゴブリンロードがどれほど強いか分からないが、スラ坊はともかく、ミウとミサキがいれば何とかなりそうな気がした。


「ちなみにミサキ、言ってなかったけれど、僕らはゴブリンの巣にある程度のダメージを与えれば良いわけで、無理に殲滅はしなくても大丈夫だからね」


「……それに越した事は無い。何事もチャレンジ」


 ……まあ、出来るようだったらね。





 その後、僕たちはさらに奥へと進む。

 その間、ゴブリンたちと3度の戦闘をこなすが、今のところ危なげなく乗り切れている。

 初めてとは思えないほどミサキとの連携も上手くいっており、順調なのが逆に怖いくらいだ。


「これで十数匹は倒したし、そろそろ引き揚げた方が良いかな?」


 気が付けば、かなり遺跡の奥へと足を踏み入れていた。

 挟み撃ちの危険を考えれば、ここは一端引き揚げた方が良いだろう。


「ミウはカナタに任せるよ」


「……一任」


「私はただくっついてるだけですから……」


 皆に判断を丸投げされてしまった。


 やはりリスクを考えると、ここは無理に進まない方が良いか……。

 数を減らしたいならば、わざわざ奥まで進まなくとも、もう一度来るというのも有りだしね。


「よし、じゃあ引き揚げよう!」

 

 僕たちはそのまま来た道を引き返すことにした。



 


 薄暗かった地下道が次第に明るくなり、出口に近いことが自然とわかる。

 ようやくこのジメッとした空気ともおさらばだ。

 恐らくもう一回来なきゃならないけどね。


 青空広がる解放された空間に一歩を踏み出そうとしたその時、ミサキに首根っこをつかまれる。


「ちょっ! ミサキ、何!?」


「……残念。殲滅コース確定」


 その言葉の意味はすぐに理解できた。

 正面に見えるのはこちらに迫るゴブリンの集団、その数およそ三十匹。

 その先頭には、他の緑の肌のゴブリンよりも一回り小柄な青色のゴブリン。

 あれがミサキの言っていたゴブリンロードなのか?

 その青色のゴブリンも、どうやらこちらに気付いたようだ。


「グギャギャギャギャッ!」


 何やら他のゴブリンに指示を出している。

 その言葉は僕には理解できなかった。

 どうやら全ての魔物の言語が分かるという事では無いらしい。


 遺跡の入り口を半円のように取り囲むゴブリンたち。

 やはり戦闘は避けられそうにない。


「やるしかないな」


「うん。ミウも沢山やっつけるよ!」


「……問題ない」


「私は邪魔にならないように引っ込みますので、皆さん頑張ってください」


 スラ坊が僕の腕から離れ、後ろへと下がる。


 僕はターゲットである青いゴブリンを睨んだ。

 負けじと睨み返してくるゴブリンロードと視線が交錯する。

 負けられない、総力戦だ!

 僕は汗ばんだ手を拭い、ロングソードを握り直した。



 

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