第11話 嫁降臨
お待たせしました。ミサキさんの登場です。
バレン村の北には草原が広がる。
そこはワイルドウルフの生息地になっており、以前カナタがダグラスと供に狩りをした場所でもある。
その草原からさらに北へ足を延ばすと、正面には岩山が見えてくる。
岩山は子供でも余裕で頂上まで登れてしまうほど低く、特に特筆すべき特徴も無かった。
しいて挙げるとするならば、南側との生態系の境界線になっている事ぐらいだろうか。
そしてその岩山を超えると、そこにはかつての旧文明の遺跡があった。
大きな岩が所々に重ねられているのは、かつての建物の礎の名残である。
今回カナタたちが目指すのはこの遺跡、そう、ゴブリンが巣を作った場所である。
「カナタ〜、遠いよ〜」
頭の上から、ミウがため息をつく。
そのセリフにはあまり緊張感が感じられない。
「ミウ、いつゴブリンが襲ってくるか分からないから、警戒だけはしておいてくれよ」
もう既に、目の前に岩山が見えている。
アリシアさんから聞いていた通りだ。
あれを越えればゴブリンの巣は目の前、ここいらをゴブリンが徘徊していても何らおかしくはない。
「わかってるよ。ちゃんと見てるから任せといて!」
本当にわかっているのかな?
少々不安になる。
「カナタ! ほら、あそこで何か動いたよ!」
ミウが僕の頭から飛び下り、小さな手でその方角を示す。
確かに何かが動いている。
あれは――人か?
「ねっ、ちゃんと見てたでしょう」
ミウが「どう?」とばかりに胸を張る。
「ははっ。流石です、ミウ様」
「うむ。苦しゅうないぞ」
さて、馬鹿をやるのはこれくらいにして、このままあの人を放っておく訳にはいかない。
「とりあえず行ってみよう! ゴブリンに襲われたら大変だ」
人のいる場所は岩山の上。
場所的にゴブリンの巣からの距離も近い。
僕たちは急いで人影の元へと向かった。
――そこには一人の少女が立っていた。
紺色の三角帽子に黒髪のボブカット、黒のマントを羽織っており、その恰好は魔女ルックとでも表現すれば良いのだろうか?
帽子の下から覗く、整った顔の美少女顔にはどこか影があり、例えるなら自らが輝く太陽ではなく、光を受けて輝く月のようであった。
年齢は、僕と同じくらいの十代半ばだろうか?
彼女はその場所を動かず、ただ、じっと無言でこちらを見つめている。
「あの……、ここは近くにゴブリンの巣があるから危険ですよ」
僕は彼女に駆け寄り話しかける。
しかし、彼女はまだじっと僕を見つめたままだ。
長かった数秒の時間が経過し、彼女がようやく口を開く。
「……大丈夫。私にとってゴブリンは雑魚、無問題」
どうやら彼女は自分の腕に自信を持っているようだ。
それならば大丈夫か。
「……貴方もおそらく強い。ここは協力してゴブリンを倒すべき」
ん!?
「カナタ〜。どういうこと?」
頭の上のミウが僕に説明を求める。
「……貴方達と一緒にゴブリン達と戦う」
彼女がミウを見て答える。
ミウの言葉を理解しているのか!?
僕は目の前の少女について観察する。
先程の発言といい怪しさ全開だ。
僕の中に警戒心が芽生える。
「……大丈夫、私は種族を差別しない。あなたのパートナーにぴったり」
怪訝な目を向ける僕に、少女は続ける。
「……それに女神様に、ここで待っているように言われた」
「えっ!? 本当に?」
唐突に出た女神様の名前に、僕は驚きを隠せなかった。
「……ええ。魔法も使える美少女が仲間入り。お得感満載」
流石に、いきなり僕を見て女神様の話はしないだろうから、嘘をついている訳では無さそうだ。
いや、その事については信じて良いだろう。
確かに、何匹いるか分からないゴブリンとの戦闘、戦力は多いに越した事は無い。
――不安はあるが、連れて行くか。
「わかった。信用するよ。僕はカナタ。こっちはミウで、彼がスラ坊ね」
「よろしく〜」
「よろしくお願いします」
ミウと供に、擬態を解除したスラ坊も挨拶に加わる。
「……私はミサキ。そのままミサキで良い」
「ああ、よろしくミサキ。ところで、女神様は何て……」
「……私の夢に出てきて、「力になって欲しいでちゅ」と」
欲しいでちゅ……ね。
間違いなく女神様だ。
まだミサキがどんな子かは分からないけれど、信用だけは出来そうだ。
しかし、ミサキは逆に良くそんな夢を信用したな。
その事をミサキに話すと――、
「……これを貰った。夢から覚めても持っていた」
ミサキは一本の杖を見せてくれた。
何これ? どこの魔女っ娘?
「……魔法の威力がかなり上がる。当社比1.5倍」
当社比って、この世界ではその言い回しは使わないよね!
しかもデザインは……。
まあ、威力が上がればそれはそれで良いのか。
この世界では斬新なデザインとしか思われないだろうし……。
その時、ふと後ろからした足音に全員が反応した。
「ミウ!」
「わかったよ!」
戦闘態勢に入ろうとした所で、ミサキから静止が入る。
「……ここは私がやる、任せて。……ファイアストーム!」
炎の大渦が、影から顔を出したゴブリン二匹を巻き込む。
哀れゴブリンはそのまま何も残さず、ただの消し炭になってしまった。
「ミサキすごーい!」
「……えっへん」
確かに凄い。
これは戦力としてかなり期待出来るのではないだろうか。
女神様に感謝かな。
「……ゴブリンの巣はすぐそこ。行きましょう」
ミサキに促され、僕たちは周りに気を配りながら岩山を下りて行った。
第七話 カナタの使用魔法
「ファイアストーム」→「ファイアサークル」へと変更
今回ミサキが使った魔法を「ファイアストーム」にしました。