第98話 蜥蜴族 VS ぽんぽこ族
「シャーザ様。マジックシールドを十個、前衛に配備できました。これで魔法にも対抗出来るでしょう」
赤い鱗を持つ蜥蜴族がシャーザに一礼をして報告をする。
彼こそが蜥蜴族の参謀にして唯一の魔法使い、ドルトである。
シャーザに留守を言いつかっていた為、前回の戦いでは戦闘に参加していない。
彼の後ろには大盾を装備した蜥蜴族が横並びに整列していた。
シャーザはそれを見て満足そうな笑みを浮かべる。
「よくやった。これであの人間どもも恐れるに足りん」
彼らの言うマジックシールドとは、その名の通り魔法を軽減・防御する盾。
何故彼らがそんなものを持っているのか?
その答えは数多の冒険者や商隊の犠牲無くして語れない。
「準備は出来ております。いつでも出撃可能です」
「よし! 今度こそ奴らに目に物を見せてくれようぞ!」
こうして、ぽんぽこの里は再び戦場となるのであった。
「くくくくっ……、こうなってしまっては隠れ里も名前だけよのう」
「我らが辿り着く前には、もう滅ぼされているかもしれませんぞ」
「「「「がっはっはっはっ!」」」」
焼野原を意気揚々と進軍する蜥蜴軍。
その数は百にも及ぶ。
準備は万端、さらには全軍を引き連れての戦闘ということもあり、前回の敗戦など気にもしていないかのような余裕だ。
「シャーザ様、獅子は弱い者相手にも全力を尽くすと言います。くれぐれも油断なき様」
神妙な顔で語るドルトの進言をシャーザは笑い飛ばす。
「かかかっ、そう心配するな。今回は始めから全力だ。参謀として心配性なのはわかるが、負ける道理が無いわ」
そこまで言われてしまっては、ドルトはそれ以上は何も言えなかった。
(豪胆にして猛勇、それがシャーザ様の魅力でもあるが……、何かが引っかかる。我らを退けたという人間と魔物、もしもまだ底を見せていないとしたら――)
一人不安に駆られるドルト。
しかし、考えてもその答えは出る筈もない。
(前回の戦い、推してでも私が行くべきであった。いや、今さら言っても仕方が無い。ここは参謀として全力を尽くすのみだ)
今さら戦いを止めることは出来ない。
自分自身の気持ちを強引に納得させ、ドルトは不安を振り払う。
そのことにより、蜥蜴軍の進軍を止める者は誰もいなくなった。
そして蜥蜴族はぽんぽこ族の里に辿り着く。
その入り口は前回の戦いから修繕されているようだ。
(こちらが大群でやってきたのに、物音一つしないとはどういうわけだ?)
ドルトはその様子を訝しむ。
そんなドルトを余所に、シャーザの山を揺るがすような号令が轟く。
「お前ら、やっちまえ! 皆殺しだ!!」
蜥蜴たちは力任せに里の入り口を破壊する。
その余勢を駆って、戦士たちが次々に中へとなだれ込んだ。
しかし次の瞬間、辺りに蜥蜴たちの悲鳴が響く。
「ぐえっ!」 「ぎゃあ!」
蜥蜴たちの前には、いつの間にか低い馬防柵のような物が地面から飛び出ていた。
後方から押し寄せる圧力の為、斜めに飛び出ている杭がより深く先頭を行く蜥蜴たちの身体に刺さる。
「何だ、何があった! 状況を説明しろ!」
ドルトが部下たちに向かって叫ぶ。
しかし、明確な答えは返ってこない。
「やた〜」
「成功です〜」
馬防柵の後方にはぴょこぴょこと跳ねながら撤退していくぽんぽこ族の姿があった。
「怯むな! 突き進め!」
シャーザの掛け声に勢いを増す戦士たち。
程無くして進路を塞いでいた馬防柵を破壊するが、蜥蜴族は既に十人ほどの犠牲者を出していた。
その状況を見て、シャーザは歯ぎしりをする。
「餌のくせにやってくれるじゃねえか! 野郎ども、一人残らず燻り出せ!」
「「「「「おう!」」」」」
一見無人のように見える里の探索を始める蜥蜴たち。
何人かを一グループに分け、手分けしてぽんぽこ族を探す作戦のようだ。
その中の一組が、ある家の中に入った。
扉の影や床下まで、虱潰しに探索を行っている。
その家の外に隠れていたのは3人のぽんぽこ。
手の中には太めの縄が握られていた。
「今です〜!」
「引くです〜!」
「くらえです〜!」
小さな手によって勢いよく引かれる縄。
縄の先端が括りつけられていたのは建物の支柱。
その支柱には何故か切込みが入れられていた。
「何だ!」 「て、天井が!」
勢い良く崩れた建物の下敷きになる蜥蜴たち。
「「「成功です〜!」」」
飛び跳ねて喜ぶぽんぽこたち。
三人は任務完了とばかりにそこから撤退を始める。
だが、運悪くその場を他の蜥蜴族に見つかってしまう。
「くくくっ! 見つけたぜ!」
涎を垂らしながらゆっくりと近づく蜥蜴族。
後ずさるぽんぽこたちだが、その顔にはまだ余裕の表情が見て取れる。
何故なら――、
「ぎゃあー!」
先頭の蜥蜴がいきなり炎に包まれた。
「うおっ! 何だ!」
「くそっ! どうなってやがる!」
その隙を見て、ぽんぽこたちは蜥蜴族の前から姿を消した。
里の中央にある大きな大樹。
そこでも蜥蜴族たちが探索を行っていた。
「まさか、木の上とかに潜んでいるんじゃねえだろうな」
蜥蜴族の一人が上を見上げたその時――、
「うわっ!」 「何だ!」
大きな網が地面から出現、彼らを丸ごと包み上げる。
「くそっ! こんな手に!」
「慌てるな、切っちまえば問題ない」
しかし、その網は何かの金属で出来ており、引きちぎることは容易では無い。
その近くの建物の陰には、やはりぽんぽこの姿があった。
「スイッチオンです〜」
ぽんぽこがスイッチを押した途端――、
「ぎゃー!」
「あばばばばば!」
流れる電流により、蜥蜴族が悲鳴を上げる。
そして数秒後、網の中の者は誰も言葉を発しなくなった。
落とし穴に落ちる者、岩の下敷きになる者、様々な報告が里の入り口の前に陣取るシャーザとドルトの元に届けられる。
シャーザは自らの拳を血管が破裂する位に握りしめ、その報告を聞いている。
その傍らで、ドルトはただ一人冷静に状況を分析していた。
(おかしいですね……。まるでこちらの動きが筒抜けになっている様な――)
しかし、その考えが纏まらぬうちにシャーザの我慢が限界に達する。
「どいつもこいつも役立たずめ! ドルト、出るぞ!」
自らの親衛隊とでもいうべき精鋭たちを引き連れ、シャーザは自慢の長槍を宙で振り回す。
ドルトは言い様も無い不安を抱えたまま、シャーザと供に戦場に入っていった。
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