ケース2ー1 欲
前フリです。
ある日のことだった。
俺はいつものとおりバイト中だった。
そのバイトとは、とあるゲームの運営のバイトだった。
この不況のご時勢にこのゲームの運営会社は、運営のほとんどを人間を使っている。
理由としてはシステムの精度を高水準に保つためだそうだ。
ゲームの運営をプログラムだけでシステム化せずに、あえて人間を仲介にすることでリアルタイムにエラーなどに対応できるようにしているのだ。
確かにそれによってこのゲームの水準は守られているかもしれないが、人件費も決して安くないだろうになぜこんな体制が何年も続いているのか俺には謎だった。
まぁ俺もこの体制の恩恵を受けているわけだから、どうこうしようとは思っていない。
実際俺もゲームの運営に関われて嬉しい気持ちもあることだし。
だが、後々になって思い出してみればこの体制はより多くの人間を巻き込むためのものだったのではないかと思い始めてきた。
俺たちバイトスタッフはデバック用のアカウントを使い、ゲームに参加する。
このゲームのデバッカーの仕事は、大きく三つある。
常日ごろから寄せられる大量のバグ報告メール(大半はバグではなく仕様)にフィルタリングを通したものをさらに自分の目で見てメールを整理する仕事。
整理が終わったメールは、その日の勤務スタッフにほぼ均等に配られるので、そのメールの内容を一件一件検証していく仕事。
検証したデータをもとに、検証時に使ったゲームデータをコピーしてデバックする仕事だ。
デバック用のアカウントでゲームにログインすると、ゲーム画面にデバック用のコンソールが現れる。
その日もいつものようにデバック作業をしようとしたときだった。
例のあれがおきたのだ。
何の前触れもなく、唐突に意識が途切れたかと思えば、気づいたらゲームの中にいた。
何がなんだかわからなかったのもつかの間のことだった。
モニター越しとは言え、趣味を大半を費やしているゲームの画面がこの目に焼きついていないわけはなく、当然のごとくその景色と目の前の景色が重なった。
俺はゲームの世界に入っているんだ、もしかしたら夢の中なのかもしれないなんていう考えは一旦捨てて、そのときは喜びにふけった。
そして、そのときにふと視界にあった『違和感』があった。
その違和感の正体は、デバック用コンソールだった。
今思えば、このゲームの中でデバック能力を持った俺が、身勝手なことをしていなければ、ことはもっとうまく運んだのではないかと思う。
人間の欲というのはその人智を超えようとすらするほど大きいものだと、実感した。
この次はちょっとあれな話(R15的な意味で)の話を入れていこうと思ってます。