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第9話 初依頼達成!

「ふぅ……、無いなあ……」


「あっちにそれらしいのが生えてるよ。行ってみよう!」


 一つひとつ草をかき分け、お目当ての薬草を探す。

 結構簡単に見つかると思ったのだが、見通しが甘かった。


 探しているのはヒナタ草、調合するとポーションになる薬草だ。

 その為、需要は減ることが無く、ギルドでは常時、採取依頼を出している。

 報酬としては二束で銅貨一枚、ただし似たような毒草があるので注意。

 ――と、ギルドで見た資料に書いてあった。


「カナタ! あったよ!」


 ミウが器用に掘り起こしたそれは、確かにヒナタ草だ。

 ミウはすでに四束見つけている。

 僕はというと……、うん、これからが勝負だな。

 

 この依頼の厄介なところは、ヒナタ草と毒草との違いが根っこの部分にあり、抜いてみないと区別がつかない所だ。

 僕の抜いたものは残念ながらすべて外れ、中々旨くいかないものである。





「これくらいにしとこうか?」


「うん、そうだね」


 あれから数時間、何とか僕もヒナタ草を発見できた。

 僕が十五束、ミウが三十五束、収入でいうと銅貨二十五枚、宿一日分には少し足りない。

 ウルフたちの素材収入があってよかった。

 余裕があるうちに、早くランクを上げて収入を増やさないと……。

 そんな事を考えていると、後ろの草むらから何かが動く音がした。


「ミウ!」


「うん、分かってる」


 後ろを振り向き、警戒態勢を取る。

 その音は次第にこちらに近づいてくる。

 そこに現れたのは――。


「スライムか!」


 青い体をくねらせながら移動するスライムが目の前に現れた。

 スライムもこちらに気付いたようで、その歩みを止める。

 こちらもロングソードを抜き、臨戦態勢を整える。

 しかし、その後に起こったことは、こちらの予想だにしえない物だった。


「こんにちは」


 そう、そのスライムさんは話しかけてきたのである。






「すいません、何か治癒魔法までかけて頂いて……。実は先ほど魔物に襲われてしまいまして、何とか逃げ出したところだったんですよ」


 スライムは柔らかい体を使って、身振り手振りで説明する。

 いや、あなたも魔物なのでは? という突っ込みはあえて入れなかった。


「大変だったね〜」


 ミウが相槌を打つ。

 

「しかし、私の言葉が分かる人に初めて会いました。何か特殊な技能をお持ちなんですね。いつも駄目元で話しかけているのですが、問答無用で襲い掛かられてまして……」


「いや……、まあ……ね」


 さすがに異世界から来ましたとは言えないので言葉を濁す。


「あの〜、そこでお願いなんですが……、私も一緒に連れてってくれませんか?」


「え!? 一緒って……」


「はい、今日も命が危なかったんです。このままだといつか死んでしまいます。スライム助けだと思って是非お願いします!」


 どうやら冗談ではなさそうだ。

 しかし、スライムを街中で連れ回すわけにはいかない。

 どうしようか……。


「この身体は目立たないようにしますから、ご心配はいりません。ちょっと失礼します」


 スライムはそのまま身体をゴムのように伸ばし、僕の腕に巻きついた。

 驚く僕にお構いなしで、その場でもごもごと動いて形を整える。

 なるほど、小手のようなアクセサリーに見えなくもない。


「これなら目立たないと思うのですが……、どうでしょうか?」


 まあ、実害は無いようだし、構わないか。

 少し考えた後、僕は結論を出した。


「分かったよ、一緒に行こう。ミウもそれで良いかい?」


「うん、ミウは構わないよ」


 このスライムには名前が無かったのでスラ坊と名付ける。

 こうして、スライムのスラ坊が僕たちの新たな仲間となった。





 


「はい、ヒナタ草が五十束だから銅貨二十五枚ね。ちょっと少ないけど初めはこんな物よね」


 ヒナタ草の報酬をマリアンさんから受け取る。


「やっぱり少ないんですか?」


「ええ、そうね。多い人は一日で百五十束は持ってくるわよ。もっとも採取専門で長年やっている人だけどね」


 なるほど、どの世界にもその道のプロっているんだなぁ。


「まあ、気にしなくっていいんじゃない、カナタくんはカナタくんで。別に採取のプロになろうって訳では無いんでしょ?」


 いや、初めに少ないって言ったのはマリアンさんなのだが……。

 それを口に出す勇気は無いので、心の中でだけ突っ込みを入れておく。


「これで三回連続依頼達成ね。あと七回頑張ってね!」


 マリアンさんに笑顔で見送られ、僕らは冒険者ギルドを後にした。





 宿に着き部屋に入ると、ミウはそのままベッドに勢いよく飛び込んだ。


「こら、ミウ。体拭いてからにしてくれ!」


「え〜っ。疲れたもん」


「だ〜め。外で土いじりしてたんだから。洗面道具借りてくるからちょっと待ってて――」


「あの〜。よろしければ私が綺麗に出来ますよ」


 スラ坊が僕の腕から離れ、スライムの形へと戻る。


「ん!? スラ坊、何か出来るの?」


「ええ、いきますよ! クリーン!」


 ミウの周りが一瞬キラキラと輝いたかと思ったら、その光はすぐに消えた。


「どうですか、ミウさん?」


「うん、凄いよ、スラ坊! 汚れが消えてるよ。カナタ、これなら文句ないよね」

 

 確かに汚れが消えている、見事なものだ。


「ああ、もちろん。へえ〜、こんな魔法もあるんだ?」


「カナタさんにも……、クリーン! どうです?」


「うん、いい感じだ。綺麗になったよ。ありがとう、スラ坊」


「うん、ありがとね。スラ坊」


「いえいえ、どういたしまして。戦闘でお役にたてそうもないので、我儘言って連れてきてもらった手前、これ位は役に立たないと……」


 そんな事、あまり気にしなくていいのに……。

 

 スラ坊の使った魔法は、服もそのまま綺麗に出来るとの事。

 洗濯しなくても良いのは大分助かる。

 洗濯機なんてこの世界には無いので、服の洗濯方法としては、洗濯板で自分で洗うか、宿に依頼するかどちらかだ。

 もちろん後者には料金がかかる。

 節約の面でもスラ坊はこれから役に立ってくれるだろう。



 体を拭く手間が省けた僕たちは、次はお腹を満たすために食堂へと足を運ぶ。

 ミウはそのままベッドで寝ているかと思いきや、食事と聞いたらすぐさま俺の頭に飛び乗った。

 流石食べ盛りの健康優良児である。

 そのまま一階に降り、ミウと二人で夕食を取る。

 そこで僕は、幾つかのおかずを少し食べきれなかったという事にして包んでもらった。

 もちろんスラ坊用だ。


 おかずを持ち帰ると、スラ坊は嬉しそうに食事を始めた。

 スライムは、水さえあれば何日かは食事をしなくても生きられるらしいが、それではあまりにも可哀そうだ。

 食事は生きるためなのはもちろん、楽しみでもあるからね。

 スラ坊も食事の味は分かるらしいので尚の事だ。

 ちなみに、今日の夕食は美味しいとのこと。

 人間と味覚が変わらずで何よりだった。


 


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